2020/11/21

【奥野一成】ディズニー株はなぜ最強なのか

NewsPicksアンカー
10月〜隔週配信で、新番組「INVESTORS」が始まった。

レジェンド投資家 奥野 一成氏と佐渡島 庸平氏(コルク代表)、NewsPicksアンカー&アナウンサー3人組からなる「インベスターズ」がお届けする投資リアリティショー。
インベスターズが独自リサーチ&プレゼンを行う「実践編」と「勉強編」を通して、長期投資について学んでいく。
「INVESTORS EXTRAS」では、番組内で深堀りしきれなかったことを奥野氏からインベスターズのリーダー、徐 亜斗香が詳しく学びます。
今回は、「INVESTORS」初回で奥井アナが投資したディズニー社の「儲けの泉」について深掘りします。
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愛されるコンテンツ創りの秘訣

 :前回の収録時に出たディズニーの「儲けの泉」について詳しくお聞きしたいです。
「儲けの泉」とは、ディズニーでいうミッキーのような、どんどん収益化できる知的財産のことを指していますよね。
ディズニーは「儲けの泉」であるミッキーをはじめとする主要コンテンツを持っていますが、どのように次々と多くの方々に愛されるコンテンツを創り続けることが出来るのでしょうか?
奥野 :ディズニーはミッキーマウスだけではなく、色々なコンテンツを持っています。
アナと雪の女王、アベンジャーズ、カーズ(Pixar)、といった色々なコンテンツを組み合わせることで「儲けの泉」が無限に吹き出します。
例えば、アベンジャーズにはスパイダーマンやアイアンマンが登場します。
ヒーローが10人いたら「儲けの泉」が無限に吹き出すことこそが、ディズニーが面白いコンテンツを沢山持っていて無限に拡大することができる秘訣なのです。

面白い他コンテンツの買収

奥野 :ディズニーといえば、昔はミッキーマウスだけでしたが、今はどんどん他のコンテンツを買収しています。
アベンジャーズやインクレディブル・ハルクというのは、ディズニーが他から買収してきたキャラクターなのです。
様々なコンテンツを、前CEOのボブ・アイガーが狙いを付けて買っていったのですね。
 :どういったコンテンツに目をつけて買うのでしょうか?
奥野 :グローバルな広がりを持てるコンテンツや敵になるものを買っていきます。
Pixarなどもそうで、ディズニーは元々手作りで漫画を作っていたのですが、Pixarはコンピューターグラフィックで漫画を作っていました。
ここで取り込まないとディズニーは負けていくと思ったのでしょうね。
買うことが出来るのはそれなりの規模感があるから出来ます。規模感があって、事業性を評価出来る経営者がいれば敵が減っていきますね。
 :敵を仲間にしていくからですね。

Disney+はNetflixと戦えるのか

 :敵といえば、Disney+にはNetflixという競合がいますが、Disney+はNetflixに勝つことができると思いますか?
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奥野 :Netflixがやっているコンテンツの「愛の不時着」や「全裸監督」は今のトレンドにあったもので、今流行るものを今の俳優と女優を使って作っています。
そうすると、流行りのものを作るということでコストが高くなるわけです。
しかも、今の流行りのものだから、10年後にも流行り続けるかというと、それだけのクオリティーが保てられるかわかりません。
そんな中、ディズニーの白雪姫なんかは知らない人はいませんよね。
 :はい、シンデレラとかもそうですね。
奥野 :そういうものは僕らのおばあちゃんも観ていたし、僕らの娘や息子も観ていく。
つまり、重要なのは旬のものではありません。
 
【3分決算】ディズニーvsネットフリックス、どちらが「上」か

流行りではなくストーリーが大切

奥野 :ディズニーは、人間の元々ある信賞必罰や「良い人は報われる」といった人間の根底に流れるメッセージをわかりやすい形でストーリーに仕上げています。
こういったストーリーは10年後も20年後も心に響きます。
その時々に使っているキャラクターがプーさんや白雪姫であって、メッセージはずっと使われ続けます。
しかも、ディズニーの場合、維持コストがタダじゃないですか。
 :同じキャラクターですもんね。
奥野 :そうです。ディズニーの場合、昔創ったキャラクターを今使っているだけです。
しかし、Netflixの場合は俳優さんに出演してもらうので新たなコストがかかります。
なので、利益の質としては明らかにDisney+の方がNetflixより出やすいと思っています。

ディズニーの元々の知名度

奥野 :ディズニーには元々の知名度があります。
Disney+は、アメリカで去年ローンチしたばかりでまだ2年経っていないのにも関わらず、もう加入者(サブスクライバー)が7,000万人を超えています。
Netflixは20年以上前の1997年に創業されているものの、加入者はまだ2億人です。
売上に関しても、伸びはおそらくDisney+の方が高くなります。
Disney+ 3つの最強説

①利益の質が高い
②長持ちするストーリー性
③元々の知名度がある

オーナー=客ではない

奥野 :消費者としてNetflixの方が楽しくても、それとNetflixが儲かるかは別ですよね。
どっちのオーナーになりたいかというのが株式投資だとすると、別にどっちが楽しいかは関係ありません。
 :だからこそ自分の主観で投資先の銘柄を選ぶのではなく、数字やあらゆる情報を比べて選ぶべきだということですね。

ディズニーランドが閉園しても大丈夫

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 :今回の新型コロナウイルス拡大の影響を受けて、ディズニーランドが一時閉園し、オリエンタルランド社も給料カットが続いています。
そのような状況を受けて、ディズニーは「売り」なのではないのでしょうか?
奥野 :「儲けの泉」としてディズニーはコンテンツを持っています。
その中の1つのアプリケーションがディズニーランド。アプリケーションの他の形態として、Tシャツやグッズがあります。
そういったアプリケーションの中で、今、最大の伸びを見せているのがDisney+です。
アプリケーションの形は予想もできないほど変わっていきますが、大事なのは「儲けの泉」があることであって、アプリケーションのひとつひとつが栄枯盛衰を受けるのは当たり前のことなのです。
今回はディズニーランドが壊滅的な打撃を受けており、いつ戻るかわかりませんが、「儲けの泉」がある限り、別のアプリケーションがそれを補ってくれるということです。
 :「儲けの泉」があるからこそ、ディズニーランドの営業が好調であろうと不調であろうと大きな側面から見るとディズニー社全体への影響はそこまでないということですね。

みんなが「売り」の時は「買い」

奥野 :仮説として「儲けの泉」を確定できるのであれば、みんなが「売り」だという時こそ、最大の買い場になります。
なので、株式投資はとてもガッツのいること。なんせ、人と違うことをしないと儲からないからです。

経営者が最も重要ではない

 :「買い」といっても、積極的な投資により現在のコンテンツポートフォリオを築き上げたCEOのアイガー氏の退任はまずいのではないでしょうか?
奥野 :我々長期投資家として会社のオーナーになるにあたって、それは重要な論点ではあります。
優秀な経営者がいるに越したことはありませんが、バフェット氏曰く、
馬は騎手がいるから走るわけではない
10年後や20年後の経営者の打ち手や戦略は大事ですが、騎手ではなく、馬が走るからこそ、ビジネスの質がきちんとしていれば、経営者の質が若干落ちてもしばらくは持ちます。

「儲けの泉」がない企業には投資しない

 :最新のハイテク企業だとがっちりとした「儲けの泉」がないようにも見えますが、「儲けの泉」がなくても投資するべきだと思いますか?
奥野 :投資すべきだと思わないですね。
長期投資の目線でいうと「儲けの泉」がない、つまり元々付加価値がない産業や企業はどんなに上手くやっても意味がありません。
ただ、イーロン・マスクのように僕たちが見えない参入障壁を築きあげることが出来るのであれば、それは投資する価値があります。
そもそも、電気自動車そのものには参入障壁はありません。
普通の車はエンジンに数万、数十万という部品があり、エンジンを作り込んで車を作るので参入障壁が高いのですが、電気自動車になるとその必要になる部品数が少なくなります。
簡単にいうと、ゴーカートなんです。モーターとバッテリーを積んでいるだけの。
 :おもちゃみたいですね。
奥野 :そうなんです。おもちゃですね。そうすると参入障壁がどんどん低くなります。

それでもテスラが売れる理由

奥野 :ではなぜテスラはあのような値段で売れるのかと言いますと、ブランディング。
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やはりテスラはかっこいい、近未来なもので、新しい物好きな人はあれを買うんでしょうね。
つまり、そのブランディングを組み込むことができれば、テスラはその時点で「儲けの泉」が出来たと言えます。
では、どういう会社が長期投資に値するのかと言いますと「構造的に強靭な企業」です。
これらの3つを満たすビジネスを一旦見つけると、食らいついて離さないというのが長期投資です。

ディズニーはミッキーだけではない

奥野 :今日はミッキーマウスのことばかり話しましたが、実はディズニーの3〜4割以上の利益はESPN(スポーツチャンネルを持っているケーブルネットワークの会社)やABC放送(ニュースなどを放送しているテレビ局)からきています。
これらをディズニーは全て傘下に納めているのですよ。

経営者は投資家目線を持て

奥野 :これからはテレビ局は単純な番組を作るだけだと儲からなくなっていきます。
そもそも配信そのものには、YouTubeやインターネットを使った配信サービスが出てきています。
まだこれまでの蓄積がある部分からテレビのキャッシュが出てくるからこそ、そこから出てきたキャッシュフローをディズニーや他のコンテンツ買収に投下していったのがボブ・アイガーでした。
このキャッシュを配当せずに、ディズニーをもっと強くしていくための投資に当てているところがディズニーの強みです。
 :今回は個別の企業に特化し、より具体的にディズニーについて学ばせていただきました。
疑問に思っていたことを解消していただき、ぼんやりとしていた部分が明確になりました。ありがとうございます。
これからも「INVESTORS」、そして「INVESTORS EXTRAS」の補習も頑張ります。
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フェラーリ、ソニー、任天堂など世界の名だたる企業が持つブランド力に投資するポイントとは?
レジェンド投資家は、ブランドの価値をどう評価するのか?
インベスターズ3人の投資額の行方やプレゼンの成長もお見逃しなく。
<執筆:徐亜斗香、編集:木嵜綾奈、米山朱茜、デザイン:斉藤我空>