【前刀禎明】自分を超え続けるには「感性」が必要だ

2020/10/8
NewsPicks NewSchool」では、10月から自分自身について徹底的に考え、感じ、動くことで自分を変える、「セルフ・イノベーション」プロジェクトを開講します。プロジェクトリーダーを務めるのは、株式会社リアルディア代表取締役社長の前刀禎明氏です。

開講に先立ち、前刀氏にプロジェクトの概要と懸ける思いを語ってもらいました。
【前刀禎明】アップルで磨いた「自分を変革する」実践メソッド

どうすれば成長し続けられるのか

NewsPicksのNewSchoolで、なぜセルフ・イノベーションというプロジェクトをやるのか──。それは、自分が変わることで世の中を変えるんだ、という気持ちを持ってほしいからです。
前刀禎明(さきとう・よしあき)株式会社リアルディア 代表取締役社長
ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLを経て、ライブドアを創業。スティーブ・ジョブズ氏から日本市場を託され、アップル米国本社副社長 兼 日本法人代表取締役に就任。独自のマーケティング手法で「iPod mini」を大ヒットに導き、危機的であったアップルを復活させた。その後、リアルディアを設立し現職。著書に『僕は、だれの真似もしない』(アスコム)などがある。
現在はVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)が高まっている、VUCAの時代とされています。実際に、「ポストコロナはどうなる」「今後、求められる力とは」「働き方がジョブ型雇用に変わる」など、さかんに話題にあがっています。
ただ、セルフ・イノベーションは変化する世の中に合わせようと自分が変わる、という考えではありません。あくまでも、自分が変わって世の中を変えるんだと。そんな気持ちを持った上で、セルフ・イノベーションに取り組んでもらえればと思います。
セルフ・イノベーションには、3つの大きなフェーズがあります。
第一に、人間は様々な固定観念にとらわれていますから、自分を“解放する”ことが重要です。
次に、「どうなりたいのか」「どんな価値があるのか」と考える、自分を“創る”ということ。
最後に、そこで満足するのではなくさらに成長を続けていく、自分を“超える”というフェーズになります。
これらをカッコよくいうと、“Free Yourself”、“Create Yourself”、“Exceed Yourself”になります。そして、これらのフェーズを支えるものとして、学び続ける知性という“ラーニング・インテリジェンス”の考えがあります。
人間がどうしたら成長し続けられるかと言えば、「こうなりたい」と欲求を持ち、その欲求を達成するために一生懸命努力することです。努力をして欲求が達成されると喜びが生まれ、またチャレンジをしようという、さらなる欲求が起こります。
この「欲求・努力・喜び」というサイクルを繰り返していくことによって、人間は成長していきます。さらに、このサイクルを他人と共有することで、自分が知らなかったこと、あるいは自分が認識している以上の価値を認められることも出てきたりします。
今回のNewSchoolでは、このプロセスを行う上で、ぜひ考えてもらいたいことがあります。それが、“正解はあるか”ということです。

スイートスポットを認識せよ

ビジネスの世界では、答えは1つではありません。ところが、日本人は非常に正解を好みます。受験勉強の弊害だと感じますが、必ず正解を求めてしまったり、どうしても正解が気になってしまう。
顕著な例として挙げられるのは、美術館に行ったときの時間の使い方です。日本人の多くが、美術館で何に時間を使っているかというと、絵画の説明文を読むことです。絵画が飾ってあると、その前に立ってまずやることは、すかさず説明文を読み、「なるほど。すごいな」と感心する。そして、その隣の絵を見て、またすかさず説明文を見る。これを繰り返すのが日本人です。
その上、肝心の絵画をいつ見るのかと言えば、帰宅してから、購入したガイドブックなどの写真で見る。「いやいや、さっき本物の絵があったよね」と思ってしまいます。
一方で、面白いのがフランス人です。彼らは、日本人が高確率で答えることができるような、ルーブル美術館に飾ってある絵画のタイトルや作者を実はあまり言えません。
(Photo:アフロ)
それでも自分がどの絵が好きで、どう感じたのかと説明することができる。これが大きな違いです。ビジネスに正解がないように、セルフ・イノベーションのプロセスでも、自分がどう感じるのかを優先してもらいたいと考えています。
現代は、自分が考えたこと、思ったこと、感じたことがあっても、SNSなどで調べてみて大勢の人々が違うことを言っていると、「やっぱり違うのか」と、自分を押し殺してしまうケースが非常に多くあります。
しかし、言うまでもなく、自分の感性を信じることは非常に大事です。その自分を信じるために必要となる、スイートスポットという考え方があります。
ビジネスでは、求められていること、他社ができること、自社ができること、すべてが重なるところは、競争が激しいレッドオーシャンになります。一方、スイートスポットは確実に求められていながらも、自分にしかできないことです。
例えば、AppleがiPodを発表したことで、世間の関心は従来のMD(ミニディスク)からMP3、デジタルミュージックプレーヤーに流れ、Appleのスイートスポットは非常に大きくなりました。iPhoneを発表した際はより顕著で、それまでスマートフォンはありませんでしたから、他社が追随してくるまではスイートスポットが自社にしかない状態がしばらく続きました。
これは企業だけでなく、個人でも同じことが言えます。ビジネスで競合他社と自社を比較するのと同じように、自分と他人を比較した上で自分にしかないスイートスポットを探すべきだと。自分だけのスイートスポットを認識できれば、その後の動き方も変わってくるものです。

感性こそが、人を動かす

セルフ・イノベーションによる効果のひとつには、プレゼンテーションの能力向上もあります。その例として、私が様々な仕事をしてきたなかで、非常に大きな影響を受けた人物を1人挙げたいと思います。
それは、スティーブ・ジョブズです。
彼はキーノートスピーチでの新製品発表が得意で、感情的な結びつきによって人々を突き動かし、誰もが「どうしても欲しい」と感じさせられてしまうほどの力を持っていました。
プレゼンテーションには、ロジカルに物事を説明する機能訴求の“ロジカル”、感性に訴えかける感性訴求の“エモーショナル”、プレゼン内容そのものを見て理解させる“ビジブル”、プレゼンテーションには書かれていないことを想像させる“インビジブル”の要素があります。
世の中の多くのパワーポイントによるプレゼンテーションは、“ロジカル”と“ビジブル”の要素が強く入っています。それに対して、“エモーショナル”と“インビジブル”の要素が強い手法を、私はクリエイティブ・プレゼンテーションと呼んでいます。
また、“ロジカル”“エモーショナル”“ビジブル”“インビジブル”は、“オペレーション”“ビジョン”“リアリティー”“イマジネーション”という言葉に置き換えることもできます。
Appleにあてはめるなら、“ロジカル(オペレーション)”と“ビジブル(リアリティー)”に強みがあるのは現CEOのティム・クックで、“エモーショナル(ビジョン)”と“インビジブル(イマジネーション)”はスティーブ・ジョブズです。
そのスティーブ・ジョブズが持っていた、人々の感性に訴えかけて想像させる力がイマジネーションバリューで、現代のプレゼンテーションに必要とされます。
なぜならば、プレゼンテーションはいくらわかりやすくても、人は動いてくれないから。結局、理解することは当たり前であり、ロジカルに物事を説明してわかってもらうだけでは不十分なんです。共感こそ重要で、その共感したことを自分で想像し、面白いと感じてようやく「やってみよう」という自発が生まれます。
理解は当たり前で、その先の共感・想像・自発というプロセスを常に頭の中に入れておくと、大勢へのプレゼンテーションだけではなく、誰かに説明するときでも非常に役立つかと思います。
目指すは本質的な次元で人の心が動くこと。これはセルフ・イノベーションにおいても非常に重要で、ぜひNewSchoolで学んでほしい要素になります。
(構成:小谷紘友、デザイン:九喜洋介)
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