2020/11/4

【道路を再考】「路肩」を制したものがモビリティ革命を制する

牧村 和彦
一般財団法人計量計画研究所

コロナ禍前から始まっている路肩の争奪戦

密を避けた移動や、公共交通だけでは不可能な移動に対処すべく、いまMaaS(Mobility as a Service)の領域で「ドアtoドア」の移動サービスが数多く登場している。
実はいま、そうしたサービスが参入するにあたり「路肩」を巡る競争が激化している。
路肩とは、車道と歩道の間の空間を指し、縁石とも呼ばれる空間だ。コロナ禍以前からこの路肩の争奪戦が欧米中心に激しさを増していた。
georgeclerk/iStock
例えば送迎車両は、顧客からのオーダーがあればできるだけ近くの場所で車両を待機させたいものだ。
また待機時にも車両を安全に停車できる場所が多ければ多いほど、サービスの質も高くなるだろう。
路肩をどう管理していくか、自動運転タクシーなどの配車サービスが普及していく上で一層重要になることは自明だ。
最近では世界中でシェアサイクル や電動キックボードなどのマイクロモビリティが急増し、これらのポートとして路肩が活用されている。
また、自転車レーンやバス専用レーンなど、走行空間としても路肩の利用が進んでいる。
このコロナ禍で宅配の需要が急増したこともあり、貨物車両が荷さばきするためのスペースとしても利用ニーズが高まっている。
路肩を制したものがモビリティ革命を制する、と言っても過言ではないだろう。
短時間用に計画的に配置された路肩の駐車スペース(米シアトル、筆者撮影)

ダイナミックプライシングとは

そして、空間の確保に加えて、限られた「空間の価値」をどうマネジメントするかとう発想も重要だ。
モビリティ政策に先進的な都市・サンフランシスコでは、路上の駐車場にダイナミックプライシングを適用して成果を上げている。
これは2011年から3年間の実証実験を経て本格運用を開始した。現在は駐車スペースの稼働率によって課金額を変動させ、四半期ごとに基準が更新される仕組みをとっている。
例えば1つの駐車スペースが1時間6ドル(約660円)のエリアもあれば、1時間3ドル(約330円)のエリアもある。
エリアごとの稼働状況で価格が決まり、曜日や時間帯などで変動する仕組みだ。
とあるエリアでは、深夜から朝9時までは1時間3ドル、9時~15時までは1時間5ドル、15時~18時までは1時間4ドルといった具合に時間によっても変動する。
都市部では駐車場を探す車両が渋滞を生じさせたり、その分多くの排気ガスを出し続けることになる。運転手としてもロスする時間は膨大だ。
ダイナミックプライシングとその情報提供は、駐車場探しの時間が短縮されるだけではない。グリーンリカバリー」が語られる欧米では、地域全体のCO2削減に貢献する政策としても近年注目されている。
料金メーターに時間帯の課金額が表示される(米・サンフランシスコ、筆者撮影)

リアルタイム情報の提供義務も

米国では、都市部などの限られた空間を有効利用し、CO2等の環境問題への対応を進めていくため、新しいモビリティサービスに対する道路利用課金が始まっている。
Amazonやマイクロソフトの本社があるシアトルでの取り組みを紹介しよう。
シアトルでは新しいモビリティサービスをスタートする際に、サービスができる場所を詳細かつ明確に指定している。
また、車両サイズや保険への加入等、参入条件なども詳細に規定されている。
例えば、カーシェアリングを路上で運営する場合には、年間3000ドルの費用と1台当たり1230ドルがかかる。
路上駐車スペースは有料であり、1230ドルにはその費用が含まれている。合わせてAPIを通して車両のリアルタイム情報(車両位置、車種、燃料レベル、エンジンタイプ)の提供が義務付けられている点は興味深い。
自転車シェアリングも同様に、ポートが設置できる場所が規定されている。営業するためには、年間許可費用146ドルと登録申請費用約1700ドルに加え、1台当たり15ドルがかかる。
また、違法駐輪の移動のための費用は別途請求される。カーシェアリングと同様に、APIを通して車両のリアルタイム情報(位置、車種、燃料レベル)の提供が義務付けられている。
リアルタイム情報の提供を義務付けられていることは、官民一体となった交通データの連携と見ることもできる。

電動キックボードも参入

そしてこの秋から開始予定なのが電動キックボードの参入だ。
Garrett Aitken/iStock
自転車シェアリングと同様の課金スキームとなっており、1台当たり年間150ドルが予定されている。
また、APIを通したリアルタイム情報の提供も義務付けられており、米国で進んでいるMDSの標準フォーマットが推奨されているようだ。
コロナ禍においては、路肩がオープンレストランになったり、歩道や自転車道になったりと臨機応変に機能を変え、道路が人々の安全、安心を支えてきた。
今回取り上げたような路肩の活用やダイナミックプライシング、路肩利用による官民データ連携は、モビリティ革命やスマートシティ時代を見据えた道路利用の先行的な取り組みであろう。
自動運転による配車サービスやデリバリーサービスを本格的に普及、加速していくための都市の装置として、「路肩」の価値はますます高まっていくことは間違いない。