2020/12/24

【新時代】あなたのパーソナルデータがあなたのくらしを豊かにする

 もはや我々の生活に欠かすことができなくなった「インターネット」。情報を得るだけではなく、買い物、予約といったサービスを利用し、一方で自身が発信したい情報を投稿したりもする。
 その重要度はより高くなるだろう。そこで注目されるのが「インターネット上にある情報をどう扱うか」という視点だ。膨大な情報の集積には、我々の生活をより豊かにする側面と、不適切な管理によって豊かになるはずだった生活が損なわれる側面がある。
 こうした課題に対して、より良い未来の構築に向けてDNPが取り組む「仕組み」。それが「情報銀行」である。元読売ジャイアンツ・上原浩治さんがその「仕組み」と、望む「未来」について聞いた。

個人情報は今、どこでどのように使われているのか?

──まず我々の「個人情報」というのは、どんなところで、どういったデータが、どのように使われているのでしょうか。
勝島史恵(以下、勝島) そもそも個人情報とは、氏名・生年月日・住所など、特定の個人を識別できる情報のことです。それがどんな形で取得したものであれ、個人情報保護法の下、企業などの情報取得者は個人情報を大切に預かり、守らなくてはなりません。
 ところで、上原さんにも、身に覚えのない企業から、DM(ダイレクトメール)が送られてくるなどのご経験はありませんか。
上原浩治(以下、上原) あります。あれってどうやってわかるんでしょう。
勝島 例えば、上原さんは普段、検索エンジンで自分の知りたいことなどを調べたり、SNSに投稿したり、ECモールで買い物したりしますよね?
上原 よくします。
勝島 そこには多くの「個人情報」があります。上原さんが検索したキーワードは「上原さんの知りたいこと」ですし、SNSでは「上原さんの感情」が、ECモールでは「上原さんの欲しいもの」がわかるといった具合ですね。
 加えて、住所や名前、メールアドレスなどを入力することも多いですから、そうした情報が蓄積され、その情報が各社の規約のもとで運用された結果として、DMが来たりするんです。
上原  ECモールや検索エンジンなどは、個人情報を取って何に活用するんですか。
勝島 サービス向上のためにそれを分析・解析して、マーケティングなどに活用しています。例えば、上原さんがECモールでビール1箱を購入したとしたら、購入履歴をチェックして、1か月後に「そろそろビール1箱いかがですか?」といったレコメンドを送ったりする。
上原 なるほど。確かに便利ではあるけど、ビール1箱を頼むのはよっぽどいいことがあった時だから、1ヶ月後に繰り返しはいらないかな(笑)。
 でも、それってプライバシーがないっていうことですか。
勝島 プライバシーと個人情報は同様に扱われることが多いのですが、厳密にいうとちょっと違います。
 個人情報を適切に管理することによって結果的にプライバシーも保護されると考えていただければわかりやすいかもしれません。
個人情報とプライバシーの違い

◆個人情報:本人の氏名、生年月日、住所などの記述等により特定の個人を識別できる情報。

◆プライバシー:個人や家庭内の私事・私生活。個人の秘密。また、それが他人から干渉・侵害を受けない権利。
上原 それでも、僕の情報は知られてしまうわけですよね。そこに問題はないんですか?
勝島 実は、多くのサービスは、個人情報を利用するにあたって利用規約を出しています。そこには必ず個人情報について記載された項目もあり、「あなたの個人情報を大切にお預かりして、こういうことに活用させていただきます」と書いてあるんです。
 でも、そういう規約って長いので、ほとんどの方が内容を全部読むことはないですよね?
上原 僕も全然読まないです。
勝島 毎回、ちゃんと読んで理解していれば、「あ、なんだ。こんなことに使うのね」「だったら私はここに開示したくない」となる。でもほとんどの場合、サービスを受けるために、ポチッと「同意」ボタンを押してしまう。
 例えば、インターネット上で何かショッピングをしたとすれば、そこで登録した個人情報がそのECモール事業者に渡るわけです。
 こうしたデータが積み重なると事業者側は購入者の生活がなんとなくイメージできるようになります。
  この月に何を買って、次の月に何を買って、きっとこの人はビジネスパーソンで、家族は何人だろうとか。
上原 僕の場合、日米を行ったり来たりすることが多かったのですが、そのとき面白いのが、水道局から電話がかかってくるんです。
 急に水を使ってメーターの数字が上がるから、「日本に帰ってきた」と思われるんでしょうね。「念のため、水道、使われていますよね?」と(笑)
 でも、何かサービスを使うとそれが情報になる、というのはこういうイメージですよね?
勝島 おっしゃる通りです(笑)。水道局や電力会社は、独自のガイドラインを作って、その中で運用しています。決して個人情報を漏らしませんから、安心して検針を受けてください、と。
上原 でもどこかで情報が漏れてしまう可能性はないんですか?
勝島 確かに、常にそういうリスクはあります。ただ、水道料金といった「リアルな情報」は業者が特定しやすいんですが、これがインターネット上のサービスとなると、今、世の中にどれだけ自分の情報が流れているのかも、どこから流れたのかもほとんど分からない。なかなか自分で管理しきれません。
 そうした状況にあって、世界各国では対策が取られています。
上原 何かが起きるまで気づかない気がします。
勝島 そうなんです。今、個人情報について私たちが共有して認識すべき課題は、普段はあまりそれに関心を抱いていないということと、実際に被害が起きる可能性もあること。つまり、何かが起きてしまった後で初めて被害を知ることです。
 そこで、データの持ち主である生活者一人ひとりの同意を得たうえで、私たちの代わりに個人情報を集約して管理し、プライバシーも保護してくれる「代理人的な存在」を作るべきなんじゃないか……。
 そうしたニーズの高まりを受けて、生活者に代わって安全に個人情報を管理・運用するための仕組みづくりが、5年ほど前に官民共同で始まりました。その仕組みの中核となるのが「情報銀行」です。

個人情報にはどんな価値があるのか?

上原 考えたことがなかったですが、確かに気になります。例えば、僕の個人情報にはどんな価値があるのでしょうか。
勝島 上原さんの個人情報はちょっと特殊なものも多いと思いますが(笑)、例えば、これまでの病気やケガなどの既往歴は重要な情報です。アスリートの方はケガも多いでしょうから、そうした情報は治験薬の会社などからすればものすごく価値があるものです。
 情報銀行の仕組みを使ってもらえれば、上原さんに「既往歴を治験薬の会社に伝えていいですか?」とお聞きして、了解をいただいた上でその会社に情報を渡します。それが新薬開発につながるかもしれません。
 もちろん、上原さんにもその対価を支払います。例えば1万円で上原さんのデータを治験薬会社に提供したとすれば、そのうちの3割を還元する、といった形ですね。
 これはつまり、上原さんがこれまで価値だとも思っていなかった個人情報に、実は価値があり、3000円の対価が支払われるということなんです。
上原 そうか、情報は価値になるんですね。
勝島 ECモールで買い物をする場合は「金額」に応じてポイントが還元されますが、個人情報の場合はその「価値」に応じてポイント還元されるわけです。
上原 人生で一度もポイントを使ったことがないので、現金がいいな(笑)。
勝島 ハハハハ。
上原 普段、好きな本や飲みものをTwitterやInstagramなどにアップしたりしているんですが、そういう情報自体に価値があるかどうかなんて、まったく意識したことがありませんでした。
──日本における課題はまさにそこにあります。個人情報を知られることへの抵抗感も含めて、情報の何に価値があるのか? という部分がまだ掘り起こされていない気がしています。
勝島 「情報に価値がある」ということこそ、まさに情報銀行がこれから皆さんに届けていきたいことです。
「情報銀行に自分の情報を預ける意味ってあるの?」と聞かれて、「こんないいことが返ってきます」とまず伝えたいです。でも、それだけではなかなか簡単に個人情報を預けられないと思うんですね。
上原 たしかに。でも情報銀行に預けていれば、安全・安心なんですよね?
勝島 はい。例えばLINEやGoogle、Twitter、Instagramなどのサービスを情報銀行を通して利用してもらえれば、個人情報が適切に管理され、プライバシーを保護することにつながるのです。私たちはそうした安全・安心な社会づくりを目指しています。
上原 情報銀行を通して利用する?
勝島 情報銀行は、SNSのサービス事業者などの第三者に個人情報を提供した場合、「あなたの情報を今ここに提供しました」といった証跡(証拠となるような痕跡)を生活者に示すようにガイドラインで決められています。
 もちろん「この情報は提供したくない」と拒否できますし、あとでキャンセルもできますから、上原さんのような著名な方の個人情報とプライバシーも守られ、安全・安心な社会につながると思います。
上原 週刊誌もそういうことをしてほしいなあ。週刊誌の写真もまずこっちに伝えて、それをキャンセルできたらいいですよね(笑)。
勝島 EUでは、それこそ「忘れられる権利」というものが確立されています。
 発端は、Facebookが、ユーザーがあげた情報をもとに一日の感情の起伏まですべて分析して、選挙のデータとして不正利用したとされたことです。それが問題になって、EUでGDPR(※)という規則が適用されました。
 インターネット上のサービスは、個人の同意の取り方が非常に曖昧なものも多く、何らかのサービスに登録したり、検索したりした時点で、そうした情報は把握されていると思ったほうが良いと思います。
※GDPR(EU一般データ保護規則:General Data Protection Regulation)
個人情報(データ)の保護による人権の確保を目的に、2016年4月に制定された。EU加盟国に対して、欧州経済領域(EEA)内で取得した氏名やメールアドレス、クレジットカード番号などの個人情報をEEA域外に移転することを原則禁止。違反行為には高額の制裁金が課される。
上原 それを気にしながら登録や検索をしている人っていないですよね、日本人で。
勝島 その点で言うと、日本はまだこうしたことへの関心が薄いのだと思います。
 ただ、現状はGAFAに代表される大手プラットフォーマーが情報を独占していて、多くの人がそのメリットを享受できていない。適切に管理されているとは思いますが、これからは日本人も、自分のこととして考えていかないといけないと思います。
上原 怖いですよね。自分の情報を守ってくれるのはすごくありがたいことですけど。
勝島 そうですね。守るべき情報──、これは絶対に外に出してはダメよというものを守りながら、価値ある自分のものをどんどん提供して、自分の生活や人生を良くしていく。
 情報銀行には、そこを仕分けして、ちゃんと個人情報とプライバシーを守る、というコンセプトがあります。
上原 今は、誰もが携帯で写真を撮ってSNSにあげられるじゃないですか。「有名人の誰々がここでご飯食べてる」とか、その人の許可を取らずにSNSにアップしたりしている時代でしょう。プライバシーがない。
 こっちは別に開示に同意しているわけではないけど、結局、周りの人が勝手に僕の情報を開示している。それを止められるようにしてほしいですよね。
勝島 個人情報とプライバシーについては、同時に考えていかなきゃいけない領域です。これも情報銀行で解決していこうと考えています。

第二、第三の上原が生まれる!?

上原 情報銀行に個人情報を預けたら、具体的にどんなサービスが受けられるんですか。
勝島 上原さんは野球に関しては誰にも負けない情報をお持ちですが、そんな上原さんでも、「うわっ!なんで分かったの?」と驚くぐらい、ぴったりとマッチングしたサービスを提供することができます。
 例えば、生まれた時からのすべての個人情報、母子手帳の情報を含め、一生分のライフログを登録してもらい、それを情報銀行が運用していくことで、オーダーメイド化したその人だけのサービスを提供できるようになるわけです。
上原 たしかに、いろんなところに情報を預けると、自分であれもこれも管理するのは面倒臭いですもんね。
──失礼ながら、上原さんは高校まで言わば無名の選手で、日本を代表する投手のポテンシャルを持ちながら、なかなかスカウトの目には留まりませんでした。それは、上原さんの情報が伝わっていなかったと言えます。でも、上原さんが情報銀行に「プロ野球選手になりたい」とか、「今140キロ投げられるようになった」とか、そういった情報を貯めていっていたら、もっと前にプロのスカウトが見つけてくれていたかもしれません。
上原 でも、自分で「この日、140キロ出しました」って伝えたとしても、それをどうやって証明するんですか。
勝島 もう少しITが進化すれば、IoTデバイスを着けて投げると、140キロ出たというデータが自動的に情報銀行に貯まるようになるとか、そういったことも増えていくと思います。
上原 スカウトがわざわざ地方に出かけなくてもいいみたいな感じになるんですね。
勝島 本当にそうなる可能性があります。
 スカウトさんの仕事で言っても、本人を実際にアナログで見て分かるものもありますが、すべての選手を見て回ることができなかったりすると思います。情報銀行に蓄積されたライフログのような情報によって、埋もれた原石みたいな選手を今以上に発掘できるようになるかもしれません。
──上原さんは大学1年生の全国大会で、当時ドラフト候補として注目されていた東北福祉大学の門倉健さんと対戦し、延長11回まで投げ合い、それがスカウトの目に留まったのですね。最初のステップは偶然だったようにも思います。
上原 そうですね。
──情報銀行に情報を貯めていけば、「上原っていう相手ピッチャーがすごいらしいぞ」ということを事前に知ることができる。情報銀行によって、スカウト活動自体がもっと効率化されれば、第二、第三の上原さんがもっと見つかるかもしれません。
勝島 あとは、やはり上原さんみたいになりたいっていう小さいお子さんが絶対にいるじゃないですか。
 上原さん自身が、小学校の時にこんな練習していたからプロ野球選手になれたんだっていう情報を開示してあげることで、「上原さんがやった通りにやってみよう」って思う子どもも増えると思います。夢に向かってどうやって歩んでいったらいいのか分からないという悩みを持っている子どもたちに、上原さんの情報は大きな価値があると思います。
上原 いいですよ。でも、そこはダルビッシュ有選手や田中将大選手のほうがいいよっていう情報を開示します(笑)。
勝島 ハハハハ(笑)。そういう情報が選択できる可能性ももちろん出てきます。
上原 それは冗談ですが、公立高校の人たちとかはなかなかスカウトの目に留まりづらいでしょうから、そういう情報のおかげで、もっと子どもたちのチャンスが広がっていくのはすごくいいですね。

安全・安心を与えるパーソナル・コンシェルジュ

──最近、上原さんの悩みとして、こういうサービスがあったらいいな、というものはありますか。
上原 世の中が便利になりすぎてどうしていいかが分からないのが、悩みなんです。
 本当に時代に遅れているというか。僕のそばに誰か一人いて教えてほしい。本当にそのくらい何も分からないんですよね。
勝島 昔、近くの八百屋さんや魚屋さんのおばちゃんに、「おたく昨日はお肉食べたから、今日はお魚よね?」とかって、うちの母は言われていたわけです。「お魚いいの仕入れておいたから」って。家族の情報も好きなものも全部知っていました。
 でも今の日本社会って、そういうつながりがなくなってきて、スーパーマーケットは、誰がどんなものを買ったかまでは分からない。昔の、そういう古き良きものが、情報銀行によって喚起していけると思っているんです。
「魚は鯛が入るの? じゃあ4人分取っておいてね」「わかったわ」といったやりとりが、ITの進化によって生活者と情報銀行の間でできるようになる。
 これを「発展的回帰」と呼んでいます。こうした身近なコミュニティみたいなものが、また実現するんじゃないかな、と思っているんです。
上原 たしかに、おっちゃんやおばちゃんらが言ってたようなことを情報銀行がやってくれるのであればすごく楽ですよね。
 それこそ八百屋のおっちゃんやおばちゃんは、そういう時代についていけるんですかね。僕も置いていかれているくらいですから。
勝島 情報銀行は、まさに人生に寄り添うコンシェルジュを目指しています。生活者が何か困った時に手を貸すとか、情報が雑多になってきたと思ったら整理してあげるとか、次はこうすべきって指南をしてあげるとか、そういう役割を担っていく秘書のような存在ですね。
上原 すごくほしい! カードのポイントをどうやって貯めて、どうやって使ったらいいのかさえ、全然分からないですから。
──これまでのECショッピングの金額を換算したら、すごいポイントになっているのでしょうね。全部捨てているんですよね?
上原 だって使い方が分からないんですよ。飛行機のマイルだってそうじゃないですか。あれも分からないから使ったことがない(笑)。そういったことはすべて妻に任せてあるんで。
勝島 奥さまが全部管理されていらっしゃるということは、今は奥さまが情報銀行なんですね。
──情報銀行にその情報を貯めていくとすべて教えてくれます。
上原 だから教えて! どう使っていいかも分かっていないんですよ。
勝島 例えば、「上原さんのポイントは現在何万ポイントあるので、今だったらこんなところに無料で行けますよ」とか、「秋はここが良くて、人数的にもご家族みんなで行けるぐらいのマイルが貯まっています」と教えることができますし、「ここに行くと無償のグルメ券みたいなものがありますよ」といったサービスの提供まで情報銀行は担っていこうと思っています。
上原 ぜひお願いします!
勝島 情報は「21世紀の新しい石油」とも言われているぐらい価値があるんです。
 その価値があるものを、銀行でお金を運用するように、きちんと自分の意思を働かせながら運用していく感覚は必要になると思っています。
上原 その運用をしてくれるのが情報銀行。
勝島 はい、そうです。
上原 自分の情報って知らない間に価値が高まっていく。情報銀行であれば、変に意識して構える必要なく、情報を預けていいんですね。情報銀行がパーソナル・コンシェルジュになってくれるのは助かります。
勝島 個人情報は、そのままにしているよりは、ちゃんとした同意のもとで預けた方がいいですし、そのほうがいろんなサービスが受けられて、プライバシーも守られます。
 これから個人情報は預けた方が安全・安心──。そんな世の中を、情報銀行は生活者のパーソナル・コンシェルジュという立場で支えていきたいと思います。
■DNPが考える情報銀行について
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