ちなみに、ドアマットのサーヴィスはいつから開始されたのか? 前述の担当者によれば「1973年ごろのようです。主たる理由として、ファーストクラスエリアに敷かれていたカーペットの汚れを防止するのが目的だったようです。と、申しますのも、かつての機内カーペットは、鮮やかなレッドなどが使われていたため、汚れが目立ちやすかったからです」と、話す。
現在の機内カーペット色は濃いグレーで、汚れがあまり目立たないようになっている。が、15〜20年ほど前の主力機だったボーイング「747-400」型機では、明るいベージュだった。これは汚れが大変目立ちやすかったそうで、現在のグレーに変更されたという。すくなくともこの10年ほどは、汚れの目立たないカラーを選んでいるとのこと。それゆえにドアマットを敷く必要がなくなったようだ。
また、ボーディング・ブリッヂの普及によってタラップからの搭乗が減り、汚れが少なくなったのも理由のようだ。
747-400以前のダグラス「DC-8」などの機内カーペットについて、JALの広報担当者は「あくまで推測の域ですが」と、前置きしつつ「今ほどカーペットの色や柄の選択の幅がなかったので、鮮やかなレッドなどを選んでいたのかもしれません。現在は、柄やカラーなどを細かく指定出来るのでオリジナルのカーペットを製作していますが、過去の写真を見ると単色のものがほとんどで、たとえば“赤、青、黒の3色から選んでください”といった程度の選択肢だったのかもしれません」と、話す。
ちなみに、ドアマットの出し入れは新人の客室乗務員が率先しておこなっていたそうで「意外と重いため、クルクル巻くのに大変だったようです」とのこと。せっかくなので当時のドアマットを見せてもらおうかと思ったが、JAL社内に残っていないという。残念。
近年、ドアマットのサービスを提供するエアラインはほとんどない。JAL同様、機内カーペットに汚れの目立たない色を使っているケースがほとんどだし、コストや重量増の問題もあるはず。かつて空の旅が今より“ちょっと”高嶺の花だった時代らしいサーヴィスだったのだ。
文・稲垣邦康(GQ)