「世界に壁はない」超精密鏡面加工でオンリーワンになった宮城の企業TDCの赤羽社長(著者撮影)

海外18カ国、100社と取引
はやぶさ2の回収容器も加工

 宮城県仙台市の郊外、利府町に本社を置くティ・ディ・シー(以下、TDC)は、見た目は町工場そのものだ。だが、その中身がすごい。同社は金属、セラミックス、樹脂、ガラスなどどんな素材でも、どんな形状でもナノレベルの精度で研磨できる超精密鏡面加工技術を持つ世界オンリーワン企業だ。

 海外18カ国、100社と直接取引し、中には大学など研究機関からの注文も少なくない。国内取引先は累計で3000社、主に自動車、半導体、宇宙産業の企業を中心に、MEMS(微小電気機械システム)のセンサーなど超精密部品の加工が多い。世界で同社しかできない加工品もある。

 宇宙誕生直後の重力波を調べるために南極に設置された電波望遠鏡「BICEP3」のミラーは、同社が磨いた。2019年7月に世界初となる小惑星内部の岩石採取に成功した「はやぶさ2」のサンプル回収容器を鏡面加工したのも、TDCだ。社長の赤羽優子は、少し誇らしげにこう語る。

「はやぶさ1で回収したサンプルは、わずか20~70マイクロメートルという微細なもので、容器の切削目に詰まってしまって、それがこすれると容器の成分が混じるという問題があったそうです。そこで、はやぶさ2では内部を極力平滑にしたいと当社に依頼があり、鏡面加工をしました。宇宙の仕事は社員やその家族も誇れるし、夢があります。ひょっとするとダイヤモンドより硬い物質が入っているかもしれないとのこと。早く帰ってきてほしいものです」

 同社は独自の研磨技術を持ち、材質を問わず、寸法精度±100ナノメートル(以下、nm)、面粗さRa(粗さの平均)1nmという精密さで研磨できる。1nmとは、なんと水分子3つほどのサイズだ。

「いろいろな材質で、ここまでの精度を出せる企業はほかにありません」と赤羽は言う。