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トランプ敗北目前、「パリ協定」脱退はどうなる?

大激戦の大統領選投票日から一夜明けた4日(現地時間)、米国は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」から正式に離脱した。現職のトランプ大統領は2017年の就任時からパリ協定を骨抜きにしようとしてきたが、政権の思惑とは逆に経済や企業の主導によって米国の気候変動対策が進んだ。トランプ政権による激動の4年が米国と海外の気候変動政策に与えた影響を検証する。

トランプ氏は就任後の17年6月、選挙公約通りにパリ協定からの脱退を表明し、19年11月に離脱手続きを開始。選挙戦の結果にかかわらず4日、離脱が成立した。他にもトランプ氏は、各国が途上国の気候変動対策を支援する国連の「緑の気候基金」への資金拠出も停止。国内では発電所からの二酸化炭素(CO2)排出を規制した「クリーンパワープラン」を廃止し、石炭産業の復活を目指してきた。

オバマ前政権の気候変動政策を全否定したが、石炭産業の衰退に歯止めがかからなかった。シェール革命によって安価な天然ガスが米国内で産出されるようになり、もっとも安かった石炭は競争力を失った。

米国の電源構成をみると、CO2を多く排出する石炭は17年の31%から19年は24%に低下。代わって排出が減る天然ガスが31%から37%へ上昇した。再生可能エネルギー(水力含む)も18%前後で推移しており、米国の温室効果ガス排出量は減少傾向にある。

トランプ氏の石炭保護策は経済合理性に阻まれた。もう一つ、15年のパリ協定採択後の「脱炭素」の潮流も石炭の退潮に拍車をかけた。地球環境戦略研究機関の田村堅太郎プログラムディレクターは「トランプ政権は、パリ協定後のマーケットの動きを変えられなかった」と分析する。

国際社会への影響も軽微だった。米国の脱退表明に追随する国が現れると心配されたが、離脱をちらつかせていたブラジルはとどまり、ロシアなども批准し、パリ協定の参加は190カ国以上に拡大した。各国の結束は揺るがなかったが、田村ディレクターは「気候変動交渉のリーダーが不在となっている」と懸念する。

現在、各国は国連から削減目標の再提出を求められているが、期待されたほど上方修正されていない。中国が20年9月の国連総会で「60年排出実質ゼロ」を宣言し、欧州連合(EU)は目標を引き上げた。しかし、中国を国際的な枠組みに引き込んだオバマ政権時代の米国に比べると「力不足」(田村ディレクター)と映る。

一方で、世界のビジネス界では米国企業が気候変動対策の先頭に立つ。アップルやグーグル、マイクロソフトは事業で使う電力全量を再生可能エネルギー化した。電気自動車ベンチャーのテスラが台頭するなど、新しい環境関連ビジネスも芽生えた。州などの自治体も政権を公然と批判し、独自対策を打ち出している。「米の企業や自治体が、他国の企業や自治体の取り組みにも好影響を与えた」(同)とみる。

だが、世界2位の排出大国である米国抜きではパリ協定の実効性に疑問が残る。現状の状況が続けば、国際社会の結束が揺るぎかねない。

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