見出し画像

教育のイノベーションが、令和の住まい方を豊かにする鍵になるわけ

2020年の幕開けと同時に世界を一気に襲った新型コロナウイルスの猛威。ペスト、スペイン風邪等、過去の歴史を紐解くと、パンデミックは常に、人々の暮らしや文化、住まいに変化を促していることがわかります。
戦略未来デザイナー・BIOTOPEと、次世代型アーキテクト集団・VUILDは創造性の民主化という同じビジョンの土台のもとそれぞれの知見を持ち寄り、ポストコロナの住まい方のビジョンと、それを実現するために必要なこと、できることに関して議論を重ねました。その議論を通してBIOTOPE佐宗邦威とVUILD秋吉浩気が考えたことを綴ります。今回はその5回目、BIOTOPE佐宗邦威の担当回です。

コロナ禍で、今度こそ地方移住が起こると思う理由

この連載ではこれまで、第1回では新型コロナウイルスがもたらした価値観のリセット、第2回では貨幣経済や都市中心の生活の前提が崩れること、第3回では過去のパンデミックと建築史の流れからみるこれからの建築の流れ、そして、第4回ではポスト資本主義の住まい方としてコストゼロから始められるデジタル家づくり運動体NESTINGについて書いてきた。

デジタルファブリケーションで木材加工のコストが下がる今の時代、土地のコストが安く、森林資源へのアクセスが近い場所=田舎に住むことは、家づくりコストの劇的な削減になる。一方で、そのためには、一貫して起こってきた首都圏一極集中の動きを逆回しするような、地方移住の動きが加速しないといけない。

過度な都市一極集中の是正は、ずっと課題であり続けている。ここ10年、地方創生をはじめとして、地方への移住促進は何度も試みられてきた。また、『人口減少社会のデザイン』で広井良典先生は、「日本が社会的、環境的に持続可能になるためには、都市一極集中のトレンドが終わり、地方分散が実現することだ」と書いている。菅総理は「地方を大切に」といい、来年度から地方移住に対して100万円、地方でIT創業をした場合には300万円の補助金を出す方針を発表した。政府は一貫して、地方分散を後押ししているが、現状ではまだ、潮流を変えるには至っていない。

スペイン風邪流行時には一時的な地方移住が起こって郊外が生まれたものの、またすぐに都市への人口集中が戻ってきたという歴史がある。長期目線で見ると、人は便利な都会を好むというのは一定割合で変わらないだろう。

令和の時代、僕らの住まい方は変わるのだろうか?

僕はコロナをきっかけに、多拠点居住、そしてその先に、地方へ拠点を移す動きは広がっていくと考えている。スペイン風邪流行時とは異なり、現代においては、インターネットとモバイル化が社会インフラとなっている。仕事がデジタルで完結するホワイトカラーも増えている。情報社会における住まい方として、他拠点居住や地方へ拠点を移す動きにはニーズがあるだろう。

僕自身、昨年から逗子と東京で二拠点居住を始めていたが、東京の拠点を地方に移してみようと思っている。それは、デジタルヘビーな生活をする上で、自然の中で身体と頭のバランスを取りたいという欲求が生まれたのと、そして、都市生活が子どもの教育の観点から見て、本当に「良い環境」と言えるのかと疑問を持ち始めたからだ。

自宅で長時間PCに向かって情報処理をし続けていると、創造性は発揮されにくくなる。情報過多になって頭だけが疲れ、全身へのバランスの良い感性刺激が乏しくなるからだ。

この場合、自然を見てリラックスしたり、体を動かしやすい環境にいるほうが、創造性が高まる。脳科学的な視点でいうと、創造性を高めるためには、じっくり考えた後に、リラックスすることでひらめきが生まれると言われている。これは、頭で考えるモードから、無意識でボーッとしていく中でデフォルトモードネットワークに切り替わることによって、意外なひらめきが生まれる。

今回、テレワークの広がりなどを背景に、スタートアップのトップが地方に移住したり、パソナが淡路島に本社を移したりと、地方回帰の動きがすでに見られるのは、普段から情報過多かつ自然が少ない環境に悩んでいる人々が、生産性が高まることも期待して行動しているからではないだろうか。

デジタル社会がいよいよ社会基盤となる中、創造性を発揮する環境は、今の都会のような情報過多な環境がベストではないことは間違いない。

ただし、仮にライフスタイルとして理にかなっていても、人が物理的に居住地を変えるには大きなハードルがある。そのハードルが将来的に解消されうるのか、確認していく必要がある。そこで都市一極集中の潮流を打破する上で存在する構造的なハードルを、どう越えていきうるかについて考えてみたい。

地方分散型のライフスタイルへの移行の3つのハードル

ライフスタイルへの移行には、実際にはいくつものハードルがある。そもそも仕事がテレワークでできないといけない。経済産業省の資料によると、コロナ禍により30%の企業がテレワークを経験したという。米IT企業大手のFacebook/Twitter/Google等は、すでに恒久的在宅勤務の制度を打ち出した。

現状ではリモートワークを選択できない企業や仕事も多いが、技術革新や制度改革によってテレワークを選択できる人は増えていくだろう。ましてや、100%拠点を移すような移住ではなく、都市と地方の二拠点の拠点を持つライフスタイルは今後確実に増えていくはずだ。

しかし、仕事に関する問題が解決したとしても、移住は構造的に以下の3つのハードルがある。これらがどう変わっていきうるかを考察してみよう。

1.移動コスト:移動への時間的、金銭的コストが高い
2.教育への不安:地方に行くと子供の教育の質を担保できるかわからない
3.コミュニティがないこと:濃く閉鎖的な地域コミュニティに馴染めるかわからない

まず最初は、1.移動コストだ。地方移住する場合でも、実家やオフィスが都市にある場合は、ある程度の往復は欠かせない。軽井沢に移住し、新幹線で通勤している人もいるが、明らかにお金はかかるし、移動時間もそれなりにかかる。ただし、これは将来的には小さくなっていくハードルだと考えられる。自動運転などのテクノロジーが進む中で、だんだんコストが下がっていくからだ。自動運転は2025年過ぎから一気に社会実装が進むことが予定されているが、そこまで待たなくても、すでに2020年4月1日から高速道路での自動運転レベル3が解禁になった。一定の条件のもとで走行中の非運転行為(スマホや車載ディスプレイの注視など)が可能になり、長距離移動での自由度は増している。高速道路における自動運転は今後数年で実用化が進んでいくだろう。まずは、新幹線の停車駅や高速のインターチェンジなどのアクセスしやすい場所から30分から1時間圏内の、景観の良い場所が人気の場所になるだろう。

画像1

出典:内閣府 官民ITS構想・ロードマップ2018

移動コストは下がっていくし、段階的に解決していくため、住む環境という意味でより大きなハードルとなるのは、むしろ2.教育の問題と、3.コミュニティの問題だ。これらは特に子育てファミリー世代にとって、移住への大きなハードルとなる。

もともと地方への移住は、地縁がない場合には馴染めないのではないかというのは大きな不安材料だ。基本、すでにできあがったコミュニティに入っていくのは簡単なことではない。

ただし、ことファミリー層においては多くの場合、保育園、幼稚園や、学校が所属するコミュニティの起点になる。そして、学校での同級生との出会いやコミュニティこそが、教育機関のコアの価値であるということは、全オンライン化した大学への価値への疑問がでてきていることからも明白だ。

実際、都市からの移住が進んでいる地域は例外なく、良い学校と、移住者のコミュニティへの巻き込みを進めている。鎌倉、逗子、軽井沢、小布施といった地域に人が流れていくのは、これらの地域では教育とコミュニティ作りの問題を同時に解決できているからだ。

逆にいうと、より良い教育を受けられる場として地方が位置付けられれば、ファミリー層に関してはこの問題は両方解決されるという意味でもある。鍵は、地方における教育環境の整備と、良い体験づくりだ。

地方移住の追い風となる、教育の変化とは?

コロナ禍の中で、子どもたちの教育の環境には大きな変化があった。

一斉休講により、一時的に自宅学習とオンライン教育に触れる機会が増えたことは記憶に新しい。一方で、感染対策もあり、特に都会では自由に遊べない環境になってしまった。公園は大人気だったが、子供に感染対策を気をつけながら遊べ、と言うことに罪悪感を覚えた親御さんは多かったのではないか。また、一方で、学校ではiPadやパソコンが導入されるケースも増えてきており、デジタルで学ぶ体験が増えている。

僕は昨年末より、小学校から中学校の子供達を対象に、「VISION DRIVEN EDUCATION: 希望を作る学び(仮)」という有志活動を行なっている。これは著書『直感と論理をつなぐ思考法-VISION DRIVEN』でも紹介した、自分の妄想にアクセスし自分の心から望む未来のビジョンを描いていくという体験を、学校現場や家庭において実践する活動だ。

その活動を通して急激に変化する学校現場や先生方と議論をしながら、教育に対する価値観が変わってきているのを感じている。

1.デジタル学習により、一斉教育ではない、一人一人違う学びの実現が求められている
2.デジタルでの学びが広がることで、逆に、自然のある環境の中で、身体性や感性を育む教育がより注目されている
3.一斉休校において、子供たちが「学校がない余白の時間」が生まれた。その後の詰め込み授業の再開を見た時に、自由に自分らしく学べる余白や創造的な学びが必要なのではないかと思う親御さんが増えた

コロナの一斉休校中、 Stay Home weekと化したGolden Weekにも二度、「夢をカタチにする授業:ビジョンのアトリエワークショップ」を実施し、全国からのべ300組近い親子と、学校の先生に参加いただいた。そこでは、自分たちの妄想をインタビューで引き出しながら、自分の作りたい未来をアート作品にして作ってもらい、それを元に親子で対話をしてもらう活動を実施した。過去、何度もワークショップを実施してきたが、友達の目も、親や先生の目も気にせずに、自分が好きなことや、やりたいことを描くことで、将来にワクワクした、という声をいただくことが多い。

スクリーンショット 2020-10-20 23.57.31

今の教育現場に入ってみると、子どもたち自身がやりたいことを自由にカタチにする機会は皆無だと気付かされた。受験勉強や学習指導要領に即した教育内容など、他者に目的を与えられた学びをこなすことに手いっぱいで、自分自身の「好き」や、やりたいことに向き合う余白が存在せず、結果的に自分のやりたいことを心の奥底に忘れていく。これは、必ずしも子どもだけの話ではない。親である僕らにも心当たりはないだろうか?

コロナによって教育のオンライン化が進む中で、教育に求められるものも変わってくる。むしろこれからは、自然環境がよく、生活環境としても余白を感じれるような環境に身を置き、適度に自分のやりたいことと向き合える教育機関や環境が重要になってくるのではないかと思っている。

新たな教育に取り組む先生方との出会いも増えてきたが、東京のど真ん中よりもむしろ地方においてエッジのある取り組みが生まれてきている。時代の流れ的にも東京以外で、詰め込み教育を超えた自分らしさを作っていく、次世代型の教育にアクセスできる環境が整っていく流れが起こっているように思うし、逆に、自然と余白がある地方こそが、良い次世代型の教育を整えられる条件が揃ってきていると思う。

次世代教育と3つの地方移住のパターン

実際、より良い次世代教育環境を求めて、住む場所を変える動きはすでに起こり始めている。その方法には大きく3つのパターンがあるように思う。1つ目は、地方で行われている新しい教育機関に行くために移住をする方法。2つ目は、二拠点居住をしながら、一時的に地方に住める環境を整える方法。3つ目は、オンラインの高校、大学に行くことで先進的な教育を受けつつ、余白ある土地で生活・教育実践をする方法だ。

1.地方で行われている新しい教育機関に行くために移住をする方法
例えば、軽井沢の風越学園。義務教育で学年制を廃した全国初の幼小中一貫教育校で、個人個人のペースに合わせた探求教育をできるプログラムを作った、先進的な学校だ。長野県は、教育のホットスポットになっており、南佐久郡にはオランダで普及しているイエナプランをベースにした大日向小学校も開校している。僕の周りでは、教育熱心な同世代で、長野県に移住する動きが起こり始めている。これらの学校は、一人一人の子供に合わせて自主性を大事にする教育を、義務教育段階から始めている。

また、高校に目を向けると、金沢にある国際高専のように、高専でありながら英語教育Xデザイン思考Xエンジニアリングのスキルを育て、そのまま四年制工大である金沢工大に編入するような超先進的なプログラムを実施する学校も出てきている。

2.二拠点居住をしながら、一時的に地方に住める環境を整える方法
完全な移住を前提にせず、二拠点居住をベースにしたライフスタイルに合わせた制度も始まっている。教育による街づくりを進める教育先進地域である秋田県では、長期留学制度という制度を設けている。北秋田市では、小・中学生を対象に留学を希望する児童生徒が、滞在期間や重視する内容を自由に決めたり選んだりできる「オーダーメイド型」の留学を受け入れている。学力トップクラスの「秋田の探究型授業」を体験できる点が一番の目玉で、拠点施設での宿泊とホームステイを自由に組み合わせられるので、家族で一次的な移住がしやすい。他にも、徳島県がデュアルスクール、長野県塩尻市が区域外就学という同様の趣旨を試している。子供の移動の際には、住民票移動、転校手続きという大きなハードルがあるが、上記のようにそれらのハードルを緩和するケースも出てきている。コロナ禍で一旦受け入れは止まっているようだが、落ち着いたらこのようなニーズが増えていくことを考えるとより取り組みは広がっていくのではないか。

3.オンラインで先進的な教育を受けつつ、余白ある土地で生活・教育実践をする方法
オンライン100%の教育というのはまだまだオルタナティブなアプローチではあるが、その先駆者である角川ドワンゴ学園、通称N高はすでに高校生の在籍は15,000人を越え、昨年開設された中等部も800人が所属しているという。彼らが、ちょうど先週に第二の学校としてつくばに拠点をおくS高の取り組みが発表された。場所に問わずに学びをできる環境だ。来年の4月には最新のVR技術とデバイスを活用した体験型の学びができる「普通科プレミアム」を立ち上げるとのこと。

今後、5Gが普及するとバーチャル空間で自由な学びの環境づくりはよりやりやすくなる。このような学校に行っていれば、自分たちの住みたい場所に住みながら教育を受けることができる。その際に、住んでいる環境に自然や余白があって、新たなものを作ってみることができるならば、受けた教育をその場で自分なりに表現するという、もっとも創造的な学びができる環境が整う。創造的な学びは、子供にとってよりワクワクできるものであり、チャレンジしたくなるものだろう。

VUILDは、VIVITAと組んで、自分たちの作りたい椅子や住まいを作るWSを実施した。デジタルファブリケーションの技術を使えば、子供は自分の作りたいものを自由な発想で作ることができる。街に余白があれば、子供が自分たちの公園の遊具を地域に作ったり、自分が住みたい小屋をデザインすることもできる。子供の教育のためと言わず、親子一緒に、自分たちが住みたい最高の別荘や、家をデザインして、一緒に作ってみる。そういう体験は、次世代にとって最高の学びの体験となるのではないかと思う。

スクリーンショット 2020-10-21 0.03.38

このような活動を拡張し、例えば、全国の地方で、志の高い教育機関と組んで、家族で夏休みを使って、自分たちのヴィレッジを作るサマーキャンプのような活動拠点はできないだろうか? 

それらをバーチャルで繋ぎ同時多発的に自分たちの住まいを作る、オンラインかつリアルのブートキャンプもできるだろう。

地方の学校からすれば、教育熱心な層にアクセスしながら、学校の宣伝をできる。一方、都会に住む層もワーケーションによるリモートワークをしながら、自然のある環境の中で子供と一緒に思いっきり想像力と創造力を爆発的に伸ばす期間となる。

現在、来年の夏を目処にこのような構想のある自治体や、教育機関と組んで、次世代型の教育による街おこしの運動を広げていきたいと思っている。すでに、この構想に共感してくれる学校や、地域も複数出てきており、興味ある方はぜひご連絡をいただけたらと思う。

地域の目線でいうと、次世代型の教育に投資をすることは、都会生活に疑問を持った人を受け入れる道を作る絶好の機会だと思う。長野県への移住が増えているのは、県全体で教育への投資が進んでいるからだ。持続可能な地方再生は、次世代型教育への取り組みこそが鍵なのではないかと思う。

クリエイティブ教育という視点で、活動を全国にスケールさせていく上で個人的に可能性を感じているのは、全国に存在する高専とのコラボレーションだ。もともと高専は物作りとの相性が良い。教育で移住を促進したい自治体と組んで新たな学び場を作っていくことができれば、それは新たな住まい方を作っていくことに直接繋がるはずだ。

第5回では、次世代型教育の実践の場を地方に作ることで、地方移住のハードルである、教育と、コミュニティの問題を同時に解決するという構想を共有した。

次回は、ポスト資本主義の住まいを作るNESTINGという取り組みを、新たな住まいづくりの文化運動としてどのように実践の輪を広げていくかという提案について書いてみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?