「創価学会をつぶす気か」公明支持層に分断 大阪都構想、菅首相誕生に自民「複雑な思い」

 11月1日に実施された「大阪都構想」2度目の住民投票では、前回2015年の投票時には反対しながら、今回は賛成に回った公明党の対応にも注目が集まった。急な方針転換は支持母体の創価学会内で分断を生み、国政選挙などでも後遺症が懸念される状況に。一方、反対派の自民党も意見集約の過程で内部のあつれきが表面化し、今後の組織運営にしこりを残した。(共同通信=山本大樹)

 ▽選挙事情で態度一変

 「1年半前の大阪府知事、大阪市長選の時は反対したが、建設的な議論を積み重ねて、都構想の設計図は見事、良い物に生まれ変わった。都構想をなんとしても実現し、大阪を改革していこうではありませんか」

 住民投票告示日の10月12日、公明党大阪府本部代表の佐藤茂樹衆院議員は繁華街・難波の百貨店前でマイクを握り、聴衆にこう訴えかけた。隣には、一言一句を確認するようにうなずく大阪維新の会代表の松井一郎市長と代表代行の吉村洋文知事の姿が。佐藤氏は旧敵と並び立っての街頭演説を「隔世の感がある」と語った。

住民投票の告示を受け、大阪維新の会の松井一郎代表、吉村洋文代表代行と街頭演説する公明党大阪府本部代表の佐藤茂樹衆院議員

 公明党が賛否の態度を一変させた背景には、地元の選挙事情がある。公明は府内に19ある衆院小選挙区のうち、4選挙区で現職議員を抱える。佐藤氏が地盤を置く大阪3区(大阪市南西部)もその一つだ。日本維新の会はこれまで、この4選挙区には手を付けてこなかったが、都構想を巡って公明との話し合いが膠着(こうちゃく)するたびに刺客の擁立を示唆。公明は、維新から刺客を立てられないよう都構想賛成にかじを切り、制度案の検討過程でも積極的に修正協議に応じてきた。

 今回の住民投票運動で公明側が切った最大のカードが、山口那津男党代表の街頭演説だ。告示後最初の日曜日となった10月18日、山口氏は大阪市内3カ所で松井氏、吉村氏と共に街宣車に上がり「都構想は賛成ですよ。勝たせてください」と連呼した。最後は松井氏らとグータッチを交わして蜜月ぶりを演出する力の入れようだった。

大阪維新の会の松井一郎代表らと街頭演説する公明党の山口那津男代表

 山口氏の来阪は、松井氏と関係の深い学会幹部の指示で決まったとされる。公明側もトップ自らが必死に訴えれば、支持層は賛成に大きく傾くと期待した。だが都構想への反対意見が根強い市南部では「維新のためにそこまでするのか」とかえって批判を招くことになる。

 ▽「一番血を流したのはうち」

 創価学会は最終盤の10月27日、大阪市内で急きょ幹部会議を開催。改めて投票の呼び掛けを強化することを確認したが、この方針にある学会員は「投票まであと5日しかない。最末端の会員まで指示を下ろすのは不可能に近い」と悲鳴を上げた。公明側でも市議OBの一部が公然と反対運動を展開。支持者の間で賛否が入り乱れ、混乱が深まった。

 投開票前日の31日夜。市中心部の梅田で行われた公明の街頭演説は盛り上がりを欠いた。同じ時間帯に約200メートル離れた場所で反対派の「れいわ新選組」山本太郎代表がマイクを握り、数百人の人だかりをつくったのとは対照的だった。

街頭で大阪都構想への賛成を呼び掛ける公明党の議員団

 公明の演説終了後には、府本部の幹部議員に学会員の女性が詰め寄り「可決されて大阪市がなくなったら学会のせいだと言われ、否決されても維新から学会のせいだと言われる。あんたたちは創価学会をつぶす気か!」と涙ながらに糾弾する一幕も。矢面に立たされる形になった議員は「ご意見は承りました」と繰り返すしかなかった。

 学会の中堅幹部は「今回の対応は組織内部に分断を生んだ。今後の国政選挙にも響く」と予想する。党関係者も「世間からは公明が一番のらりくらりしていたと言われるが、都構想で一番血を流したのはうちだ」と嘆息した。

 ▽自民党本部は協力せず

 自民党大阪府連は前回に引き続き反対運動を展開した。5年前と同様、薄氷の勝利をつかんだが、党本部との間にはすきま風が吹いていた。

大阪維新の会の松井一郎代表と関係の深い菅義偉首相

 「総理からは、頑張ってくださいというお言葉を頂戴しました」。住民投票の告示を間近に控えた10月8日。東京・永田町の首相官邸で菅義偉首相に都構想への反対方針を伝えた府連会長の大塚高司衆院議員は、面会後の取材にこう話した。

 菅政権の誕生を、府連幹部らは複雑な思いで受け止めた。菅氏が大阪維新の松井代表と昵懇(じっこん)の間柄であることは周知の事実だ。2012年、大阪都構想の根拠法が議員立法で制定された当時は、菅氏が自民のプロジェクトチーム座長を務めていた。府連関係者は「都構想に賛成と言われなかっただけで御の字」と本音を明かす。

 首相面会に先立つ8月下旬、府連の国会議員や地方議員らは党本部に下村博文選対委員長(当時)を訪問。都構想反対運動への協力を求めたが、下村氏は府連所属の国会議員らが地元選挙区で劣勢に立たされていることを不安視し「都構想とか言ってる場合なのか」と眉をひそめた。話し合いは低調に終わり、府連が期待した党本部からの資金協力は得られなかった。

自民党本部

 ▽府議団と市議団に溝

 府連内部でも摩擦が生じていた。府議団では一時、賛成派が多数を占めたが、反対派の国会議員や市議団から切り崩しを受け、次第に賛否が拮抗するように。制度案の最終採決が行われた8月28日の府議会本会議は「自主投票」で臨むことになり、ふたを開けてみれば16人中、賛成は5人にとどまり、11人が反対に回った。

大阪都構想への賛成を公言する自民党大阪府議団の原田亮幹事長

 本会議後、都構想賛成を公言していた原田亮府議団幹事長は記者団に「どういう理由があったのか分からないが、賛成多数の状況から反対の方が多い結果になったのは残念だ」と唇をかんだ。原田氏はその後もツイッターなどで賛成の立場をアピールしたが、反対方針を決めた府連の立場と相いれないとして厳重注意処分を受けた。

 結局、府議団としては賛成運動も反対運動もしなかった。メンバーの一部は市議団の求めに応じて反対派の活動を支援したが、多くの議員は「やることがなく、暇を持て余していた」(若手府議)のが実態だ。市議団からは「府議団は人もお金も出さない」と怨嗟(えんさ)の声が上がった。

 11月1日の住民投票は、可決濃厚という当初の予想を覆し、僅差の否決に。安堵と高揚感に包まれる市議団とは対照的に、府議団の賛成派は「こんな結果になるなんて」と頭を抱え、原田氏は幹事長辞任も示唆している。

大阪都構想の再否決が決まり、喜ぶ自民党大阪府連のメンバーら

 住民投票後の7日に開かれた府連の全体会議では「大阪成長戦略本部」の設置が決まった。都構想に代わる大阪の将来像を示すことが目的だが、内部からは早くも「府や市の実権を握っているのは維新。われわれが戦略を作っても実効性がない」と冷ややかな意見が出始めている。

大阪維新襲う「松井ロス」 都構想再否決、常勝戦略にほころびも

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「大阪都構想」とは何だったのか? 「都市成長」「最悪の制度いじり」論争10年

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