独自チップ「M1」を積んだMacBook Airは、性能面で過去のモデルを圧倒している:製品レビュー

アップルの独自チップ「M1」を搭載した新型「MacBook Air」が発売された。その性能は、ほんの8カ月前に発売されたインテル版の旧モデルどころか、19年モデルの16インチ版MacBook Proを上回る勢いである。懸念されていた互換性の問題も心配ないレベルで、過去のモデルを圧倒する製品に仕上がっていた──。『WIRED』US版によるレビュー。
MacBook Air
PHOTOGRAPH BY APPLE

新型の「MacBook Air」を試してから8カ月近くがたったいま、また別の機種のレビューを書いている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)があろうとも、アップルはデバイスの量産をやめようとはしない。実際のところアップルは、「単年度に投入された最多製品賞」でも獲ろうとしているかのような勢いだ。

このほど発売された新型MacBook Airは、外観上は8カ月前の旧モデルそっくりである。リサイクルアルミ製の筐体を同じように使いし、まったく同じ(そして素晴らしい)「Magic Keyboard」も備えている。USB-Cポートは残念なことにふたつしかないが、データ転送速度が優れているUSB4規格が採用されている。

ところが、ふたつのマシンの中身はまったく違っている。新モデルはアップルが設計した独自プロセッサー「M1」を初めて採用したMacのひとつなのだ。

アップルは2006年以降、インテルのチップを搭載したコンピューターをつくってきた。それが今年、自社製チップを使ったノートPCとデスクトップPCの生産を始めた。チップを自社製とすることで、ハードウェアとソフトウェアに関しての大きな自由を得られた。独自設計のチップを採用している「iPhone」や「iPad」と同じ自由だ。

新しいMacBook Airと丸一日を過ごしてみると、改良点にすぐ気付く。インテルのチップを搭載したMacの最上級モデルの多くと同程度のパワーを備え、今年はじめに発売されたMacBook Airの上位機種の処理速度の限界をゆうに超えている。M1はMacの進化ではない。Macの革命なのだ。

最適化されたアプリは滑らかに動作

M1を搭載したノートPCは、いまのところMacBook Airと13インチ版「MacBook Pro」のエントリーモデルしかない。MacBook Airの基本モデルは高価格なMacBook Proよりグラフィックコアがひとつ少ないが、初めて両者でおおむね同じ性能を得られることになる。

「おおむね」というのは、MacBook Airにはファンが付いていないからだ。つまり、チップの能力を最大限に引き出すことができない。一方でMacBook Proのファンはチップを冷却してくれるので、プロセッサーを長時間にわたって高負荷で稼働させることができる。

ファンがないことは大事なのだろうか? ほとんどのユーザーにとって、答えは「ノー」だ。今回のMacBook Airの性能は過去のモデルを圧倒している。「Geekbench 5」のCPUベンチマークテストにおいて、新型MacBook Airのシングルコアのスコア(1,692点)は、19年モデルの16インチ版MacBook Pro(1,207点)を超えていた。マルチコアの性能でも匹敵する(7,264点と7,536点)勢いだ。

実際に使ってみたとき、個人的には「Safari」が大幅に改良されていることにまず気づいた。動作は極めて滑らかで、30以上のタブを楽に処理できた(個人的にピン留めのタブが好みだ)。

新しいM1プロセッサーに最適化されたSafariのようなアプリは、高速できびきびと動く。動作がカクカクしたり、止まったりしたことは一度もない。

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互換性には、ほぼ問題なし

インテルチップを念頭につくられたアプリも、「Rosetta 2」(インテルの「x86」アーキテクチャー用につくられたアプリをアップルのチップで動くように変換するシステム)のおかげで完璧に立ち上がるという点は、いいニュースだろう。インテル用のアプリを初めてダウンロードしようとすると、Rosettaのインストールを促すプロンプトが表示される。インストールには数秒かかるが、その後はいつものように使える。

これらの「Rosettaアプリ」は、これまでのMacBook Airよりも動作が向上している。シンプルな16分間の4K映像を「Adobe Premiere Pro」でスムーズに編集できたし、エクスポートにも8分しかかからなかった(エフェクトや色補正は実施しなかった)。「Adobe Photoshop Lightroom」のメディアライブラリーは立ち上げ時に数秒間カクカクしたが、コンサートピアニストのような優雅さとスピードでRAWファイルを編集・エクスポートできた。

アドビのようなデヴェロッパーは、M1チップのすべてのフレームワークを活用した新ヴァージョンのアプリを最終的にリリースするだろう。性能の向上だけでなく、アップル製チップの拡張された機械学習プロセッサーの利点を生かした新たな機能も追加されるはずだ(「Adobe Photoshop」のベータ版は現在も使える。アドビは「Lightroom」のベータ版を来月リリースすると説明している)。

そのような最適化を、より早く取り入れられるアプリがあることは明白だ。「Google Chrome」を使った際にもSafariと同じくらいのタブを立ち上げてみたが、ページのロードやタブの切り替えに時間がかかることがたまにあった。15個くらいのタブではChromeのほうが優れていたが、それはSafariが処理できる数の半分以下である。

PCゲーミングプラットフォーム「Steam」でライブラリーをスクロールしてみると、古い16インチMacBook ProよりもMacBook Airのほうが遅かった。システムを更新する義務は開発企業にあるわけだが、Macアプリの大半がM1に最適化されるには、まだしばらくかかるだろう。

高性能なのにファンレスで静か

以前のMacBook Airを使っていたときは、性能の上限に達して作業が制限されてしまう感覚があったことを、よく覚えている。今回の機種では、そのようなことはほとんどない。M1では、もっと実現できることがあるような気がする。また以前の機種では、レースゲーム「Asphalt 9」でのドライヴィング体験は相応に速かったが、アクションパズル「GRIS」のような重いゲームで遊んだり、Premiere Proのような重いアプリを操作したりしたときには動作が遅くなることがあった。

「バットマン アーカム・シティ」は、最高のグラフィック設定(解像度は低めの1,900×1,200だったが)で毎秒60コマで安定してプレイできた(最高の解像度では平均45コマ程度だった)。1時間プレイしたあとでも、MacBook Airが不快なほどの熱を発することはなかった。放熱用のアルミニウム製ヒートスプレッダーが備わっているのだ。

専用のグラフィックカードを搭載した16インチのMacBook Proでも、最高の解像度で同じゲームを60コマでプレイできることは確かだが、プレイ中はボディから離陸前のジェット機のような音がしていた。MacBook Airは静かで、それこそが重要なポイントである。

これは1週間のテスト期間中に何度もありがたいと思った点だった。なにしろ、ちょっとした騒音すらなかったのである。マンションの部屋でファンの騒々しい音が聞こえたとき、それはすべてわたしのパートナーが使っている古いMacBookのものだった。

朝から晩までもつバッテリー

M1による改良点で、性能に次いで個人的に気に入ったところがふたつある。それはバッテリーのもちと、コンピューターが瞬時に立ち上がる点だ。

後者は文字通り「瞬時」という表現がふさわしい。スリープ状態を解除すると、すぐに使うことができる。まるでiPhoneやiPadの画面をタップしたときのようだ。古いMacを使っていた人にとっては大きな違いとなるだろう。本体を完全に開く前に画面がオンになり、準備が整うのだ。

ちなみに今年3月に掲載した旧型MacBook Airのレビューを見てみると、不満な点のひとつとして「バッテリーのもちに改善の余地あり」と書かれている。以前のモデルは、(朝9時ごろに使い始めてから)ほとんどSafariしか使っていない状態でも、午後4時には電源アダプターにつなぐ必要があった。

関連記事製品レビュー:「MacBook Air」(2020、インテル版)は“キーボード問題”の解決で、買い換える価値があるマシンへと進化した

これに対して新しいMacBook Airで同じようにSafariを使ってみたところ、1日が終わるまで電源につなぐ必要はなかった。午後5時の時点でバッテリー残量は、38パーセントだったのである。次の日にChromeで同じように試してみたが、ほぼ同じ結果だった。午後7時まで使い続けたところ、バッテリー残量は22パーセントとなった。このマシンは文字通り、朝から晩まで使うことができる。

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iPhoneのアプリも使えるが……

M1がもたらしたさらなる恩恵として、MacでiPhoneやiPadのアプリを動かせるようになったことが挙げられる。iOSもiPadOSも、新型MacのM1と似たアップル独自のチップで動いているので、そんなことも可能になるのだ。

「Mac App Store」でアプリを探してみると、「iPhoneとiPadのアプリ」というタブが新設されている。FacebookのiPhoneアプリをインストールしてみたところ、きちんと動いた! とはいえインターフェイスは不格好で、タッチスクリーン向けにデザインされたことは明らかである。そして、それはアップルがノートPCに追加することを避けてきた機能だ。

しかし繰り返しになるが、アプリを画面に最適化させるのは開発者の責任である。デヴェロッパーはモバイルアプリをMacで使えないようにすることもできる。例えば、NetflixやInstagram、グーグルのアプリはStoreにはない。

現在の環境でこれらのアプリが利用できることの有益性は、あまり理解できない。だが開発者がアプリの最適化に時間を割けば、MacからiPhoneへの移行はかなりシームレスになるだろう。

ウェブカメラに(相変わらず)課題

前の機種と比較して、目新しい点はほかにはあまりない。Netflixのドキュメンタリー映画『悠久の地、サッカラ遺跡: 眩き時代を語る』のような作品は、13.3インチの画面で本当にシャープに観ることができる。そして最新のOSである「macOS Big Sur」ではNetflixの4K HDRがSafariに対応したので、『プラネットアース』のようなシリーズではまばゆいばかりの豊かな色彩を楽しめる。

スピーカーとマイクはしっかりしているが、アップルはウェブカメラをとっくに改良してもいい時期だろう。いまだに解像度が720pのカメラ(しかも顔認証「Face ID」にも対応しない)なのだ。アップルは画像処理アルゴリズムの改良で性能が向上したと主張しているが、品質はそれほど高くない。

実際のところ、色合いが正確ではないのだ。仕事でヴィデオ通話した際に、自分の肌が赤すぎることに自分でも気づいたし、同僚も気づいた。それに、部屋は全体的に緑がかった感じに見えた。照明のよくない部屋だったら、さらにひどいことになるのは言うまでもない。

それでも今回のMacBook Airは、素晴らしくスリムかつ軽量のボディで、かなり完璧なパッケージを提供してくれている。価格はいまだに999ドル(日本では税別10万4,800円)と高めである。だが、ほとんどのタスクをやすやすとこなせる強力なマシンなのだから、納得できないほど高いとも言えないだろう。

購入するなら標準モデル

最後に、どのモデルを購入すべきなのか。結論から言えば、7コアのGPUと256GBのストレージを備えた標準モデルがいい。512GBのストレージ容量が必要でない限り、追加のGPUコアにプラス250ドル(日本では25,000円)の価値があるとは思えない(多数のアプリを同時に使う傾向のあるユーザーはRAMを16GBにアップグレードしたくなるだろう)。

毎日のように重いアプリ(Chromeだけでなく)を使うなら、13インチのMacBook Pro(日本では税別13万4,800円から)を選ぶといい。このモデルはまだテストしていないが、(おおむね)同じチップを使っているので、ファンや追加のGPUコアの性能はそれなりに向上しているはずだ。バッテリーのもちもいいだろう。

しかし、もし自分がプロレヴェルの作業を主な用途にしているなら、アップルがMシリーズのチップを搭載したMacBook Proの上位モデルを出すまで、できる限り待つと思う。開発者にとっては、さらに最適化されたアプリをリリースするまでの猶予が生まれることになる。M1を搭載したMacBook Airが、8カ月前のモデルからどれだけ飛躍したかを考えると、さらなる大きな飛躍の舞台は整っていると言っていい。

※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら


◎WIREDな点
驚くほど長もちするバッテリーで、1日分以上の作業にも耐えられる。Rosettaアプリも含め、全体的に優れた性能。軽量かつスリムで、絶対的な静音性を誇る。スピーカーやキーボードも素晴らしく、良質のディスプレイと確実な品質のマイクを備えている。

△TIREDな点
ウェブカメラはいまだ改善の余地あり。ポートはもっと欲しい。iPhoneやiPadのアプリは(いまのところ)多いとはいえない。Rosettaアプリの最適化については時間が必要だろう。


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TEXT BY JULIAN CHOKKATTU