100年に一度の大変革に直面する世界の自動車産業は、モビリティ産業への変革を迫られている。世界の自動車産業が、電動化をはじめとする「CASE革命」の大激変や、MaaSへの対応を進めてきた。

そのさなかに新型コロナウイルスが突如として猛威を振るい、世界は一変した。これからのウィズコロナ時代の自動車産業における新常態(ニューノーマル)とは。

世界の移動ニーズと消費行動、市場特性の変化を読み解き、説得力のある数字に基づいて先行きを展望する書籍『自動車 新常態(ニューノーマル)CASE/MaaSの新たな覇者』(中西孝樹〔著〕、日経BP日本経済新聞出版)から、4回にわたってエッセンスを紹介する。

脱都市化と公共交通分担率の低下―2つの構造変化

コロナが及ぼすモビリティの変革や自動車産業への影響は、地域によって大きな差異があることを認識している。
日本国内だけでも、都会と郊外、地方でコロナに対する受け止めが大きく違う。自動車の保有動向や走行距離に及ぼす影響は各国で大きくばらつくだろう。
自動車ニューノーマルを語るうえで、どの地域のどういった条件下の変化なのかを、解りやすく整理することが重要である。
インコロナの最中は、ヒトの移動量がどれだけ落ちたとか、公共交通の利用がゼロになった、社員全員が在宅勤務になった、だから世の中はこう変わるなどという安直な議論もあった。
ウィズコロナに入り、新しい生活様式とともに我々の生活や労働の多くが以前のスタイルへと回復してきており、ビフォーコロナの頃と同様の状態に復元される要素もあるだろう。
そういった因子が複雑にからみあって、自動車ニューノーマルが形成されていく。予測は単純にはいかないのである。
そこで、自動車ニューノーマルを地域的な類型に落とし込むため、何が重要な変化であるかを再考した。
コロナによる社会生活への影響を改めて挙げれば、デジタルの利便性や効率性の発見と同時に、リアルな活動の喜びを再認識したこと、社会は大きな抵抗も受けずにデジタルインフラの構築と生活様式のデジタル化を確立できたことだ。
リアルな生き方を重視しながらも、非接触型の社会構造が作られていくことは間違いない。
筆者が着目するコロナによる移動と暮らしの恒久的な変質とは、「脱都市化」と「公共交通分担率の低下」というつの構造変化である。

自動車ニューノーマルの6類型への分類

図表4-1には、縦軸に在宅勤務比率をとり、横軸にはポストコロナの公共交通分担率を示 し、主要都市別に分布させたものだ。
在宅勤務比率とはデジタル社会へのベクトルを示し、公共交通分担率の低下は脱都市化へのベクトルを示している。
右上に行くほど、コロナから大きな影響を受け、生活様式とモビリティの変化が大きいと予測される。
先進国都市の分布は大きく6つのグループに色分けできる。

①先進国大都市型

在宅勤務の普及率が高く、公共交通の依存を脱していく都市であり、ニューヨーク、ロンドンのような欧米の人口1000万人以上の大都会があてはまる。
世帯の郊外、地方都市への移動が顕著となり、オフィスの郊外、地方都市への移動も起こり得る。
しかし、自動車保有にとっては、保有台数の低い地域から相対的に多い地域に世帯数の移動があるため、むしろプラスの効果が予想される。

②米国都市型

一定の在宅勤務の定着は残るが、従来から公共交通の利便性に恵まれておらず、クルマ社会の基本構造に変化が小さい地域だ。
在宅勤務増加、電子商取引(EC)の拡大で車両の稼働率低下は見られるが、自家用車での移動が基本に残るため、世帯の保有構造にまでは大きな変化は生じないだろう。
したがって、ビフォーコロナに近い状態へ復元が進む公算が高い。非接触型移動を重視し、人流MaaSの普及が遅れることも考えられる。

③欧州大陸都市型

恐らく先進国での変容としては大きな規模に発展する可能性が高い。
在宅勤務の普及、定着率が高く、同時にポストコロナでも公共交通依存が続く。
短期的に公共交通機関の利用、自家用車(POV)移動、MaaS移動が混在し、長期的には都市機能の分散がいっそう進み、それぞれをつなぐ移動はPOVに依存しながらも、都市内ではPOVの利用を制限し、人流MaaSの普及も進む公算だ。

④アジア都市型

一定の在宅勤務は定着しても、主だった交通政策は取られず高い公共交通依存がポストコロナでも維持される。
都市部から郊外への暮らしの広がりは多少はあるだろうが、移動様式はビフォーコロナの状態へ復元される公算が高い。

中国都市型、新興国都市型では自動車普及拡大が続く

中国都市の具体的な情報が不足しているが、公共交通の利用率はほぼビフォーコロナの状態へ復元されており、在宅勤務の概念すらない。
商取引のオンライン比率が極めて高く、デジタル嗜好の強い社会ではあるが、自動車の変革に関しては、中国都市は分布図の底辺領域に広がる。
実際、中国の市民生活はビフォーコロナのレベルをほぼ復元している。

⑤中国都市型

POVの保有欲が強まり、高級車も小型車も新車販売は好調である。
個人消費のオンライン比率が高い地域であるが、新車購入でのオンラインによる顧客接点やイベントは急増しているにもかかわらず、新車購入に対しては自動車ディーラーとの取引を求めるリアル志向が依然として強い。
アフターコロナで特徴的なことは、中古車市場の形成だ。
中古車取引に拍車が掛かり始めており、これは中国の新車需要構造を新規購入中心から、代替・更新需要の構成比の増加へ転じさせる契機となりえよう。

⑥新興国都市型

コロナ以前から公共交通への依存度は低く、道路インフラも不十分で慢性的に渋滞を抱えてきた。
労働集約型の産業構造ゆえ在宅勤務は困難であり、アフターコロナにおいてもPOV保有を夢に抱く地域である。
感染防止を理由に二輪車や自転車の需要増加が期待されるが、経済環境が厳しく、その実現には時間を要する公算である。
※本連載は全4回続きます
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