何歳までこの会社で働くのか? 退職金はどうもらうのか? 定年後も会社員として働くか、独立して働くか? 年金を何歳から受け取るか? 住まいはどうするのか? 定年が見えてくるに従い、自分で決断しないといけないことが増えてきます。
会社も役所も通り一遍のことは教えてくれても、”あなた自身”がどう決断すれば一番トクになるのかまでは、教えてくれません。税や社会保険制度の仕組みは、知らない人が損をするようにできています。
定年前後に気を付けるべき「落とし穴」や、知っているとトクする裏ワザを紹介したシニアマネーコンサルタント・税理士の板倉京先生の話題の著書「知らないと大損する!定年前後のお金の正解」から、一部を抜粋して紹介します。本書の裏ワザを実行するのとしないのとでは、総額1000万円以上も「手取り」が変わってくることも!

年金は、<br />76歳未満で死ぬなら60歳から、<br />81歳以上生きるなら<br />70歳からもらうのがトク!Photo: Adobe Stock

 年金が受け取れるのは、原則65歳からですが、60~70歳(改正後は75歳までの予定)の間で自由に選ぶことができます。年金を65歳より早く受け取る「繰り上げ」受給は、早く受け取る代わりに年金年額が減ります。一方、65歳より遅く受け取る「繰り下げ」受給は、遅く受け取る代わりに年金年額が増えます。はたして、何歳から受け取るのがトクなのでしょうか……。

 受取開始時期を決める一番のカギは、65歳で受給開始した場合と比べて受給総額がトクになる年齢を表す「損益分岐点」です。

 たとえば、65歳から受給した時の年金月額が16万円の人の場合、60歳から「繰り上げ受給」すると76歳が損益分岐点。70歳から「繰り下げ受給」すると81歳が損益分岐点です。(ただし、年金には税金や社会保険料がかかり、これらは年金額が多いほど高くなるので、実際は、この損益分岐点の年齢よりも、1~2歳ほど、うしろにずれてくる可能性が高いです)

ポイントは、損をどこまで受け止めるか?

 年金をいつもらい始めるかを決めるカギは、リターンとリスクをどう受け止めるかです。

 上記のように年金月額16万円の人が「繰り上げ」を選択した場合、仮に、60歳になってすぐに年金をもらい始めると、65歳からもらい始めるよりも年金が30%減(年間57万6000円減)となりますが、早くもらい始めている効果があり、75歳までは手にする年金総額は多くなります。

 しかし、損益分岐点である76歳を超えると、「繰り上げ」しなかった場合と比べて、毎年57万6000円ずつもらう年金が少なくなります。これが具体的なリスクというわけです。

 仮に90歳まで生きたら、864万円程度ももらえる年金が少なくなるということです。

「繰り下げ」をした場合、仮に、70歳から受け取りを始めると、65歳からもらい始めるよりも年金が42%、年間80万6400円増えます。損益分岐点を超える81歳以降にその効果が出るので、仮に90歳まで生きれば、65歳からもらい始めるよりも806万円程度もらえる年金が増えるということです。これが具体的なリターンです。

一部だけの繰り下げでリスクヘッジができる

 逆に早死にした場合の「繰り下げ」のリスクですが、70歳から年金をもらおうと思っていた人が、70歳直前で亡くなってしまえば、年金は1円ももらえません。60歳からもらっている人なら、70歳直前に亡くなってもすでに1344万円も年金をもらっていることになります。こんな極端な例でなくても、「繰り下げ」は、1回に受け取れる金額は多くなりますが、早死にリスクがあります。

「繰り下げ」の場合、一部だけを「繰り下げ」るという方法もあります。たとえば、16万円の年金月額の内訳が(老齢基礎年金6万円+老齢厚生年金10万円)だった場合、「老齢基礎年金だけ」「老齢厚生年金だけ」と繰り下げする部分を選べるので、リスクヘッジに利用できます。

 具体的な損得が見えると、どうすべきか決めやすくなるのではないでしょうか。 「知らないと大損をする!定年前後のお金の正解」では、受給開始年齢別の「年金額の増減率」と「年金額」、「損益分岐点となる年齢」などを表にしています。「ねんきん定期便」に記載されている、老齢年金の見込み額(年額)を使って、是非、自分の場合を考えてみてください。計算をし直すのは大変ですので、たとえば年金月額が20万円の人であれば、「表の数字の1・25倍」というように考えてもらえばいいと思います。