[東京 30日 ロイター] - 三菱重工業<7011.T>は30日、国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット」(旧MRJ)の事業を凍結すると正式発表した。開発が遅れていたところに新型コロナウイルスが直撃し、顧客である航空会社の業績が悪化、受注は当面見込めないと判断した。開発費は来年度からの3年間累計で200億円とし、過去3年間(3700億円)の20分の1近くに圧縮する。納期も新たに設定しない。開発はいったん止めるが、旅客需要の本格的な回復を24年前後と想定し、再開に向けた事業環境の整備に取り組む。

泉沢清次社長は同日のオンライン会見で、スペースジェットの開発活動は「いったん立ち止まる。飛行試験は見合わせる」と述べた。直近で21年度以降としていた納期についても「新たに設定していない」と話した。ただ、商業運航に必要な「型式証明」の取得に向けた文書作成作業は続けるという。

泉沢社長はまた、ステークホルダー(利害関係者)の支援を得ながら、開発が長期に及び、さらに立ち止まるという判断をしたことについて「たいへん申し訳ない」と陳謝。その上で「つどつどの判断は適切に議論し、進め方を決めていると理解している。誰か特定の個人に責任を課すというものではない」とも語った。顧客には「今回の決定をご説明し、今後どう進めていくかについては誠意をもってご相談させていただく」と話した。

開発凍結の発表を受け、初号機の納入を受ける全日本空輸の親会社ANAホールディングス<9202.T>の広報は「詳細内容を確認し、引き続き情報をいただきながら今後の計画を精査していく」とコメント。納入先の1社、日本航空<9201.T>の菊山英樹専務執行役員も同日の決算会見で「(三菱重の)計画などを伺いながら(日航の)計画を練っていく」と述べた。

スペースジェットは08年に事業化が決まり、三菱重の子会社、三菱航空機(愛知県豊山町)が開発を主導。まずは90席クラスの事業化を目指し、当初は13年の納入開始を予定していた。ただ、設計変更などにより納期を6度延期、これまでの開発費用は総額1兆円規模に上る。

スペースジェットを含む民間航空機・石炭火力・商船の各事業の縮小を見込み、国内では23年度までに3000人規模の人員調整を行う。まずは社内での再配置を実施し、外部企業への出向も検討している。泉沢社長は「社員の雇用確保を第一に考え、希望退職を募る計画はない」とした。一方、海外では2000人規模の人員削減をすでに実施した。

同時に発表した9月中間連結決算(国際会計基準)は、純損益が570億円の最終赤字だった。23年度の連結売上高は20年度見込み比で約8%増の4兆円を計画。20年度に1%を見込んでいる事業利益率は7%への改善を目指す。エナジーとモビリティなどの新たな成長領域に1800億円を投じ、売上高1000億円規模の新事業を創出する。

(白木真紀 編集:田中志保)