指揮者は指揮台で何をしているのか? セミナー聴講から、その役割をひもとく
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指揮者は指揮台の上で、いったい何をやっているんだろう。疑問に感じたことはありませんか? オーケストラより一段高い場所に陣取って客席に背を向け、演奏中は休むことなく不思議な踊りを続ける。本人が音を出さないんだから「いてもいなくても一緒じゃないの」と考えるのも無理はない。謎を解明すべく、びわ湖ホール(大津市)のオペラ指揮者セミナーを聴講してみた。
始まりと終わりの決定者
ホール芸術監督の沼尻竜典さんを講師とする3日間のセミナーは、5年前から毎年開かれ6回目を迎えた。今回の題材はドイツで人気の高い「ヘンゼルとグレーテル」(フンパーディンク作曲)だ。家族で楽しめるおとぎ話だが、ワーグナーの影響を受けた音楽は複雑で、破綻なく演奏することが難しい。
8月4~6日に行われたセミナーの受講生はオペラの副指揮者など、ある程度キャリアを積んだ若手5人。ホール座付きの声楽家や大阪交響楽団(大響)が、指揮者のアクションに忠実に反応して音を出す。記者は最終日を聴講したが、ラストの成果発表で衝撃的な「事故」が起きた。
クライマックスを担当した受講生が、指揮棒を持つ右手を振り下ろそうとしてストップ。大響も音を出すのをやめた。舞台裏からヘンゼルとグレーテルの父親が登場する場面だが、歌手の準備が整わないまま指揮棒を振り上げたのだ。指揮者は舞台の最高責任者。出演者から裏方に至るまで、全員の状況を把握した上で音楽を始めなければならない。
特にオペラの場面転換では、指揮者と裏方との厳しい駆け引きが展開されているという。例えばワーグナーの楽劇「神々の黄昏(たそがれ)」の最終場面直前に流れる「ジークフリートの葬送行進曲」。感動的な音楽として名高いが、通常以上のスローテンポで壮大に鳴らされた時には、舞台装置の入れ替えに手間取っている可能性を疑ってみると、指揮者の仕事への理解が深まるかもしれない。
リズムと強弱を制…
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