2020/11/29

【IIJ鈴木幸一】僕が私財を投じて音楽祭を支えてきた理由

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企業経営者の中には、クラシック音楽を支援する経営者が多数いる。
その中でも、2005年に東京・上野で音楽祭を立ち上げ、支援を続けてきたインターネットイニシアティブ(IIJ)の鈴木幸一会長は別格の存在だ。10月には音楽祭への貢献が評価されて文化功労者に選出された。
「東京・春・音楽祭」は、音楽ホールのみならず、美術館や博物館、公園、学校や商業施設など様々な会場でコンサートが開催される音楽の祭典。2020年は3月から4月にかけて約5週間、214公演が予定されていた。
日本のクラシック音楽を支援してきた鈴木会長は、コロナ禍に直面する現在の音楽業界をどう見ているのだろうか。NewsPicks編集部のインタビューに答えた(取材日:2020年9月2日)。
鈴木幸一(すずき・こういち)1946年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学文学部卒。1972年、日本能率協会入社。 1983年、日本アプライドリサーチ研究所 代表取締役就任。 1992年12月、インターネットイニシアティブ企画を創立、取締役に就任。1994年、インターネットイニシアティブ(IIJ) 社長就任。2013年、同社代表取締役会長兼CEOに就任(現職)。2005年より毎春、東京・上野で音楽祭を主宰。2020年、文化功労者に選出。

日本は文化・芸術を支える基盤が脆弱

──新型コロナはクラシック界にも大きな影響を及ぼしています。鈴木会長がライフワークとして取り組む「東京・春・音楽祭」も、200公演以上を予定していましたが、実施できたのは14公演にとどまりました。
鈴木 無観客での公演を無料でライブ・ストリーミング配信したりしましたが、大半はやむなく公演中止にしました。
チケットの払い戻しが必要なので、たくさん赤字が出ました。こういう時、日本では払い戻し対応が基本ですが、ヨーロッパでは、チケット代を寄付に充ててくださる方も多いようです。
ヨーロッパと日本では、お客さんだけでなく、国の支援もまったく異なります。
「東京・春・音楽祭2019」より。ワーグナーのオペラを毎年1作品ずつ演奏会形式で上演している。2019年は《さまよえるオランダ人》を上演した(写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:青柳 聡)
ヨーロッパは伝統的に政府や自治体の支援がありますし、支援の金額の桁も違う。財政状態が厳しいイタリアでも、12ものオペラハウスを持ち、基本的に国が運営しています。
西洋音楽というのは、あらゆる文化、芸術のなかでも、ある種の普遍性を持っていて、世界中の人々に訴えるまれな存在だと思います。だからこそ、明治以降、日本政府も西洋音楽の受容に努力をし、人々の共感を得てきたのだと思います。
その過程で、日本の音楽のレベルもすごく上がってきています。それでも西洋音楽について、国が支援する文化なのかというと、いろいろとまた議論がありますね。
日本には能、歌舞伎など、古来からの独自の古典芸能があり、オペラハウスにしても、国立劇場という冠ではなく、新国立劇場となっています。
音楽祭で行われた、世界的指揮者のリッカルド・ムーティ氏が若手音楽家を指導するアカデミー(写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:青柳 聡)
──日本の場合、国の支援に期待するのは難しい。
日本も国や自治体は財政面での支援を続けていますが、欧米と比べ、国の財政規模を考慮すると大きなものではありません。
なによりも、民間企業や民間人によるドネーションという芸術や文化を支える基盤が脆弱です。その意味で、日本の経済界、あるいは豊かな民間人は、もうちょっと積極的な寄付をしてもいいと思います。
もちろん、日本には、税制面の優遇制度が整備されていない、あるいは、ドネーションという形態そのものが根付いていないといった違いもあります。

小澤征爾さんにたき付けられた

──そういった中でも、鈴木会長は2005年に「東京・春・音楽祭」の前身となる「東京のオペラの森」を立ち上げるなど、クラシック音楽を支援してきました。
子どもの頃から、音楽が好きだったからね。特に、上野という空間については、高校生の頃から、音楽や博物館があることで、大きく道を踏み外しそうだった私が、なんとか、まともに育ったという感謝の気持ちが強い場所だから。
上野は明治維新後、欧米にならって日本にも文化施設を作ろうと、東京音楽学校や東京美術学校(東京藝術大学の前身)、そして博物館などが作られました。まさに西洋文化、芸術を受容してきた場所です。
その受容の地から、欧米に向けて、なにかを発信できたらという思いがあった時に、浅利慶太さんや小澤征爾さんにたき付けられたのですね。