2020/10/23

【直言】ジョブ型の伝道師、複数の仕事を経験してこそプロだ

NewsPicks ジャーナリスト
銀行やメーカーなどを人事トップとして渡り歩き、日本流ジョブ型雇用を広めた男がいる。カゴメの常務執行役員CHO(最高人事責任者)、有沢正人氏だ。
ジョブ型か、メンバーシップ型かという二者一択の考えはナンセンスと一刀両断。両者の「いいとこどり」、つまり、欧米流とは一線を画したジョブ型があるというのが本人の哲学だ。
有沢氏は「有沢正人塾」を開くなど、カゴメだけでなく、他社の人事部という仕事の神髄を伝道している人物だ。
そんな本人も、りそな銀行の元トップや日本IBM元トップといった、数々の伝説の経営者から薫陶を受けてきた。
銀行と製造業という二大オールドエコノミーの人事改革で辣腕を振るった有沢氏は、日本の人事のあるべき姿をどう描いているのか。
特集「ジョブ型時代の働き方」の最終回となる第5回は、有沢氏への直撃インタビュー。名経営者との交流を振り返りつつ、人事の本髄に迫る。

現場の痛みを知れ

──有沢さんは人事のスペシャリストとして知られています。
私自身は人事のスペシャリストだとは思っていません。むしろ、ゼネラリストだと思っています。
その考えの背景として、銀行員時代の営業経験がベースにあるからです。
カゴメはジョブ型雇用を導入していますが、ジョブローテーションによって多様な経験を積むことも重視しています。当社の人事部でも、営業出身のような、もともと人事以外で経験を積んできたメンバーが大半です。
──一般には、ジョブ型はスペシャリストを育てると言われているだけに、意外です。
「これからの人事に必要な知識は何か」などと聞かれることがよくあります。私は、「マーケティングを学んでください」と答えています。だから、「コトラー(マーケティング分野の大家)の本をまずは読んでください」と。
それから街に出かけている時は周囲をよく観察しますし、ドラマも数多く見ます。
世の中で起きていることやトレンドに対して広くアンテナを張っていないと、人事はできません。
今の私があるのも、やはり銀行時代に営業経験があり、海外留学の際にマーケティングも勉強したからです。
銀行の人事部にいたときは「お前は現場の痛みが分かっていない」などと、よく叱られました。現場の営業にいたときは新規のお客様にたくさんアプローチし、「名刺を破られた回数が多い奴ほど、将来伸びる」と言われたものです。
要するに、お客さんについてよく知り、お客さんが望んでいない商品を売ってはいけないことを学びました。