「密造酒」で日本人死亡…インドネシア在留邦人も呆れる大使館の対応

なぜ事件の経緯を隠すのか

危険な密造酒

インドネシアのジャカルタ首都圏で密造酒を飲んだ日本人が中毒症状を発症し、1人が死亡、複数が重い中毒で緊急加療を要する事態が起きた。

インドネシアは世界第4位の人口約2億7000万人、うち約88%がイスラム教徒という最大のイスラム人口を擁する国である。イスラム教では豚肉と並んでアルコールの摂取も禁忌で、敬虔なイスラム教徒は決してアルコール類を口にしない。それどころか摂取する食料品、さらには化粧品にまで、アルコール成分が使用されていないか神経を使うのが常とされている。

〔PHOTO〕Gettyimages

しかし現実的には酒好きなイスラム教徒も存在する。ただし正規の酒類には高い税金がかけられているため高額であり、当然の帰結として行き着く所が「安い酒」「自前の手作りの酒」ということになる。そこにイスラム教徒が圧倒的多数でありながら密造酒が横行するというインドネシア特有の背景がある。

そして密造酒だけに、時には工業用アルコールや怪しげな液体が「ブレンド」されるなど、安価に仕上げるために「安全性」は二の次とされたまま売買され、飲用される。そのためインドネシアでは、密造酒を飲んで死亡したり、中毒症状になったりする人は意外と多いのが現実なのだ。

そうした中で起きた今回の日本人死亡事件。現地日本大使館が発した「在留邦人への注意喚起」の文書の不親切極まりない文面と情報提供を見ると、「邦人保護」を最優先するというより「被害者や被害者が属する会社の都合」を最優先したかのような対応に終始している。

これが在留日本人の間に予想外の混乱と疑心暗鬼、さらに大使館への不信感を増大させている実態を踏まえて、以下、その顛末を報告する。

日本大使館が発信した「注意喚起」

9月26日、在ジャカルタ日本大使館は「非正規の自家製アルコール飲料の摂取によると考えられる重篤な健康被害の発生」と題した「注意喚起」を在留日本人に一斉メールで発信した。その内容は以下のようなものだった。

●ジャカルタ首都圏内において、非正規の自家製アルコール飲料(いわゆる「密造酒」「闇酒」)を摂取したことが原因と見られる在留邦人の死亡、中毒症状の発症等の事案が発生しています。
●同アルコール飲料(リキュールに似た洋酒)は,既に他の在留邦人等にも流通している可能性があります。もし疑わしき飲料がお手元にある場合には絶対に飲まないでください。既に飲んでしまった場合は、自身の体調の変化に十分注意してください。
●いかなる場合でも、「密造酒」や「闇酒」と呼ばれる非正規のアルコール飲料の購入及び摂取は絶対にお止めください。

「注意喚起」に添付された密造酒の写真
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コロナ禍で一時帰国した駐在員、家族が多いとはいえ、まだ数千人規模でジャカルタに残っていた日本人駐在員、長期滞在者などはこのメールを受け取って初めて密造酒を飲んだ日本人が死亡したという事件を知り、びっくり仰天した。

というのも、在留日本人はジャカルタ市内の大型スーパーや酒屋で販売されている正規ルートで輸入あるいは流通した日本酒、焼酎、海外のワイン、ウイスキー、ハードリカー、そしてインドネシア産を含めた各国のビールを購入して飲むのが通常であり、安価で正体不明な密造酒あるいは闇酒に手を出すことはまずない、というのが常識となっていたからだった。

 

インドネシア政府は国民の圧倒的多数がアルコールを禁忌とするイスラム教徒であることもあり、一般に海外からのアルコール類には高い関税をかけており、日本製の酒類、日本酒、焼酎、ウイスキーなどは日本での価格の約5倍前後で販売されている。

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