Chad Terhune

[19日 ロイター] - マリオ・ブエルナさん(28)は、子どものいる健康な男性だった。それが発熱から呼吸困難に陥ったのは今年6月。間もなくCOVID-19(新型コロナウイルス)の陽性と診断された。

数週間後、回復過程にあるように見えたブエルナさんは、脱力感を覚え、嘔吐(おうと)するようになった。8月1日午前3時、彼はアリゾナ州メサの自宅で意識を失い、床に倒れた。

救急隊員が彼を近くの病院に急送し、医師たちは昏睡(こんすい)状態を解消した後で集中治療室に運んだ。診断された病名は「1型糖尿病」。ブエルナさんは仰天し、震え上がった。これまで糖尿病の病歴など全くなかったからだ。

医師からは「COVID-19が原因だ」と言われた、とブエルナさんは言う。

ブエルナさんを襲った危機や類似の症例に見られるように、糖尿病とCOVID-19の危険な関係について新たな懸念が生じており、世界中の医師・科学者らが解明を急いでいる。COVID-19が糖尿病発症の引き金になりうると確信する専門家も多く、従来のリスク要因とは無縁だった一部の成人・子どもでさえ、例外ではないという。

糖尿病患者がCOVID-19に罹患(りかん)した場合、重症化・死亡のリスクがかなり高くなることは、すでに十分に報告されている。米国の保健当局者は7月、COVID-19による死者の40%近くは糖尿病を患っていたことを明らかにした。ここに至って、ブエルナさんのような症例からは、2つの疾病の関係が双方向であることがうかがわれる。

キングスカレッジ・ロンドンで代謝障害・肥満治療部門を率いる糖尿病研究者のフランチェスコ・ルビノ博士によると「COVID-19は、ゼロから糖尿病を発症させる可能性がある」という。

ルビノ博士は、グローバル規模で症例を収集している国際チームを率いている。目的は、今回のパンデミックにおける最大の謎の1つを解明することだ。同氏によれば、検証のために症例提供を申し出た医師は当初300人以上いたが、感染例が再び急増する中で、協力する医師の数はさらに増えると予想している。

ルビノ博士はロイターに対し「こうした(糖尿病を発症させる)症例は、世界各地、あらゆる大陸から集まっている」と語った。

このグローバル規模の症例収集プロジェクトの他に、米国立衛生研究所も、新型コロナウイルスが高血糖値と糖尿病の原因になる仕組みの研究に資金を提供している。

こうした状況では症状が急速に進み、生命を脅かす可能性がある。症状が表面化するのはCOVID-19に罹患してから数カ月も後になる場合があり、問題の全容と長期的な影響が判明するのは年明け後、かなり先になりそうだ。

COVID-19が広い範囲で糖尿病の引き金になるということが、散発的なエビデンスだけでなく、決定的に証明されるまでには、さらに集中的な研究が必要となる。

米国糖尿病協会の医療・科学部門代表のロバート・エッケル博士は「今のところ、答えよりも疑問の方が多い」と話す。「私たちは今、全く新しい形の糖尿病に取り組んでいるのかもしれない」と説明した。

<「ひどく恐ろしい」診断>

1型糖尿病は、人体の免疫システムが誤って膵臓のインスリン分泌細胞を破壊してしまい、血糖値の調整を阻害することで発症する。米国内の患者は約160万人だ。

もっと広く見られるのは2型糖尿病で、約3000万人の米国民が罹患している。こちらの患者ではインスリン分泌は続いているものの、長年の間に細胞がインスリン耐性を獲得してしまい、血糖値の上昇を抑えられなくなる。

これまでにも、インフルエンザや既知のコロナウイルスなどによる感染症と関連した1型糖尿病の症例はあった。感染によって人体がストレスを受け、血糖値が上がることは分かっている。だが、これは糖尿病になりやすい素因を持つ人に生じやすい症状だった。最終的に糖尿病を発症する人は一部に限られ、科学者らはその理由をまだ完全には理解していない。

今年になって医師たちが目にしているのは、加齢や肥満といった2型糖尿病のリスク要因を持たないのに、COVID-19罹患後に糖尿病の急性症状を発現する人々である。

1型糖尿病の場合、初期症状として極端な喉の渇き、頻尿、体重減少などがある。アーサー・シミスさんには、これらが糖尿病の徴候とは全く分からなかった。

この夏、アーサーさんと妻のサラさんは、12歳の息子アティカスくんがやせた様子で、寝てばかりいることに気づいた。夫妻は、パンデミックのために家に閉じこもってばかりいるストレスか、成長期にあるせいだろうと考えた。

7月9日、アティカスくんの症状が続くため、アーサーさんは息子をネバダ州ガードナービルの自宅に近い緊急医療センターに連れて行った。医療スタッフは血糖値と尿中のケトン値が危険な高さになっていることに気づいた。どちらも、アティカスくんが糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に陥っていることを示していた。

医師はシミスさんに、新たに診断された1型糖尿病による昏睡を回避するには、直ちに病院での治療が必要だと告げた。父子は最も近いリノの病院まで50マイルを救急車で運ばれた。

このときアーサーさんは「どうして息子が糖尿病に」と医師たちに尋ねたという。「ひどく恐ろしかった」──。

アーサーさんは、息子が新型コロナウイルスに感染していたと考えている。この春、妻サラさんとともに症状が見られたからだ。夫妻は緊急医療センターを訪ねたが、当時は検査実施の基準が厳格化されていたため、新型コロナウイルスの検査は受けなかった。カルテによれば、集中治療室(ICU)での検査ではアティカスくんは新型コロナ陰性と診断された。だが、何週間も前にウイルスを身体に取り込んでいたか否かを判定する抗体検査を受けたことはない。

<経済的困窮という追い打ち>

糖尿病の急性症状から生還しても、新たに糖尿病の診断を受けた患者の生活は激変する。投薬その他糖尿病を管理するための医療用品には毎月数百ドルの費用がかかり、多くの地域では、内分泌科医の診察を受けるには長く待たされるのが一般的だ。

アリゾナ州の患者、ブエルナさんの場合、診断を受けてから2カ月以上も経過したが、継続的な血糖値測定の保険適用については、加入しているメディケイド制度での承認待ちが続いている。病気のために彼は何週間も仕事に行けず、家計は窮迫した。妻のエリカさんは妊娠8カ月で、3歳の娘カタリーナちゃんもいる。ブエルナさんがまだICUにいた8月2日、一家は立ち退き通知を受けた。食事をフードバンク(無料給食所)に頼ることもある。

ブエルナさんは入院中、家族の見舞いも制限されたことでうつ状態に陥ったという。元気づけてくれたのは、姉妹からの電話だったという。

「子どもたちの成長を見守れるように、元気になりたい」と彼は言う。「まだ、この世を去るわけにはいかない」と──。

(翻訳:エァクレーレン)