コロナ危機に対応するため、政府は大規模な財政出動を続けている。それゆえ「コロナ増税」の必要性を指摘する声もある。しかし、MMT(現代貨幣理論)の第一人者で、『財政赤字の神話』(早川書房)を書いたステファニー・ケルトン氏は「もっと借金をするべきだ」と論じる。その真意を駒澤大学経済学部の井上智洋准教授が解説する――。

※本稿は、ステファニー・ケルトン『財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生』(早川書房)の「解説」を再編集したものです。

MMT国際シンポジウムで記者会見する米ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授
写真=時事通信フォト
MMT国際シンポジウムで記者会見する米ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授=2019年7月16日、東京・永田町

お金をケチるという「緊縮」体質が政府にしみついている

2020年4月、新型コロナウイルス対策の一環として、国民全員に一律10万円を給付する「特別定額給付金」の実施が決定された。

ステファニー・ケルトン『財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生』(早川書房)
ステファニー・ケルトン『財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生』(早川書房)

この決定は歓迎すべきことだが、できれば20万円の現金を給付すべきだと私は考えていた。政府の自粛要請によって仕事や収入を失った人々が当面暮らしていくには、最低でも20万円は必要だからである。

そこで、追加の10万円給付がなされるように、微力ながら財務省に嘆願書を提出したり、国会議員に働きかけたりしたが、かなわなかった。

国民の間に追加給付を切望する声が挙がっていたにもかかわらず、政府が採用しなかった理由は明確だ。お金をケチるという「緊縮」体質が政府にしみついているからだ。

この非常時において一見意識が変わってきているように思えるが、政府は「財政規律を守るべきだ」という基本的なスタンスを捨て切れていないだろう。財政支出の大幅な増大は避けられないが、それでもなるべく少なく抑えたいという思惑が見え隠れする。

政府のこの緊縮路線は、コロナ対策に十分な予算を確保しないという問題だけでなく、コロナ収束後の増税という次なる問題を生み出すだろう。

悪化した財政の再建のために増税する必要はあるのか?

政府は既に、例年を大きく上回る規模の国債を発行している。特別定額給付金のための政府支出は13兆円近くであり、全て国債によってまかなわれている。他にも、持続化給付金や雇用調整助成金の拡充など様々な政策が実施されており、2020年度の新規国債発行額は、90兆円を超える予定だ。

それゆえ、早くも「コロナ増税」という話が持ち上がっている。2020年8月に開かれた政府税制調査会では、コロナ対策によって財政が悪化しているので、消費増税が必要ではないかという意見が出された。

2011年の東日本大震災の際に「復興特別税」が課されたのと同様に、コロナ増税が実施される可能性は高い。そして、それは日本経済を再び長期デフレ不況へと陥れるだろう。

悪化した財政の再建のために増税する必要はあるのだろうか? 「現代貨幣理論」(Modern Monetary Theory、MMT)の立場からは、そんな増税は必要ないと明言できるだろう。