モビリティビジネスの鍵はBeyond MaaSと自動運転技術…ADLジャパン モビリティラボ プログラムディレクター 立川浩幹氏[インタビュー]

モビリティビジネスの鍵はBeyond MaaSと自動運転技術…ADLジャパン モビリティラボ プログラムディレクター 立川浩幹氏[インタビュー]
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MaaS分野では、シェアリングカーや移動・物流のマッチング、マルチモーダルの新しいビジネスが生まれている。しかしその一方で既存の自動車メーカーや交通事業者にとって実のあるビジネスや市場かというとそうではない一面もある。

Uberがオールドビジネスの「ディスラプター(破壊者)」と表現されるように、時としてMaaSやモビリティ革命は既存業界にとってネガティブワードになる。業界では、実証実験やモデルの検証がひと通り終わり、多くは事業への実装の試行錯誤をしている段階だと思われる。

モビリティサービスをいかに収益化していくのかがこれからの課題だ。アーサー・ディ・リトル・ジャパンの立川浩幹氏が、この点について11月30日開催のオンラインセミナー「自動車・モビリティ・スマートシティ関連産業の成長戦略」で講演を行う。どんな内容なのか、セミナーの前にその概要を聞いた。

---:本日はお時間いただきありがとうございます。さっそくですがセミナーではどんなことをお話する予定ですか。

まずモビリティサービスの現状を解説したいと思います。アーサー・ディ・リトル(ADL)での調査データをベースに市場規模やモビリティ関連ビジネスを俯瞰します。その上でいくつかの課題が見えてくると思います。また、技術が進むことで市場やサービスが変わってきます。予想されるサービスビジネスの業態や収益モデルの変化も紹介する予定です。

セミナーでは、現状分析や将来予測についてなるべくデータや事例といった情報を多く提供したいと思っています。

---:MaaSやモビリティサービスの課題とは、今だと何になるのでしょうか。

交通事業者や公共交通という意味では、まず大都市以外運賃をベースとしたビジネスが成立しにくいという問題があります。鉄道・バス・タクシーは原則として赤字事業ですが、社会インフラとして自治体や国の補てんが必要です。これはMaaSやモビリティ革命をもってしても変えることは容易ではありません。

ユーザーの利便性や社会課題の解決にMaaSは欠かせないかもしれませんが、提供者から見ると儲からないという現実があります。

---:そこに解決策はありますか?

もちろんあります。これまでは民間インフラ事業への直接支援・補助金制度があります。近年では赤字補てんという意味合いの補助から、事業委託という形で社会インフラを維持する方式もでてきています。

これを広げた取り組みにBID(Business Improvement District)を交通事業の整備に応用する動きがあります。BIDは地域の受益者も相応の負担をする街づくりの方法です。これをたとえば、商業施設のオーナーにも路線バスやタクシー事業者への支援・支払いを負担してもらうという考え方です。

わかりやすいのは、ショッピングモール、ホテル、レジャー施設への送迎サービスや送客サービスですね。

---:MaaS関連でBIDと呼べる事例はありますか

BIDとは厳密には仕組みは異なりますが、大丸有エリアマネジメント協会が運行する丸の内シャトルは、丸の内エリアの来訪者や従業者に対する利便増進に高く寄与しています。
また、豊明市の「チョイソコ」というサービスがひとつの成功事例だと思っています。アイシン精機が運営するモビリティ事業者が、地域の公共施設や医療機関、金融機関、商業施設への送迎を行います。利用者からも運賃(200円/回)をもらいますが、送客先の事業所・企業からも協賛金(月3000~2万円、平均1万円)を受け取ることで事業として成立させています。
MaaSビジネスを成功させるひとつのポイントは、このように交通事業以外の周辺産業と協調することにあると思っています。「Beyond MaaS」という言葉がありますが、MaaSを鉄道・バス・タクシー・レンタカーのような交通事業者だけのビジネス、わかりやすく言えば運賃収入だけに頼っていてはあまり効果は上がりません。

---:MaaSは儲からないということでしょうか。

シェアリングビジネスやマルチモーダルビジネス、マイクロトランジットや貨客混載のような手法はありますが、事業者が車両のように巨額な固定費を抱える限り既存の輸送・移動だけのマッチングやサービス連携だけでは限界があると思っています。
唯一、個人所有の自家用車をカーシェアとして貸し出す個人間カーシェアリングは、カーシェア事業者が車両と駐車場のコストを負担しない為、採算性が取れる可能性が高いです。2019年10月に国交省がスマートフォンを自動車の施錠装置として認める規制緩和を実施しました。これにより、これまで貸出し時に必要だった鍵の授受を不要にすることができます。後は車両のサラウンドカメラなどを利用し、車体の接触・傷検知を自動化できれば、車両の貸出プロセスを自動化することが出来るため、将来的に個人間カーシェアリング市場が勃興すると予測します。私はOEMの新規事業として個人間カーシェアに取り組む時代がいつかくると考えています。

ADLでは、2030年のMaaS市場は年間5.4兆円規模と予想しています。鉄道、バス、タクシー、自動車といった移動手段だけに閉じたマルチモーダル系のMaaS市場は、このうち0.2兆円です。残りの5.2兆円は移動に伴う関連ビジネス、つまりBeyond MaaSビジネスになるだろうと分析しています。

5.4兆円という数字は交通事業者の本業ビジネスは含んでいないので、MaaS関連の事業を考えるならBeyond MaaSの市場は無視できないと思います。

---:交通事業者は移動手段だけでなく移動目的も考える必要があるということですね。自動車産業の視点でMaaSビジネスのポイントはありますか。

社会インフラという側面もある交通事業のMaaSでは、自動車メーカーやサプライヤー単体の事業範囲から外れるものが多いので難しいですが、Beyond MaaSという視点で、デジタルトランスフォーメーション(DX)と自動運転は欠かせない要素と言えます。

デジタルツインという言葉がありますが、バーチャルの世界とリアル経済の相互連携・相互作用は今後もさらに進みます。スマートフォンで行った操作で、実店舗向け商品の出荷が決定されたり、センサーやカメラの情報がすぐに地図アプリの事故情報・渋滞情報に反映されたりといったことはすでに普通に起きています。

DXはマルチモーダルサービスの連携、マイクロトランジット、タクシー配車、貨客混載、ライドヘイリング(自家用車有償旅客運送)、カーシェアにおいて欠かせないデータプラットフォームになります。

しかし、現状、これらは既存事業の事務処理のコストダウンにはなっても、全体の利益貢献は高くありません。MaaS事業の収益を高めるには、車両の自動運転化が必要です。前述のマイクロトランジットや貨客混載、カーチェアなどのサービスは、将来的にはロボタクシーや無人バスに集約されると思っています。バスやタクシー事業において、最大のコストは労務費です。少数のドライバー、オペレーターによる複数車両のリモート管制制御は、交通事業のビジネスモデルを変えるでしょう。

国内も政府主導で自動運転車両の事業化を推進しており、ホンダのレジェンドが2020年11月11日に世界で初めて国としてLv3自動運転車の型式指定を受けましたし、2025年までに国内40か所以上でLv4自動運転サービスの事業化を目指しております。
MaaSビジネスの新しい収益モデルは、無人カーや自動運転技術にかかっていると思います。

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立川氏が登壇する11月30日開催のオンラインセミナー「自動車・モビリティ・スマートシティ関連産業の成長戦略」はこちらです。

《中尾真二》

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