(ブルームバーグ): NTTの澤田純社長は6日のブルームバーグのインタビューで、NTTドコモの完全子会社化後に同社による海外投資を再開したい考えを明らかにした。海外で個人向け通信サービスなどに参入する可能性があるという。

澤田氏は完全子会社化後のドコモについて「海外投資をもう一度やってほしい」と述べた上で、個人向けサービスとして海外での決済や通信事業などへの参入があり得るとの考えを示した。

同社は長距離・国際通信事業のNTTコミュニケーションズと、システム開発事業などを担うNTTコムウェアのドコモへの移管を含むグループ再編も検討しており、NTTコミュニケーションズには海外での投資経験が豊富な人材がいることから、ドコモと連携して海外進出に再挑戦したいと述べた。事業移管には早くとも1年かかるという。 

NTTは9月29日、約4兆3000億円を投じた株式公開買い付け(TOB)で来年3月末までにドコモを完全子会社化する計画を発表。固定通信と移動通信の融合により新サービスの創出や事業の効率化を図り、国内大手通信事業者の中で3位に落ちたドコモの収益性改善を急ぐ。澤田氏は、重複する資産の売却などでグループ事業のてこ入れに必要な資金を創出すると同時に、株主還元を維持しながら海外資産の拡充も可能だと話した。

ドコモは過去、大型の海外投資で失敗した苦い経験がある。2000年代には米AT&Tワイヤレスに1兆円を超える金額を投じたり、インド最大の財閥タタ・グループの通信会社に約2600億円を出資したりしたものの壁は高く、最終的には敗退している。ソフトバンクグループやKDDIが海外で通信事業を展開する中で、ドコモは現在は大規模な海外事業投資を行っていない。

同社はTOBに必要な資金を全額、銀行のブリッジローンで借り入れる予定。澤田氏によると、借り換えのための社債発行を視野に入れており、今後1年以内に国内外で円建てやドル建ての長期債の発行を検討しているという。現時点では国内債と海外債をほぼ半々で起債することを考えているものの、調達コストは国内債の方が低いことから、詳細は今後主幹事の金融機関と調整すると述べた。

流動化で再投資

巨額TOBによりNTTの有利子負債/EBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)倍率は一時的に2.6倍に膨れあがる。しかし、澤田氏は約4年かけてこれを2倍以下に下げられると指摘。資産の売却や流動化などを積極的に検討するとの方針を明らかにした。

ドコモとNTTコミュニケーションズの基幹通信網や局舎の重複を解消することで、年間数百億円規模のコスト削減が可能になるという。NTTは今年、1兆円を超える規模のリース資産を合弁先に移管してオフバランス化。このほか不動産の流動化などにより財務状況を改善し、自社株買いや配当など株主還元方針は維持したいと強調した。澤田氏は、ドコモ株を手放した株主の一部がNTT株に乗り換えているとの認識を示した。

澤田氏は不動産など固定資産について「持っている資産を流動化して、そのキャッシュで次の投資をやるというフロービジネスに変える」ことが基本的な考え方だと説明。

昨年7月に設立した不動産事業のNTTアーバンソリューションズを活用し、資産のオフバランス化や流動化によって生まれる財務余力を新しい投資に充てることを試みる。同社のデータセンター事業への投資は現在年1000億円規模だが、証券化による資産の流動化で規模をさらに拡大したい考えを明らかにした。

いちよしアセットマネジメントの秋野充成取締役は、「ドコモの株主がNTTに乗り換えることは株価上昇の一因」と指摘した上で、5G関連の投資額は膨大になることから「投資余力があることは安心材料になる」と述べた。NTTの株価は7日の取引で、一時前日比4%高と5月18日以来の日中上昇率を記録した。

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