2020/10/22

【実録】芦屋発の洋菓子店がコロナのシンガポールで勝てた秘策

川端 隆史
NewsPicks/SPEEDA/INITIAL編集部 チーフアジアエコノミスト
コロナ禍の最中に、海外事業の黒字化に成功した日本企業がある。
「HENRI CHARPENTIER(アンリ・シャルパンティエ)」で知られる洋菓子メーカーのシュゼット・ホールディングス(本社・兵庫県西宮市)。
国内91店舗、海外で4店舗を持つ洋菓子大手だ。焼き菓子のフィナンシェの販売数で世界一に認定され、ギネスブックにも掲載されている。
海外展開を始めたのは2014年。国内での拡大に限界を感じた蟻田剛毅社長が、新たな成長の源泉を求めて打ち出した戦略だ。
「アジアは、”主食プラスアルファの食べ物”という豊かさを求める時代を迎えています。甘い物を1つ加えるという発想で、日本の高度成長期に似ていました」(蟻田社長)
出店先を求め、社長自らドバイからインドネシアまで主要都市を回った。そしてシンガポールへの出店を決め、2014年に1号店をオープンした。
2016年にシンガポール2号店を出し、マレーシアでも展開を開始。2017年以降、毎年、新店舗のオープンを続けた。
海外初出店から5年強。
マレーシアからの撤退やシンガポール1号店の閉店などを経験したものの、アンリ・シャルパンティエというブランドが浸透しつつあることには手応えを感じていた。
だが、黒字化にはなかなか至らない。
海外の現地スタッフからの報告書や電話での会話を通じて課題は把握していた。やるべきことは分かっているつもりだった。だが、何かが足りない。
「もう、現地に行くしかない」
子会社シュゼット・インターナショナルの社長を務める田邊有美氏が2020年1月、シンガポールへと飛んだ。有美氏は蟻田社長の妻だ。
そして、同社の海外事業は今年7−9月期に初めて黒字にこぎつけた。
日本以上に厳しい外出制限が続く海外で、蟻田夫妻はいかにして洋菓子販売を伸ばしたのか。
NewsPicks編集部は、シュゼット・ホールディングスの蟻田社長と、シンガポールで海外事業の陣頭指揮をとるシュゼット・インターナショナルの田邊社長を直撃。黒字化の舞台裏に迫った。

着任直後にコロナ禍に襲われた

━━今年1月に着任した途端、コロナ禍に見舞われました。4月初旬にシンガポール政府がサーキットブレーカー(部分的なロックダウン)を発動したので、営業もままならなかったのでは。
田邊 旧正月(1月25〜26日)明けから出店しているモールの人出が大幅に減り、サーキットブレーカー以降は客足がほぼ止まりました。