2020/9/30

【解説】知らないではすまされない、リニアの「水資源問題」

湯浅 大輝
NewsPicks編集部 記者
「これは、大井川の水で作られた牧之原台地のお茶ですよ」
2020年6月26日、静岡県庁。
川勝平太知事は、リニア工事着工の許可を静岡県から得ようと交渉に訪れていた金子慎・JR東海社長のもとに、一杯のお茶が運ばれてくると、そんな牽制球を投げた。
「恐れ多くて、飲んでいいものか……」(金子社長)
2020年6月26日、リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事について静岡県庁で会談する川勝平太・静岡県知事(左)とJR東海の金子慎社長(写真:時事)
20世紀最大の巨大プロジェクト、リニア中央新幹線計画が事実上、暗礁に乗り上げた。その「決定打」となったのが、このトップ会談だ。
JR東海のリニア工事実施計画は、2027年の品川ー名古屋間の開業を目指し、2014年に国の認可が下りたはずだった。
ところが、各都県の工事が着実に進む中、静岡県だけが今、その着工に「待った」をかけた格好だ。
なぜか。静岡県にとって、ある「死活問題」が浮上しているからだ。
「大井川の水問題」である。
この大井川の水は、中下流域に住む、およそ62万人の県民の生活を支える大事な「水源」だ。1万2000ヘクタールの農地用水、または工業用水や発電用水としても利用される。
冒頭の「お茶」もまた、大井川の水で育った茶っ葉を使っていたわけだ。
リニアのトンネルは、この大井川の「直下」を通る計画。そして問題は、トンネル工事に伴い、川の水が県外に流出し、水が減ってしまう恐れがあることだ。
ただでさえ、大井川は渇水が過去にも頻発しており、足元でも2018〜19年にかけて、流域住民たちに節水期間が設けられているほど。
そうしたなか、JR東海は2018年、「原則として水の全量を大井川に戻す」と表明していた。しかし翌2019年、「全量を戻すことは難しい」と一転する。
静岡県の大井川(写真:東阪航空サービス/アフロ)
静岡県とJR東海の議論は紛糾し、トップ会談でも交渉がまとまらなかった今、2027年のリニア開業は延期となる公算が大きい。
国交省も手をこまねいているわけではない。今年4月、両者の仲介に入り、リニアの「静岡工区有識者会議」を設置。これまでの2者の議論を、科学的・工学的に検証して助言・指導を行おうとしている。
果たして今、ここで何が議論されているのか。そして、この問題は解決するのか。
その一人のキーパーソンが、静岡大学客員教授の森下祐一博士だ。
この有識者会議のメンバーを務め、静岡県がこれまで環境保全措置について確認・助言するために設けてきた「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」においても、地質構造・水資源専門部会の部会長を務める。
「私は、科学者として、科学的に真実を追求する立場にいます」
膠着するリニアプロジェクト。その鍵を握る「大井川の水問題」の現在地について、森下氏が解説する。
NewsPicks編集部は、リニアの鍵を握る静岡現地取材を敢行した(写真:Daiki Yuasa)
「水を自然に戻す」の全経緯