【パナソニック】デザイン集団が実践する、未来の具現化

2020/11/18
「これからの豊かなくらしとは何か」を問い直し、具現化していくパナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」。2020年7月にオープンした、新しいモノの売り方とコミュニケーションを考える実験型店舗「NewStore by TOKYU HANDS」。

両者がコラボレーションし、半年にわたって届ける、月一回のオンライントークイベント「Dig up! TALK & EXHIBITION」が10月27日にスタートした。

vol.1では、「未来の豊かさを問い、具現化するプロトタイピングとは?」をテーマにセッション。

登壇したのは、パナソニック・FUTURE LIFE FACTORYの井野智晃氏、NewStore by TOKYU HANDSの眞明大介氏、NewStore by TOKYU HANDSの前田梨紗氏。ファシリテーションは佐々木紀彦(NewsPicks CCO/NewsPicks Studios CEO)が務める。

手を動かしながら想像していく楽しさと喜びを分かちあいながら、これからの社会を変えるアイデアやヒントを探すその道程とは。
イノベーションセンターの意義と役割とは
佐々木 本日はパナソニック FUTURE LIFE FACTORYさんと、New Store by TOKYU HANDSさんのコラボレーションイベント「Dig up! TALK & EXHIBITION」の第1回オンライントークです。
「未来の豊かさを問い、具現化するプロトタイピングとは?」をテーマにお話を伺います。よろしくお願いします。
井野眞明前田 よろしくお願いします。
佐々木 まずは井野さんが所属している、FUTURE LIFE FACTORYについて教えてください。
井野 はい。パナソニック株式会社のデザイン本部にある組織で、6名のメンバーがいます。会社の事業とは少し離れた視点で、デザインの力で未来を変えていくことを目指して、社内外へ様々な提案を行なっています。
パナソニック・FUTURE LIFE FACTORYの井野智晃氏
佐々木 パナソニックの社名ではなく、FUTURE LIFE FACTORYという名前で活動しているのはどうしてですか?
井野 組織名が別にあることで、身軽に対外的な発信ができる、プロジェクトをスタートさせやすい、といったメリットがあります。
パナソニックの事業となると、現実のお客様の暮らしを見つめたものにしなければなりませんが、うちの組織のデザイナーはもっと変な視点でモノを見ているんです(笑)。
会社として事業化できるかどうかではなく、大きな視点で「こういう未来があってもいいかも」というこれからの暮らしを提案しています。
佐々木 スタートアップや社内ベンチャーのようですね。6人のメンバーだけでなく、社内の他部署の人と一緒に活動することもあるんですか。
井野 基本は社外のパートナーと一緒にやっています。
佐々木 パナソニック社内にはおもしろい考えを持った方がたくさんいるだろうと思うので、なんだかもったいないような……。
井野 興味を示してくれる人は多いのですが、みんな通常の仕事も抱えているので参加は難しくて。社外の方と動くと、スピード感をもって活動できます。
佐々木 なるほど。6人という少人数組織の運営で気を遣っていることはありますか?
井野 私がマネージャーというわけではないので、運営を気にすることはあまりないですね。みんながフラットで、ライバルといった感じです。全員がいつもなにか新しいアイデアを考えていて、一人が作りはじめると周りも作りだす。同じ組織だけど、全然違うアイデアが生まれるのがおもしろいです。
佐々木 今日は、そうして生みだされたプロトタイプ(試作モデル)をいくつか持ってきていただいています。
井野 はい。ここに並んだプロトタイプはきれいなものばかりですが、この前にはもっと雑然としたプロトタイプもたくさん作っていて。
まずは作って確かめることを大切に、たくさんのプロジェクトを進めています。自分たちで考えたアイデアをすぐにプロトタイピングできることも、FUTURE LIFE FACTORYのメリットだと思っています。
佐々木 FUTURE LIFE FACTORYというイノベーションセンターがパナソニックに与える影響はどんなことでしょうか。
井野 パナソニックなどの大きな組織だと、承認や秘密保持の観点などから対外発信するまでに必要なステップが多くありますが、僕たちならば、早く軽く外に発信できます。世の中にまだない価値の是非をすぐに問えるんです。世間の声をいち早くキャッチできることは、パナソニックにとっていい影響があるのではと思いますね。
佐々木 New Storeも東急ハンズさんにとってのイノベーションセンターですよね。開設してどんなインパクトがありましたか。
NewStore by TOKYU HANDSの眞明大介氏
眞明 実際にストアを作ったことで、社内外から新しい取り組みに対してのポジティブな共感を得られましたね。今回のNewsPicksさん、FUTURE LIFE FACTORYさんとのコラボレーションもこの場があったから実現しました。
従来の小売業にとどまらず、東急ハンズの役割を広げていこうという意識が拡大したと思います。
ピュアで尖ったアイデアを具現化する
佐々木 プロトタイプを作ることの良さはどんなところにあると思いますか?
井野 まず、アイデアを具体的なモノとしてリアルに提示できることが一番の強みだと思います。ただアイデアを共有して「いいね」で終わるのではなく、本当に「暮らしの中に取り入れたい」と思われるものが良いプロトタイプなのかなと思っていますね。
それから、アイデアのピュアさを保てるのもプロトタイピングの良さです。何度も会議を重ねると、アイデアの尖りがなくなってしまうことがありますが、プロトタイピングでは、初めのピュアで強いアイデアのまま具現化することができます。
新しいモノを生みだす時って、個人の強い思いや尖ったアイデアがあるほうがおもしろいものができると思うんですよね。
NewStore by TOKYU HANDSの前田梨紗氏
前田 個人的な意見として、プロトタイピングをした後にどう事業化していくかが難しいなと思っていて。最終的にどういう決断をされているんでしょうか。
井野 そうですね。プロトタイプを実際に商品化するのはすごく難しいです。どの企業の新規事業担当者からも、出口に困っているという悩みを聞きます。
FUTURE LIFE FACTORYとしては、事業化・商品化だけが目標ではありません。プロジェクトをやめる判断を素早くできるところもプロトタイピングの良さだと思うんです。実際にプロトタイプを作ったあとで、最初に設定していた課題を大きくピボットすることもよくあります。
「作る」「やめる」をできるだけ早く繰り返して、より強いインパクトを残せるようなアイデアにブラッシュアップする。その結果として、一緒に商品化したいと言ってくれるパートナーが見つかったらいいなと思いますね。
佐々木 例えばどんな試行錯誤があったんですか。
井野 ここにある「ペビパパ(BABYPAPA)」は、その子の成長記録を自動的に残していく3体1セットのロボットです。
始めは1体だけで、お掃除ロボットにセキュリティカメラをくっつけて子供を追いかけるプロトタイプを作ったんです。うちの子供で試したのですが、すぐに子供たちが飽きてしまって。子供たちの写真を撮るためには、子供がロボットを見てくれないと成り立たないんですよね。
そこで「子供を追いかける」のではなく、「子供とコミュニケーションをとる」必要があると気づいて、3体1セットのモデルに作り替えました。子供とやりとりするロボット、撮影するロボットなど、役割を分担させたんです。3体を連携させることで、よりよい写真を記録するだけでなく、ロボットと人の新しいコミュニケーションのあり方を提起するプロトタイプになったと思います。
BABYPAPA(ベビパパ)。子供の良い表情を引き出すコミュニケーションカメラ。子供と非言語のコミュニケーションを取りながら成長を記録する。3体のみで成り立つ社会を作ることで、人にコミュニケーションを強制させず、長く付き合える工夫をしている。
佐々木 まさに最初に設定した課題からの転換があったわけですね。これらのプロトタイプの中に、実際に商品化されたものはあるんですか。
井野 この「ウェアスペース(WEAR SPACE)」は商品化しました。シフトールという会社(パナソニックの100%子会社)と一緒にクラウドファンディングを実施したんです。集まった1600万円ほどを開発費用にして、500個を販売しました。
「WEAR SPACE(ウェアスペース)」は、集中力を高めるウェアラブル端末。周囲の音を遮断するノイズキャンセリング機能のヘッドホンと、視界を調整できるパーティションで構成されている。どこにいても瞬時に周囲との境界を作り出し、心理的なパーソナル空間を生み出すことができる。
佐々木 プロトタイピングとクラウドファンディングは相性が良さそうですよね。
井野 開発当初は想像もしなかった使い方が見つかって、商品の社会的意義が大きくなっていくのも、プロトタイピングや社外とのコラボレーションの醍醐味だと思います。
ウェアスペースは、ファッションブランドの「アンリアレイジ(ANREALAGE)」さんに展示会で使っていただいたことに始まって、利き酒のイベントを展開している会社やADHDの方々を支援する団体にも活用していただきました。開発時は仕事中の使用だけを想定していて、お酒を深く味わうことや感覚過敏の緩和に効果的だとは考えていなかったので驚きました。
佐々木 集中を促すツールとして、使い方が広がったんですね。プロトタイプを作る上でのコツはありますか?
井野 ひとつのアイデアに固執しない姿勢が大切です。あとはアイデアの出発点となる課題設定を、少しハードルが高いものにすることもポイントだと思います。
例えば、ウェアスペースの出発点は「フリーアドレスのスペースで自分の仕事に集中したい」という課題でした。普通なら、個室を作って解決! となりそうですよね。
でも、「この場から移動せずに集中したい」と課題をより難しく設定したから、このウェアスペースのアイデアが生まれたわけです。初めに設定する課題のハードルを上げたほうが、創造性が高まると思います。
暮らす人たち自身がプロトタイピングで次の「豊かさ」を作る
佐々木 「未来の暮らし」についても深堀りしていきたいと思います。未来の暮らしを考える鍵はなんだと思いますか。
井野 今回、コラボレーションのテーマを「Dig up!(発掘)」と掲げています。自分たちで新しいものを作りだすだけでなく、誰も探っていない過去を掘り起こすことでも「未来の暮らし」が見えてくるんじゃないかと思っているんです。
例えば、「暮らしに自然を取り入れたい」という理由で、植物をインテリアとして置いたりしますよね。でもそれは無菌状態の土で育てられているので、本来の意味では自然を取り入れられていないんじゃないか、という指摘があります。
一方で、昔は今のような除菌システムはなかったし、食事では麹などの発酵食を積極的に摂っていて、菌と共に暮らしていた。まさに自然と共生していたんです。
そのころを見習って、未来の「自然を取り入れた暮らし」を、新たに提案できないかと議論しています。
佐々木 今日のテーマに「未来の豊かさを問う」があります。「豊かさ」はどう変わっていくのでしょうか。
井野 これまで家電メーカーがイメージ戦略として打ちだしてきたような、家族がいて、子供がいて、家を買って……。そういう一元的な「豊かさ」に疑問を抱いている人は多いですよね。今は「自分らしく生きること」が一番豊かなことなんじゃないかと思っています。
佐々木 自分らしさがわからないって人も多いと思います。パナソニックが新しい水道哲学を作ったらどうでしょう。
水道哲学とは、パナソニック創業者松下幸之助の経営哲学。水道の水のように低価格で質の高い製品を大量に供給することによって、物価を下げて、貧困にあえぐ人をなくそうという思想。
井野 そうですね。これまでは商品を安く提供して多くの人に使ってもらいたいという願いがありましたが、生活が一定豊かになった今では、自分らしさを見つけられていない人に、その解決方法やきっかけを提供していくことが大切なのかもしれません。
例えば、センシング技術を活かして、どういう生活になればその人はハッピーになれるのかという心の動きをデータとして集め、その状態を実現できる家電を提供する。そういう方法であれば、家電メーカーも自分らしさを見つけることに寄与できそうですよね。
佐々木 家電という部分的な視点ではなく、ライフスタイル全体がプロトタイピングで具現化されるとイメージが共有しやすいですよね。パナソニックさんは事業領域が広いので、それができるポジションだと思います。
井野 そうですね。「暮らし」全体にまたがる提案をしていきたいです。
佐々木 東急グループも、不動産事業がありますし、暮らし全体に目をむけた活動をされていると思います。
眞明 はい。東急不動産ホールディングスグループとしても「ハコやモノの枠を超えて ライフスタイルを創造・提案する」をありたい姿に掲げているので、未来の暮らしをどう提起していくかはとても重要です。
私はこのNewStore by Tokyu Handsに参画するため、東急不動産から東急ハンズに兼務出向しているので、引き続き東急不動産のスマートシティ事業などにも携わっているんです。スマートシティの議論では防災やセキュリティなどに焦点が当たりがちなのですが、個人的にはもっと暮らす人々のリアルな声を拾いながら、人間中心のまちづくりを考えていきたいですね。
井野 デジタルツイン(サイバー空間上に物理世界の情報をすべて再現したもの)という技術も生まれていますし、街に暮らす人たち自身がサイバー空間上でプロトタイピングをしはじめたらおもしろいですよね。もしかしたら提供側よりも生活をしている人のほうが、新しい暮らし方を見つけだせるかもしれない。
自分で家を改造したり、スマート化したりできるようになっていますし、誰でもクリエイティブになれる時代なんだと思います。その上で、企業としてなにができるかをパナソニックも東急ハンズさんも考えていかなきゃいけないですね。
前田 そうですね。東急ハンズは「クリエイティブライフストア」掲げていますが、街に住むお客様自身が持つクリエイティブな要素とハンズを掛け合わせて新たな化学反応が生まれていくといいなと思いますね。
佐々木 「お客様」っていう呼び方が変わっていくといいのかもしれませんね。そうすると、提供者と受け手という確固たる立場を作らずに、率直に話せる気がします。
前田 なるほど。「メイト」はどうでしょうか。チームメイトのような形で、一緒にクリエイトする関係になれたらいいですよね。
眞明 小売業界ではモノを仕入れて売るだけじゃなくて、コトを提供する方向へシフトしていますが、「お客様と一緒に作る」スタンスはすごく大事だなと思います。
例えば、東急ハンズではワークショップを多数開催していますが、講師がいて、なにかを作って……という従来の形式ではなく、お客様のアイデアを取り込める余白を残した体験にアップデートできないかと模索しているところです。
東急ハンズのワークショップを通して、お客様と一緒に、新しい価値を生みだせたらいいですよね。
井野 豊かな暮らしを実現するためには、創造性を高めることも必要だと思うんです。モノを作るだけでなく、自分の理解の幅を広げるために様々な価値観を享受するようなワークショップがあったら魅力的ですよね。
眞明 ワークショップの概念が変わりそうですね。すごく面白そうです。
佐々木 FUTURE LIFE FACTORY、New Store、どちらも今後の展開にますます注目ですね。みなさん、今日はありがとうございました。
「Dig up! TALK & EXHIBITION 未来を構想するプロトタイピング」オンライントークは、東急ハンズ公式YouTubeで配信中。

第2回は11月27日(火)19時から配信します。トラフ建築設計事務所 鈴野浩一氏、禿真哉氏をゲストに迎え、NewStore by TOKYU HANDS織内麻衣氏とFUTURE LIFE FACTORY 川島大地氏が、「誰かのためのモノづくり」をテーマに語り合います。ファシリテーターは編集者の柴田隆廣氏です。

トラフの建築家的視点と東急ハンズのものづくりプラットフォーマーとしての視点、FUTURE LIFE FACTORYのデザインエンジニア的視点を通して、誰かを思ってモノをつくるということや人間としての創造力・“手の復権”について考えます。
イベント予約ページはこちら

▼全体スケジュール
2020.10月27日(火)vol.1「未来の豊かさを問い、具現化するプロトタイピングとは?」

2020.11月27日(金)vol.2「大切な誰かへ届けたいみんなのモノづくり」
ゲスト:鈴野浩一・禿真哉(トラフ建築設計事務所)×川島大地(FUTURE LIFE FACTORY) ファシリテーター :柴田隆寛(編集者)

2020.12月16日(水) vol.3「自然と暮らす」
ゲスト:平田晃久(建築家)×小倉ヒラク(発酵デザイナー)×シャドヴィッツ・マイケル(FUTURE LIFE FACTORY) 
ファシリテーター :山田泰巨(編集者)

2021.01月 vol.4「MICRO WORKATION(仮)」

2021.02月 vol.5「自分らしさを紡ぐ(仮)」

2021.03月 プロトタイプ展 @ NewStore by TOKYU HANDS

※12月以降のイベントについては決まり次第、イベント専用WEBページで公開します。

また、2021年3月にはNewStore by TOKYU HANDSでのプロトタイプ展の開催を予定しています。