【11月17日 AFP】インドの首都ニューデリー在住の主婦サシさん(50)は家族のために毎朝、「免疫を高める」粉末をすくい、水の入った容器に溶かす。

 インドの新型コロナウイルス感染者は800万人と、米国に次いで世界で2番目に多く、死者は13万人を超えている。そうした中、古来から伝わるヒンズー教の伝統医学「アーユルベーダ」によって、新型コロナへの感染を避けることができると信じる人が増えている。

 国内の一般向け商品メーカーは増大する代替医療需要に乗じて、ターメリック(ウコン)入りの牛乳やバジルの成分を抽出したドロップなど、かつては家庭で作っていた薬の商品化に乗り出した。

 サシさんは、アーユルベーダとヨガの大物指導者ババ・ラームデーブ(Baba Ramdev)氏が運営する企業、パタンジャリ(Patanjali)が開発した「私の家族を新型コロナウイルスから守ってくれる」ハーブ飲料の広告をテレビで見た。「テレビに出ているから、良いものに違いないと思った」という。

 アーユルベーダ治療が新型コロナウイルスの感染を防ぐという科学的根拠はない。しかし、実はこの分野は新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)以前からすでに巨大化していた。インド産業連盟(Confederation of Indian Industry)によると、アーユルベーダ業界の市場規模は年間100億ドル(約1兆円)に上る。

 アーユルベーダ医師のバスワティ・バッタチャリヤ(Bhaswati Bhattacharya)氏は、新型コロナのワクチンや治療法が確立していないことから、慣れ親しんだ自然治療薬への傾倒が起きているとみる。

■与党の後押し

 アーユルベーダ(サンスクリット語で「生命の科学」を意味する)など伝統療法への関心の高まりを後押ししているのが、ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相が率いるヒンズー至上主義政党、インド人民党(BJP)だ。

 モディ政権は2014年、アーユルベーダやヨガ、自然療法などを推進する伝統医学省(AYUSH)を新設した。同省は今年1月、新型コロナウイルスと闘うための手段として伝統療法を宣伝した。

 最近ではハルシュ・バルダン(Harsh Vardhan)保健相が、無症状および軽症の新型コロナ感染者をアーユルベーダとヨガで治療するためのガイドラインを発表している。

 大手乳業メーカー、マザー・デイリー(Mother Dairy)は先ごろ発売した子ども向けのターメリック入り牛乳に、消費者から「目を見張るような」反応があったという。

 同社の製品担当責任者、サンジャイ・シャルマ(Sanjay Sharma)氏は「とにかく需要が非常に高いので、生産と供給の強化を進めている」とAFPに語った。「健康・免疫強化製品は新しい現象だ。消費者に非常に手頃な価格で、予防医療を提供する機会だ」