1.まず用語の整理をします。

 

「機関の空売り」とは、

ゴールドマン、モルガンスタンレー、BNPパリバのような主に外資系証券会社が「名義上の空売り」をすることです。

また、「機関の空売り」はSNS上の用語で、金融では使用しないと思います。(時代によって変わる

ので不明)

 

 

ここで使われる空売り機関とは、機関投資家とは違います。

本来的な、機関投資家については、

 

SMBC日興証券のはじめてでもわかりやすい用語集に記載されています。

”機関投資家とは、生命保険会社、損害保険会社、信託銀行、普通銀行、信用金庫、年金基金、共済組合、農協、政府系金融機関など、大量の資金を使って株式や債券で運用を行う大口投資家のことをいいます。

 

一般的に機関投資家は、あまり短期間での売買をしないのが通常です。
優良企業の株をじっくりリサーチしたうえで買いの判断を下し、長期的な企業の成長や経済の状況を見ながら運用し、上昇トレンドに乗り始めるとまとまった資金で買い足していくというスタンスの機関投資家もたくさんいます。また、下降トレンドになれば機関投資家の大量の売りが出たりします。そういう機関投資家の動きは、出来高を見るとよく表れていますので、個人投資家は出来高を参考にすることで機関投資家の売買タイミングを計ることができます。”

 

2.プライム・ブローカレッジ

空売り機関残高情報を見ると、登場する空売り機関はほとんど外資系証券会社です。

また、プライム・ブローカレッジ・ビジネスは「機関の空売り」に直結するビジネスです。

今までいただいた質問も交えて、どのようなビジネスかを説明します。

 

プライム・ブローカレッジ・ビジネスは、証券会社(機関)による与信ビジネスです。

ヘッジファンドは、レバレッジを使って運用しています。例えば、純資産100億円、レバレッジ10倍のヘッジファンドは、1,000億円(100億円x10倍)の運用をします。純資産100億円は米国債を購入し、900億円は株式を信用買いや信用売りを行います。

この900億円分は与信行為となります。

これが「機関の空売り」の正体です。空売りをしていたのは外資系証券会社ではなく、顧客のヘッジファンドでした。

 

質問に、”なぜ同じ外資系証券会社が、同銘柄を信用買いしたり、空売りしたりするのですか?”とありましたが、

 

例として、機関はGS(ゴールドマンサックス)、顧客はA、B、C、Dのヘッジファンド、銘柄はソニーとします。

AとCヘッジファンドは、ソニーを空売りしました。BとDヘッジファンドはソニーを信用買いしました。A、B、C、DヘッジファンドはGS名義で売買するために、GSが信用買いと空売りの両方をしているように見えますが、実際は顧客であるA、B、C、Dという異なる顧客が売買をしています。

 

外資系証券会社にとってプライム・ブローカレッジ・ビジネスは非常に重要です。では、なぜ日本の証券会社がやらないかというと顧客が海外ヘッジファンドであり顧客カバーが難しいこと、ノウハウがないこと、与信ができないことなどが理由となります。野村證券の場合は、リーマンブラザーズを買収したためノウハウはあります。

 

3.空売りのやり方

プライム・ブローカレッジ・ビジネスの中で、重要な仕事に貸株ビジネスがあります。プライム・ブローカレッジ・ビジネスを提供する外資系証券会社は、大株主に登場する機関投資家や個人株主から、借株料を支払って株式を借ります。

そして借りた株を、借株料より高い貸株料をヘッジファンドにチャージします。もちろんヘッジファンドは外資系証券会社名義で空売りをします。

 

ひとつ注意があります。

外資系証券会社が、大株主から株を借りたときに、大量保有報告を出すことがあります。

例えば、A株式、大株主B、保有割合30%の場合に、JPモルガンが10%の株を借りた場合、JPモルガンが大株主に登場しますが、これは、JPモルガンがA株式を買ったから上がると勘違いすることがありますが、実際は、借りているだけです。それも空売りのための貸株のためなので、下落要因になる可能性があります。

この場合は、保有株式はダブルカウントになり、大株主Bは貸しているだけで引き続き30%保有、JPモルガンは10%保有というように開示されます。株式の賃貸借には、コーラブルと呼ばれる貸主がいつでも返してほしいと請求できる契約とノンコールという一定の期限までは返してもらえない契約があります。いずれにしても借株はいつか返済しなければならず、空売りは買い戻さなければなりません。

 

また、空売機関の空売り残高情報と日証金貸借取引残高の売り残は別物となります。

 

以上が「機関の空売り」の仕組みとなります。