コラム

過去1年間で、出資件数の多い個人投資家18名【2019年10月~2020年9月】

2020-10-20
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

個人投資家は様々な金融商品に投資を検討する。上場企業の株式、コモディティ、デリバティブ、債券、外国為替、ビットコイン、不動産などその対象は多岐に渡る。その中で、創業間もないスタートアップやベンチャーを対象に資金援助をする、“エンジェル投資家”の存在を忘れてはならない。

時としてエンジェル投資家は、誰も実現性を信じないプロジェクト、最初期の非公開企業に投資する。投資相手の企業の実績は往々にして少ない、もしくはゼロだ。一般的な投資に比べてリスクが高く、それだけ成功した場合に期待できるリターンも大きい。スタートアップの創業者が絶体絶命になったとき、天使のように窮地から救い出す役割がエンジェル投資家の最大の意義といって良いだろう。

彼らは、創業者の想いと会社の掲げるビジョンへの共感から出資に乗り出す。また、自らが経営に携わってきた経験を元に出資を決める場合も少なくない。

事業シナジーの発揮によるベネフィットを目的として出資をする事業会社・CVC、また、ファイナンシャルリターンを獲得するために資金を提供する金融機関・ファンドとの投資目的の決定的な違いは、この点だろう。

令和2年度の税制改正を経て、2020年4月からエンジェル税制(注1)の施行により、個人投資家のスタートアップへの出資に対する税制上の優遇措置がなされた。この流れを受けて、個人投資家からスタートアップエコシステムのキャッシュフローの総量を増やす働きかけが国家レベルで促されている。

本記事ではSTARTUP DBを参考に、直近1年間(2019/10~2020/09)において日本企業への出資件数が最も多い個人投資家をランキング形式として18人をピックアップした。

注1:ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度。

直近1年間の個人投資家の出資件数ランキング

2019年10月から2020年9月末までで投資件数が9件と最も多く出資を行ったのが、起業家でありエンジェル投資家の有安伸宏氏(以下、有安氏)だ。

関連記事:投資家・有安伸宏が語る、スタートアップエコシステムと伸びる起業家の話

有安伸宏
過去1年間の投資件数:9
1981年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、ユニリーバ・ジャパンを経て、2007年にコーチ・ユナイテッドを創業。2013年に同社の全株式をクックパッドへ売却。2015年にTokyo Founders Fundを共同設立、米国シリコンバレーのスタートアップへの出資も行う。

上位の個人投資家の顔ぶれをみると、有安氏に加え、藤野英人氏(以下、藤野氏)や赤坂優氏(以下、赤坂氏)など、起業家出身が15名と多いことがわかる。起業家が会社売却などを経て、個人投資家としてのキャリアを歩み出すケースが多いと考えられる。

藤野英人
過去1年間の投資件数:4
早稲田大学法学部卒業後、野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ジャーディンフレミング(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。「ひふみ投信」シリーズファンドマネージャー。

赤坂優
過去1年間の投資件数:4
2008年、株式会社エウレカを設立し、代表取締役CEOに就任。2012年10月、恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」をリリース。2014年5月、カップル向けコミュニケーションアプリ「Couples」をリリース。2015年5月、M&Aにより米InterActiveCorp(IAC)へ事業売却。2016年9月、代表取締役CEOを退任し取締役顧問に就任。2017年10月、取締役顧問を退任。現在、エンジェル投資家として国内外のスタートアップを支援・サポートしている。

起業家の16名とともに名を連ねたのは、ミクシィCFOを経て、現在メルカリ取締役会長である小泉文明氏(以下、小泉氏)と米カーライル・グループ、DeNAを経てラクスル取締役CFOを務める永見世央氏である。

名だたる起業家が多い中で、プロサッカー選手と投資家の顔を持つ長友佑都氏は異色の存在といえるだろう。近年では、スポーツやエンターテインメント業界で活躍した著名人が投資家としてのキャリアを歩み始めるケースも少なくない。

2019年12月11日、東証マザーズへ上場したマクアケの大株主には、プロサッカー選手の本田圭佑氏、歌舞伎俳優の市川海老蔵氏(本名、堀越寶世氏)の名前が並んでいたことも記憶に新しい。

長友佑都
過去1年間の投資件数:4
明治大学政治経済学部在学中に東京FCへ入団、ACチェゼーナ、インテル・ミラノ、ガラタサライを経て2020年8月フランスのオリンピック・マルセイユへ加入。日本代表のプロサッカー選手。また、起業家として事業会社Cuore、サッカースクールINSIEMEを経営、投資家としての顔を持つ。

上位にランクインした個人投資家のEXIT実績とは?

直近1年間で出資件数が多かった上位18名のこれまでのIPOとM&AのEXIT実績をまとめた。

最も多かったのはヘイ代表佐藤裕介氏(以下、佐藤氏)の8件だ。次いで、LayerX代表の福島良典氏(以下、福島氏)が4件、キープレイヤーズ代表の高野秀敏氏(以下、高野氏)が3件でこれに続く。過去1年間で最も出資件数が多かった有安氏は2件と赤坂氏に並んだ。

直近では2020年7月に、「ZOZOTOWN」を運営するZOZOが、日本最大級の古着コミュニティ「古着女子」の運営や「9090」をはじめとする複数のD2Cブランドを手掛けるyutoriの株式の51%を取得し、子会社化した。yutoriにはBrave Group代表の野口圭登氏、佐藤氏、赤坂氏が出資しており、EXITへたどり着いた。

そのほか、佐藤氏、福島氏、小泉氏の3名から出資を得ているのは、中古・リノベーションマンションの売買サービス「cowcomo」を運営するツクルバだ。新卒入社したコスモスイニシアで出会った、村上浩輝氏と中村真広氏が共同代表を務める同社は、2019年7月31日に東証マザーズへ上場。佐藤氏と福島氏は同社の社外取締役も務めている。

ピックアップ企業

「過去、複数人の個人投資家から出資を受けており、かつ、2020年以降に新規で資金調達を行っているスタートアップ」を基準に、注目の企業をご紹介したい。

Luup

2020年7月に、ANRIENEOSイノベーションパートナーズ大林組を引受先とする約4億5,000万円の第三者割当増資を実施した。この調達資金を元に、新しい電動マイクロモビリティの開発と、ENEOSグループおよび大林組との将来的な協業に向けて取り組みを進めていく予定だ。

 

yup

2020年7月に、インキュベイトファンドイーストベンチャーズログリー・インベストメント、エンジェル投資家の赤坂優氏を引受先に第三者割当増資による総額1億3,000万円の資金調達を実施。調達した資金はマーケティングの強化、AIを活用したスコアリングモデルの研究開発、新規サービスの推進に加え、人材採用に積極的に投資する方針だ。

 

Manabie

2020年4月に、エンジェル&シードラウンドで本田圭佑氏、梅田望夫氏、有安伸宏氏、松本恭攝氏、福島良典氏、渡辺雅之氏、大湯俊介氏、ジェネシア・ベンチャーズ他、国内外の個人投資家、ベンチャーキャピタルより総額約5億2,000万円の資金調達を実施した。東南アジアにおけるオンライン事業のサポート事業を展開していく予定だ。

 

アドレス

2020年10月に、丸井グループプラスソーシャルインベストメントちばぎんキャピタル を引受先とする、シリーズBラウンドの第三者割当増資を実施。新型コロナウイルスによる企業のテレワーク推進の影響で、脱都会・脱都心オフィスなどを図る20〜30代の若者のADDress会員登録数が一気に増加したことを受けて、多拠点居住による関係人口創出への期待により行われた。

 

CLOUD FRANCHISE

2020年2月に、ザシードキャピタル西尾健太郎氏、野口圭登氏を引受先とした資金調達を実施した。今回の資金調達により、2020年内にフードデリバリー拠点を100店舗に拡大することを目指している。

「個人投資家」を指標に、スタートアップをみる

著名な個人投資家の多くは過去に一から事業を作ってきた経験があり、独自の視点を持って投資を実行している。また、投資を行った個人投資家が所属する企業の広報の面から見ても、彼らが投資を実行したという情報が社会に与える影響は大きい。

今回の最も出資している投資家ランキングで上位となった有安氏や赤坂氏は、2016年以降にEXITを経験している。

著名な個人投資家からの資金調達に成功することは、成功した起業家である個人投資家が他のスタートアップと比較して、今後事業が成功する確率が高いと認めているということを意味する。

彼らから投資を受けているスタートアップは現在、成長過程にあり、今後の成長やEXITを期待することができるといえるのではないだろうか。

個人投資家の過去のEXIT経験を知り、どの個人投資家が投資したのかという視点で資金調達情報を見ることで、スタートアップ業界の今後について有益な知見を得ることができるかもしれない。

STARTUP DB編集部では、今後も個人投資家の動向に注目していく予定だ。

 

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