通勤の終わりと共に失われた、心のスイッチ

新型コロナウイルスによって日々の通勤に終止符が打たれた。そして音楽を聴いたり空想に浸ったり、まったく何もしないで過ごしていた貴重な時間は、いまではより多くの仕事にのみこまれてしまっている。わたしたちがこのまま燃え尽きてしまうのを食いとめるべく、仕事モードへの切り替えを脳に告げるアプリやティップスを試してみてはいかがだろうか?

ブルース・デイズリー

ポッドキャスト「Eat Sleep Work Repeat」の創設者でありホストも務める。

かつて朝の通勤は、食べて寝て働くうんざりするような日々の繰り返しの象徴だった。だがいまになって思えば、そこには何がしかの楽しみのようなものも存在した。高価なノイズキャンセリング・ヘッドフォンを着けてドリルミュージックのプレイリストを飛行機の離陸レヴェルの音量で聴く、それが眠っていた脳にゲームの始まりを、生活費を稼ぐときの始まりを知らせる合図だった。

通勤回数が週に2、3回だけになったり、あるいは完全になくなったりといった違いはあるとしても、いまやわたしたちの多くがなんらかのかたちでそうした切り替えのリズムを乱されてしまっている。通勤がなくなったことで心理状態の明確な区別自体がなくなったのだ。

スポティファイ・テクノロジーによれば、2020年の初めと比べて人々が音楽を聴く時間が10パーセントから20パーセント減っているという。通勤がなくなり家と仕事の区別もなくなったことで、音楽を聴く機会も減ったというわけだ。

家と仕事との間に境界線を引いてくれるアプリ

家と仕事との境界線が失われたいま、わたしたちの多くがいつの間にか労働時間を延ばすことで勤勉さを示すようになっている。アメリカ合衆国の労働者についてNordVPNが実施した調査によると、ロックダウン以来、就労時間が1日平均3時間増えたとされている。英国、フランス、スペイン、カナダでも多くの人が以前より早く仕事を始めるようになり、1日の就労時間が平均して2時間増えている。新しい世界でこれまでにないほどの長時間労働をするようになったいま、わたしたちは労働に役立つさまざまなツールに目を向け始めている。

働き方が変化するなかで多くの人が、日々の習慣を、仕事とそれ以外を分離するための行為として用いることが有効だと気づき始めている。健康管理アプリはここ2、3年の間に大きく進化した。

あなたが過去にマインドフルネスは自分には向かないと感じたことがあったとしても、いまではそうしたアプリや「Calm」のようなアプリが、さまざまなコーチングレッスンやリラックス法を提供して、自分では禅の境地を維持するのが難しいと感じている人たちをサポートしてくれる。こうしたアプリを日々の生活に取り入れることが、仕事モードに入る(そしてそこから抜け出す)ために役立つかもしれない。

隣の部屋に子どもがいると仕事に集中できないのが最大の悩みだという人には、生産性を上げるポモドーロメソッド[編註:短時間の作業と短時間の休憩を繰り返す時間管理術]に面白いひねりを加えた「Forest」というアプリが役立つだろう。定番のモバイルに入れてもいいし、最新の「Google Chrome」のアプリヴァージョンでもいい。

Forestは、25分間続けて集中するごとに、報酬として美しいデジタル画像で描かれた木を1本、あなた専用の森林に植えることができるという一種のゲームだ。成果として得た熱帯雨林と共に2020年の終わりを迎えられれば、初めてのZoomクリスマスランチで自分を慰めなければならないようなときには、何もないよりましだと思えるかもしれない。

ドーパミンを放出させる音を遮断したいなら……

仕事の妨げとなるものを完全に遮断した世界にさらに足を踏み入れたければ、同僚が捜索隊を送って来たりしないよう、あらかじめ話し合っておく必要がある。そもそも気が散ると成果が下がることは科学的にも明らかになっている。思考が中断されるごとにわたしたちの認知力が8分から20分の間鈍化することが、多くの調査研究の結果として示されているのだ。

あなたの目標が何らかの成果をあげて1日を終えることであるなら、「Freedom」のようなプラグインアプリを利用するのもひとつの手だろう。Freedomはソーシャルメディアのアラートからチャットの通知やメールまで、あなたが選択したどんなものでも遮断してくれる。ドーパミンの放出を促すこれらの誘惑をすべて遮断すれば、働くことが唯一の選択肢だと感じられるという仕組みだ。

だが──注意してほしい──何時間も続けて同僚との接触を断って閉じこもるときは、ヴァーチャルでデスクを共有している仲間たちに不在の合図を出しておくようにしよう。世界的パンデミックだからといって無断で職場を離れていいわけではないだろうから。

あるいは……もしかしたらあなたを悩ませているのは、世界中の騒音を消してしまうことではなく、音が少なすぎることかもしれない。コンピューターの画面を相手にする仕事で人と交わらないことから感じる孤立感は、Zoom会議の不気味な沈黙によってよりいっそう強められる。控えめなクスクス笑いや第4会議室から聞こえる拍手の音が消えた代わりに、目の前に並んでいるのは、ミュート状態の四角い画面の群れと、こちらをじっと見つめているたくさんの顔だ。