あなたがあなたであることをどのように証明するか?

ドコモ口座問題で改めて考える本人確認

ある日、突然、自分ではなくなる

映画でこのような場面を見かけたことはないだろうか?

『ある朝起きてみると、免許証や社員証など自分の身分を証明する書類がすべて消えている。そして、見知らぬ男が部屋に入ってきて「お前は誰だ!」と叫ぶ。しかも、警察に「泥棒です!」と通報されるので、慌てて窓から飛び降りて逃げ出す。

目指すは、自分の両親の住む実家だ。しかし、ドアを開けて出てきた両親は主人公を怪訝そうに見る。「僕だよ僕!」と叫んで家に入ろうとすると、ここでも「不審者です!」と通報されてしまう……その後もすべての知り合いを訪ねるが、誰も主人公のことを知らない……

そして、実は主人公の部屋に入ってきた男が、「新しい自分」であることを知ることとなる……』

ちょっと怖い話だが、「あなたがあなたであること」をあなたが主張しても意味がなく、「あなたがあなたであること」は他人や、書類が証明しなければならないという事実を端的に示す物語だ。

逆に、「あなたで無い赤の他人を証言や書類によって、あなたであることを証明」することが可能という恐ろしい事実も浮かび上がる。

image by Gettyimages

ドコモ口座、SBI証券事件については、9月29日の記事「『あなたの口座は世界中の犯罪者に狙われている』あまりに残酷な現実」で詳しく述べたが、「偽造の身分証で他人があなた(名義)の預金口座を開設する」というのは「他人が(嘘なのに)あなたであることを証明してしまう」恐ろしい事例の1つと言える。

例えば村社会では、親類縁者が近隣に住んでいるし、村人もお互い顔見知りだから、身分証明書や戸籍が無くても「あなたがあなたであること」を証明するのは難しくない。

実際、歴史上戸籍制度(住民登録、社会保障番号)が整備されて、公的な書類で「あなたがあなたであること」が証明されるようになったのは、比較的最近の話だ。それまでは、家族や親しい知人が身分証明書の代わりを果たしていた。

しかし、現在の都会生活では、マンションの隣の住人さえ「どこのだれか」をはっきりとは知らないのが普通である。さわやかに挨拶を交わしても、逃亡中のレイプ・殺人犯である可能性さえある。

 

だから、現代社会では身分証明(書)が極めて大事な役割を果たすのだが、偽造身分証明書で簡単に預金口座が作成できるのであれば、その信頼性に疑義が生じる。

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