2020/10/28

【検証】「若手育成」のために必要な我慢とは、ロッテの挑戦

編集者
プロ野球パ・リーグは、福岡ソフトバンクホークスが3年ぶりのリーグ優勝を決め、その前日にはドラフト会議が行われた。
「勝利」と「将来のスターたち」。
コロナ禍の影響で異例のシーズン中のドラフトだったからこそ生まれたこのタイミングで「勝利」と「育成」の関係を考えてみたい。
ドラフト会議はプロ野球選手への「内定通知」のようなものだ。話題性があり、プロ野球ファンにとっては一つのハイライトだが、指名された選手、指名したチームからすれば「いかに育つか。育てることができるか」の始まりである。
スポーツ界では「育成」と言われるそれは、プロスポーツにとって最も重要で最も難しい問題である。
「勝利」を目指す中で「育成」をする。二者の関係が正比例であればいいが、そうは簡単にいかないのが、プロ野球にとどまらない組織の、チームの常である。
例えばそれはチームの資金力にも大きく左右される。
経営基盤がある球団であればあるほど、有望な選手を「育てなくても獲得」できる可能性があり、また獲得した選手を中心に勝利を目指すことで、それ以外の選手を「育てる」余裕が生まれる。
2位を大きく引き離して優勝を決めた先のホークス、そしてセ・リーグで首位を快走する読売ジャイアンツが育成枠をうまく活用し、チームの中心選手を育て上げることができているのも、──「育成力」はもちろんではあるが──、資金力をバックボーンにした選手層があることは否定できないし、それも戦略である。
しかし、どのチーム、どの組織も同じような戦略を取れるわけではない。資金力や伝統といった積み重ねられたものはすぐに変えることはできないからだ。
ではそんな中で「勝利」と「育成」のバランスを取っていくことはできるのか。
興味深いチームが、現在パ・リーグ2位につけ、4シーズンぶりのクラマックス・シリーズ進出を目指している千葉ロッテマリーンズである。
誰もが知るような圧倒的なスターはいない。シーズン前の下馬評も高くなかった。年俸総額は12球団で最下位である。
そんな中で、未来のスターを作り上げる「育成」プランを押し進めながら、今シーズンも奮闘している。
千葉ロッテマリーンズのが示す「勝利」と「育成」のバランス。その結果が出るのはもう少し先になるかもしれない。ただ、その取り組みは一つの重要なサンプルになる。
王道とも言えるその方法論とは。

勝利を求めすぎると犠牲になる育成

2017年、マリーンズは球団史上ワーストの87敗を喫しリーグ最下位に沈んだ。
同年オフ、その年限りで現役を引退した井口資仁が監督に就任。3シーズン目を迎えた井口イズムは着実にその歩みを進めている。
プロスポーツにおいて、チームの勝利と、選手の育成は相性が悪い。
プロである以上、勝利を第一に求めて戦うが、一方で若手選手に経験を積ませるためにはその勝利を犠牲にしなければならない場面にも遭遇するからだ。
選手総年俸の数字が示すとおり、現時点のマリーンズの戦力は間違いなくリーグ下位である。その環境の中で井口監督はどのように「勝利」と「育成」の相反する命題を両立させようとしているのか。
プロ野球ファンの多くの方は、マリーンズと言えば「下剋上」というワードをイメージするのではないだろうか。