2020/10/27

【澤円】“怒られたくない”ループから、脱却する方法

Kanai Asuka
NewsPicks Brand Design editor
 なんだかやる気が起きない日報や、習慣化しない案件共有……。
 チームの生産性を上げる必要性は理解しつつも、ついサボってしまうこれらの報告。私たちはなぜ、「情報共有」が苦手なのだろうか。
 情報共有コンサルタントの経験を持つ圓窓の澤円氏によると、その根元には「怒られたくない」心理があるという。その真意とはなんだろうか? チームの生産性を高める働き方の極意とは? 話を聞いた。
日報を書くのは、なぜ面倒?
── 澤さんは、もともと情報共有を専門としたコンサルタントをしていたのですよね。
 そうです。「Windows 95」が発売されて、パソコンやインターネットが一般人の手に渡り始めたちょうどその頃、「グループウェア」と呼ばれる製品群も登場してきました。黎明期から、グループウェアに関わってきたんです。
 マイクロソフトで働き始めた頃で、「Microsoft Exchange Sever」というメールプラットフォームの導入支援をしていました。当時注力していたのは、社内の情報を一覧で見られるようにすること。
 そう考えるとインターネット黎明期から、情報共有は企業の悩みのタネだったんですね。
── 最近はコロナウイルスの問題などで対面のやり取りが減る分、情報共有の重要性はますます高まっていそうです。
 ですがなぜ、20年以上前から社内の情報共有が問題視されていながら、私たちは「共有」が苦手なのでしょうか?
 いま、日報って毎日出していますか?
── えっ? いまは書いていませんが、以前の職場では書いていました。
 楽しい作業でしたか?
── いえ、嫌いでした。仕事が終わって、帰りたくてしょうがないときに書くものだったので……。
 そうですよね。日報を書くときに、人はワクワクしないんです。なぜなら日報は、過去に行ったタスクを振り返るだけの作業だから。
 今日あった商談の内容を、進捗シートに書き込む。今日受けた問い合わせの内容を、社内会議で報告する。どれも過ぎた事柄を振り返る作業で、未来への発展性がないからつまらない。だからこそ習慣化せず、情報共有は長年ビジネスパーソンを悩ませてきたんですね。
情報共有の過去・現在・未来
── そう言われてみると、“過去を振り返る”情報共有はワクワクしないからこそ、後回しにして時間がかかったり、忘れてしまったりした経験があります。
 そもそも情報共有は、よく言われる「報・連・相」に分類できます。
 先ほどの日報や結果共有は、「報告」の典型的な例ですね。これが、過去に起きたことを共有する作業です。
「連絡」は、「今日休みます」「いま帰ります」など、現在起きていることを伝える手段。電話やチャットでの、スピーディーな共有が求められます。
 最後の「相談」は、「この製品はどう売っていこうか」「来期の予算はどう配分しようか」といった未来の話。これが一番ワクワクする情報共有と言えるでしょう。
 僕がずっと感じているのは、「報告」に時間と手間をかけ過ぎている人が多いこと。そうすると相対的に、未来について「相談」する時間が減ってしまう。
 もちろん「報告」が無駄と言いたいわけではありません。ですが、やはり大事なのは過去より未来の話なのです。
私たちはみな、「怒られたくない」
── なぜ私たちは、「報告」に重きを置いてしまうのでしょうか?
 その理由はただ1つ、怒られたくないからです。
 怒られないために、「ちゃんとやってます」と細かく報告したくなる。部長は部長で社長に怒られたくない、社長は株主に怒られたくない、という連鎖があるので、上司も部下に詳細に報告させたがるんですね。
 こうして怒られたくない負のスパイラルができあがっているんです。
 また「怒られたくない」ゆえに、報告の作業において最も大切な“不変性”が、揺らいでしまう可能性もあります。
 報告は過去のことですから、勝手に変えてはいけないですよね。数値データであれば特にそうです。
 でも怒られたくない気持ちを優先してしまうと、怒られそうな出来事が発生したときに、報告をごまかしてしまうんです。
 小さなことだと、自分のミスを上司に言わないで片付けたり、商談をしていないのに行ったと嘘をついたり。これが大きくなってくると、粉飾決算や不正会計になってきます。
 だからこそ、報告はできるだけ効率化して手間を減らすと同時に、そもそも情報が属人化しないよう、情報をオープンに共有していくことが望ましいのです。
非効率的な日本のメール文化
── この課題に関して、前職でマネジメントの立場だった澤さん自身は、どのように向き合っていましたか?
 マネジメントする上では、「報・連・相」のうち、相談以外は対面で行わなくて良いと伝えていました。
 そうすると僕のチームのメンバーは、何かあったときにそれが過去・現在・未来のどれにあたるのかを考えて、相談のときだけ僕との時間をおさえます。そうすればお互いの時間を無駄にしなくて済みます。
 相談にできるだけ多くの時間を割くために、過去の報告や現在の連絡は極力効率化して、時間を割かないことが重要です。そのために、どんなコミュニケーションツールを使うかは、結構大事な問題。
 即時性が重要になる連絡の場合、僕はチャットを活用しています。チャットは、即時性は担保しつつも、相手の時間を拘束しないツール。
 電話は即時性は担保されるけれど、相手の時間を一方的に奪ってしまう。一方でメールは相手の時間は奪いませんが、読み落としによる時差が生まれる、すぐに要点が目に入らない、といった弱みがあります。
── 確かにメールは、即時性といった観点では非効率な部分がありそうです。ですがビジネスパーソンに利用するコミュニケーションツールについてアンケートを取ったところ、約7割の人が仕事のコミュニケーションにメールを活用しているとわかりました。
 チャットツールを使う企業が増えてきた中でも、やはりメールの利用率は圧倒的なのだと感じたのですが、澤さんはこの結果についてどう思いますか?
社外とのコミュニケーションで、上記ツールをそれぞれ「よく活用する」「活用する」と答えた人数の割合。調査協力:株式会社マクロミル 調査期間:2020.07.22~ 2020.07.26 対象者:全国の22~49歳の会社員(事務系/技術系/その他)400人
 実は僕、メールが苦手なんです。前職の時代からメールがあまりにたくさん来るものですから、溜め込んでしまって。
 重要なメールも見逃してしまうので、「澤さんからメールの返事が来ません」と、クライアントから別の社員に連絡させてしまったこともあるくらいです。
 ただこのアンケート結果を見てもわかるように、メールは明らかに社外とのやり取りに欠かせないツール。だったらそこは、非効率な面を改善していく必要があると思っています。
 そもそも日本のメール文化には、数々の問題点がありますよね。
 たとえば、宛先に入っている人数がとにかく多い。そのメールに誰が返信すべきなのか、はっきりしません。誰もメールに反応しない、もしくは「これ自分かな」と複数の人が対応して返信スレッドが2つに分かれてしまい、複数の返答の中で意見が異なってしまう。それをまとめる対応で、さらに余計な時間がかかってしまいます。
 メールを活用している企業が大多数だという現状を見ると、メールの運用方法のルール化や仕組み化は必要なポイントだと思います。
── サイボウズ社が提供するメール管理・共有システムの「メールワイズ」は、1つのメールボックスをチームや部署で共有し、情報共有を効率化できるツールです。このシステムによって、メール活用における効率化は進むでしょうか。
 なるほど。かなり効率的になると思います。
 メールに対してコメントしたり、メールをダッシュボード上で管理できたりすることは、作業効率を上げる上ではかなりインパクトがありますね。
 また届いたメール1通ごとに担当者を割り当てられ、それ以外の人は他の仕事に時間を割くことができます。同じメールに対して複数人で譲り合ってしまう“お見合い”現象も防げると思います。
 僕の会社は1人でやっているのでいまは何とかなっていますが、人数が増えたときに僕に何でも報告が来たら、パンクしてしまいます。そんなとき、社員がどんな相手とどんなやり取りをしているかをチーム内で可視化・共有できるのは、とても助かると思いますね。
メール1通ごとに担当者や処理状況を割り当てられるため、メールのステータスが一目で確認可能だ。
 やり取りを可視化することは、コミュニケーションや顧客対応の質を上げることにも繋がります。
 前職のマイクロソフトの事例でいえば、その点を徹底していたのはサポート部門だと思います。そもそもサポート部門に問い合わせてくるのは、トラブルに面しているお客様。少しでも適切でない文面や言葉遣いをしてしまえば、火に油をそそぎかねません。
 そういった理由から、メールをチームで共有して、二重対応や対応漏れといった非効率をなくすことは、サポート部門にとっては死活問題。よく使われる表現をテンプレートとしてチームで使い回せるようにしておけば、生産性が上がるだけでなく、顧客対応の質向上も期待できると思います。
「時間」を変えるテクノロジー
── メールワイズでは、個人アドレスではなく部署アドレス宛にメールを送ってもらい、チーム全体で1つのメールボックスを共有する仕様になっています。ただ、メールのやり取りを見られることに抵抗がある人もいるのではないかと思うのですが、その点はどう思われますか。
 気持ちはわかります。しかしセキュリティ対策を行う際に、大切なポイントの1つに「ノープライバシー」という考え方があって。
 プライバシーのない状態をつくることが、逆にセキュリティを向上する、という意見ですね。
 たとえばメールで内緒話ができてしまうと、先ほどの怒られたくない精神から、「報告」を改変するということにも繋がってしまいます。
 逆にメールが共有されていることで、問題が起きたときにメールを消した、など疑われることなく、社員を守ることにも繋がる。むしろグループアドレスを積極的に使ってオープンにコミュニケーションする方針には、僕は賛成ですね。
Marta Shershen / Getty Images
── しかしこのようなITツールを導入する際は、なかなか適応できない・したくない、という人も一定数いるもの。その方々のマインドセットを変えるにはどうすれば良いのでしょうか。
 何でも紙にすることにこだわる方々もいますよね。僕がいつも言っているのは、それがあなたを幸せにするの?ということです。
 少し壮大な話からさせてもらうと、テクノロジーの発展は、一見変更不可能な「時間」を、大きく縮めてきましたよね。機関車が登場してから、遠い場所により早くたどり着けるようになったように。
 テクノロジーにより、時間の流れは仮想的にどんどん早くなっています。その中でビジネスを行う人々にとっては、立ち止まる時間をどれだけ最小限にできるかが勝負。
 ではここで最初の話に戻ると、このスピード感で動いている時代に、わざわざ自分を取り残しかねない行動を選ぶことが、あなたを幸せにするのか?ということなんです。
 コロナ禍ではいろいろなことに制約がかかった分、これまでのやり方を見直すとても良いタイミングだと思っていて。これを機にぜひやってみてほしいのが、業務の棚卸し。
 棚卸しというのは、1日のうちに自分が何の業務に、どれくらいの時間を割いているのかを洗い出し、俯瞰してみることです。
 洗い出す際のポイントは、業務の解像度を上げること。「営業の仕事をした」「事務作業をした」では粗くて、「クライアントへのメール対応を30分やった」「案件管理表を15分かけて更新した」「受信メールのチェックに30分かけた」というくらい、内容をはっきりクリアにするんです。
 そうやって解像度高く棚卸しをしてみると、本当に必要な仕事とそうでない仕事が、炙り出されてくる。そこから、テクノロジーを使って効率化できる業務も見えてくるはずなんです。
 何年か前ですが、PCに向かっている時間のうち、何に時間を使っているかの内訳を調査したメンバーがいました。そうすると、一番見ているものがやはりメールだったんです。その比率は、なんと約30%……!
 これを意地悪に解釈すると、100人いる企業があったとしたら、そのうち30人は一日中メールを見る仕事をしている。こういった非効率が、業務の棚卸しをすると、どんどん可視化されてくるはずです。
 メールは、多くのビジネスパーソンにとって一番身近なコミュニケーションツール。効率良く情報を共有し、チームの生産性を上げるためにも、使い方を見直してみてはいかがでしょうか。