2020/10/16

中小まで9000万超のPonta会員基盤の力を。LMとアクセンチュアが目指すデータ活用の民主化

中道 薫
NewsPicks Brand Design
 企業のデータ活用が叫ばれるようになった昨今。「ビッグデータ」という言葉が浸透し、機械学習やAIへと手法が高度化するなど、その技術的基盤は日々進化を遂げている。
 一方、GAFAをはじめとした大手プラットフォーマーが、サービスと引き換えに、検索や購入の履歴といった個人データを独占。
 こうした状況を是正すべく、世界的に規制の動きが活発化するなど、データ活用が“強者”の専売特許となる懸念があるのも事実だ。
 データ活用は企業の規模を問わず、等しく手が届くものでなくてはならない──そんな“データ活用の民主化”を唱えるのが、2020年1月に立ち上げられたビヨンド・ザ・データだ。
 同社は、共通ポイントサービス「Ponta」を運営するロイヤリティ マーケティング(以下、LM)と、総合コンサルティングファームであるアクセンチュアの協業により誕生した。
 なぜ民主化と呼ぶほどに、全方位的にデータ活用が必要となるのか。そして、LMとアクセンチュアのタッグは、データ活用にどのような未来をもたらすのか。
 ビヨンド・ザ・データ代表取締役社長の鈴木隆之氏と、COOの武居聡氏の二人に話を聞いた。

異業種すら競合となる時代

──あらゆる業種業態でデータ活用が推進されていますが、大手に限らず中小企業でも重視すべき理由は、どこにあるのでしょうか?
武居 まず大前提として「技術的に可能になった」という背景があります。
 IoTデバイスなどにより、これまで取得できなかったデータが取れるようになった。同時に、膨大なデータを処理できる基盤も整ってきて、加速度的にデータ活用の裾野は広がっています。
  しかし、データ活用の意義として重要なのは、他社との差別化の観点です。
──データ活用が、どう差別化につながるのでしょう。
 データ活用とは、事実を正確に把握できるということ。つまり、これまで経験則や業界のセオリーに則って経営判断をくだしていた企業も、確かな“事実”を軸に、ビジネスの方針を定められるようになるわけです。
 よりきめ細かくデータを分析すれば、その正確性は増していく。ライバルに差をつけることが可能になります。
 企業間の競争が激しさを増している今、ライバルは同業他社に限りません。顧客目線では、異業種だろうと、等しく選択肢の1つでしかないからです。
 例えば、コロナ禍でテイクアウトの需要が大きく伸び、Uber Eatsなどのフードデリバリーサービスも急拡大しました。「食」の観点で捉えれば、飲食店もコンビニも出前も、すべて競合です。
外出自粛により、中食のニーズが急増。イートインのみだった飲食店も、新たにテイクアウトや宅配への対応に迫られている(Xsandra/iStock)
──異業種間の競合も意識せねばならない、と。
 そうです。だからこそ、あらゆる企業との差別化を図り、競争に打ち勝つ源泉がデータ活用にあると我々は考えています。
 これまで「30代〜50代の男性」と設定していた顧客像が、データを分析することで「30代〜50代の男性のうち、早起きで、毎朝ホットコーヒーを飲んで出勤するビジネスパーソン」まで明らかになったとする。そうなれば、提供すべきサービスも変わってきますよね。
 つまり、データ分析に基づいて顧客の解像度を上げれば、自社のアセットを活かしつつ、ターゲットにより深く刺さる顧客体験を提供できるようになるはずです。

データ活用を阻む「3つの課題」

──データ活用の重要性を認識していても、うまくいかないという声もよく聞きます。
 データ活用は「これさえやればすべて解決する」というものではなく、一つひとつ着実にステップを踏まないと、なかなか結果には結びつきません。
 そこには大きく3つの課題があると考えています。
 1つは、データ活用の目的が明確になっていないこと。売上をアップしたいのか、コストを削減したいのかという二択だけでも、必要なデータは大きく変わります。
 「この課題に対し、データ活用で数値を何パーセント向上すれば、これだけの利益向上につながる」など、具体的なビジネスインパクトとデータ活用を紐付けて考えることが大切です。
 2つ目は、分析だけで満足してしまうこと
 例えば、データ分析で顧客を5つに分類できたとしましょう。いざ結果が出たところで「そうだったんだ」「これからどうしよう」で終わっては、意味がありません。データ活用という手段が目的化しているパターンです。
 分析の前に「この層の顧客にこういうアプローチをすれば、利益が何%上がる」という仮説を立て、データ分析後に結果に応じて予定していたアクションを起こす、というのが正しい活用の流れでしょう。
 まず起こすべきアクションがあり、それを確かめるための仮説がある。そこで初めてデータ分析の必要が出てくるのです。
──先ほど「顧客の解像度を上げる」というお話がありましたが、データ活用で顧客が細分化されるほど、次に取るべきアクションも増えるのでは?
 それがまさに最後の課題「アクションが継続しない」の要因です。
 これまでのマスを中心としたマーケティングに比べ、個別に施策を行うとなれば、当然それだけ工数がかかります。仮にデータ活用が成功したとしても、それ以降のアクションに悩んでしまうことも少なくない
 残念ながら、データ活用は一度きりで終わるものではありません。時とともに変化する顧客の行動やニーズに対し、常にPDCAサイクルを回し続けることが非常に重要になってきます。
 ビヨンド・ザ・データは、この「PDCAを回す」「データ活用を継続させる」という部分を特に意識しています。それについては、代表の鈴木からお話しさせていただきます。

人とノウハウの横展開で、“データ活用の民主化”へ

──データ活用のPDCAをうまく回していくには、何が必要なのでしょうか。
鈴木 時には年単位でPDCAを積み重ねてこそ価値が出るデータ活用には、「人」と「ノウハウ」が欠かせません。
 データ分析の基盤となるツールには、オープンソースやわずか数万円のプロダクトなども増えていますが、「ツールを入れたけど使いこなせない」「コンサルを含めた初期投資をしたが、その後が続かなかった」というケースは少なくありません。十分なリソースを注げる大手企業ならともかく、中小規模の企業ではなおさらでしょう。
 なかには、本気でデータ活用に取り組もうと、自社で新たに人材確保を目指す会社もあります。ところが、募集をかけたところで、ITとの親和性が低い業界などには、なかなかスペシャリスト人材が集まってこない。育成や評価といった制度の整備にも時間がかかります。
 従来は、こうした企業に1社ずつオーダーメイドで対応していました。
 しかし、これまで培ってきたノウハウをパッケージ化して横展開できれば、コストパフォーマンス高く、より多くの企業でデータ活用を推し進めてもらえる。ゆくゆくは、地元の八百屋さんでもデータ活用ができるような“データ活用の民主化”が実現できるのではないか、と。
 こうした考えのもと、LMとアクセンチュアがタッグを組み、新たにビヨンド・ザ・データという組織として取り組んでいます。
分析・戦略立案の領域はアクセンチュア、施策を実行する領域ではLMの強みを活用し、 幅広い企業のデータ活用をシームレスにサポートする事業スキーム
──データ活用支援を謳うコンサルティングは多く存在しますが、ビヨンド・ザ・データの強みはどこにありますか?
 2つあると考えています。1つは、LMとアクセンチュアという大規模なビジネスを動かす存在を背景に、ベンチャーとして機動力高く立ち回れること
 もちろん、データ活用が当たり前になった大手企業も、活用のPDCAサイクルには多くの課題を抱えています。我々の支援先も、全国規模のクレジットカード会社や地方の最大手のスーパーマーケットなど、現在はLMやアクセンチュアの流れをくんだ大手クライアントが中心です。
 しかし、そこからさらに手を広げ、ヒト・モノ・カネといったリソースの限られる中規模以下の企業もサポートしていくことが、“データ活用の民主化”を進める上でも大きな意味を持つと考えています。
 そして、LMとアクセンチュアそれぞれの経験に裏打ちされた、“リアリティのある支援”。これが私たちのもう1つの強みです。
 私自身、LMで事業・サービスの責任者とCDOを担うなかで、9000万人を超える会員へのサービス提供やビッグデータ活用の難しさは、肌感覚として持っています。
 そこで得た経験やリアリティを注ぎ込むことで、より実効性の高い、地に足のついたサポートができると感じています。
──それほど大規模だと、これからデータ活用に取り組むような企業には想像がつきにくいかもしれません。
 そうですね。具体的に分析からアクションまでつながった事例をご紹介しましょうか。ある食品メーカーの「既存商品における新規ユーザー獲得」を支援したケースです。
 図の上側が、クライアント企業の持っているデータから我々が形成した購買層のイメージです。
 POSデータやアンケート、インタビューなど、さまざまな消費者データの集積からユーザーのインサイトを抽出。どういった人がヘビーユーザーなのか、新規獲得の余地があるのはどのような層か、といった視点で分析し、クラスターを生成します。
──クラスターとは「30代の女性」といったユーザー像でしょうか?
 いえ、もっと解像度は高いですね。例えば、「子どもの健康を考えて、ある商品をスーパーで購入したことがある、都市部在住の30代ママ」くらいまで具体的に掘り下げられます。
 続くアクションでは、生成したクラスターをPontaのプラットフォーム内で再現します。
 Pontaデータには、属性に加えて実利用やリサーチのデータなどが含まれているので、この事例で言うなら、過去にベビー用品を購入したことのある女性から「子どもの健康が気になるママ」を抽出します。
 こうして、本当にその商品を必要としているクラスターごとに、ライフスタイルや価値観に応じた最も効果的な訴求方法を考案。DMやアプリのクーポンなどで、メッセージやコンテンツを出し分け、ピンポイントに直接情報を届けられるわけです。この事例では、実際に購入率の向上にもつながりました。
ダウンロード数500万超のPontaカードの公式アプリ(2020年10月現在)。同アプリ内で提供するクーポンのほか、メールや郵送のDMなど、ターゲットに最適なアプローチをサポートする
──Pontaの基盤は、ユーザーデータの集積であると同時に、アクションの土壌にもなるのですね。
 はい。企業によっては、顧客理解までは解像度高くできていても、実際のアクションにはつながらず、「30代女性向け」といったマス向けの訴求しか実施できていないケースも少なくない。
 こうした分析からアクションまで一貫した支援は、LMとアクセンチュア双方の規模感と分析ノウハウを持つビヨンド・ザ・データならではのスキームだと考えています。

データ活用の“チームメイト”であり、“ハブ”を担う

──この先、データ活用はどのように進化していくと考えていますか。
 業界をまたいだデータ活用によって、新しい価値が生まれるのではと思います。
 例えば、スマートフォンの位置情報と周辺の小売店の食材や在庫情報、さらにその人の好みを組み合わせれば、小売の収益向上と廃棄ロス削減に貢献できるかもしれません。
 あるいは、行動データと遺伝子情報を組み合わせて、ヘルスケア企業が疾患リスクを把握する、なんて使い方もあるでしょう。
 マネタイズが困難という理由で、せっかく取得したデータを眠らせておくのは、あまりにもったいないことです。企業同士の結びつきから、新たなビジネスが生まれる可能性もあります。
 ビヨンド・ザ・データとしても、Ponta提携社のネットワークを活用するなどして、マーケティングやプロモーション領域にとどまらない、データ活用の“ハブ”を担う存在になれたらと思っています。
 生産現場における需要予測や販売・在庫データに基づく発注最適化、オペレーション立案による業務効率化など、データを活かせる領域はまだまだたくさんあります。
 アクセンチュアは、あらゆる領域の企業と接点を持ち、蓄積してきたノウハウが最大の武器。今回の協業で、LMだけではお手伝いの難しかった企業や領域まで、データ活用支援の手を広げていきたいです。
──“データ活用の民主化”が進めば、さまざまな企業のビジネスに変化が起こりそうですね。
 それこそが我々のミッションです。データ活用とはあくまで手段であり、出発点でしかありません。
 時には長きにわたるデータ活用のPDCAサイクルをシームレスに支援し、クライアントである企業にとって“意味ある変化”を起こすことがビヨンド・ザ・データのゴールです。
 クライアントによって異なる目的地まで、お客さまと一緒に試行錯誤しながら伴走する。そんなデータ活用における“チームメイト”のような存在になれればと考えています。
(取材・構成:井上マサキ 編集:中道薫 撮影:森カズシゲ デザイン:月森恭助)