[ニューヨーク 22日 ロイター] - 今年の米株式市場では、新型コロナウイルスのパンデミックがワクチンの開発で終息に向かうとの楽観的な見方が、持ち直しの主な要因となってきた。しかし、開発中のワクチンは効果を確認する重要な試験を控えており、楽観論は今後数週間が正念場となりそうだ。

UBSによると、米株式市場における5月以来の上昇分の約40%が、新型コロナワクチン開発への期待による部分だった。

世界中で進むワクチン開発の取り組みはヤマ場を迎えつつあり、ファイザー<PFE.N>やモデルナ<MRNA.O>は、早ければ10月か11月に臨床試験(治験)の最終データがまとまる見込み。米株式市場はこのところ、追加経済対策の遅れや米大統領選を巡る先行き不透明感などへの懸念から不安定になっており、ワクチンの臨床試験結果が失望を誘う内容なら、さらに動揺が大きくなりかねない。

グリーンウッド・キャピタルの最高投資責任者(CIO)、ウォルター・トッド氏は「ワクチンは効果を持つという前提に立っている。だから、これに反する材料はどんなものでも、市場にとってリスクになるだろう」と述べた。

ワクチンはいくつも開発作業が進められているため、どこか1つの開発が頓挫しても市場への打撃は小さくて済みそうだ。世界保健機関(WHO)によると、現在臨床試験が行われているワクチンは世界全体では30件余りで、このうち6件程度が最終試験の段階にある。

BNYメロン・インベストメント・マネジメントの市場戦略部門のディレクター、リズ・ヤング氏は「壁にたくさんのスパゲッティを投げ付けて、1本でも引っかかればいいという感じで成功を目指している」と話した。

アストラゼネカ<AZN.L>とオックスフォード大学が共同開発しているワクチンが、治験参加者に副作用が表れていったん臨床試験を停止したにもかかわらず、株式市場の反応が全体的に鈍かったのはこのためだろう。このワクチンは英国、ブラジル、南アフリカで臨床試験を再開したが、米国では止まったままだ。

ワクチンの普及時期については、以前より悲観的な予想も出ている。公開情報に基づいてワクチンの普及時期を予想しているグッド・ジャッジメントによると、来年3月末までに米国でワクチンが幅広く供給される確率は足元で54%となっており、7月初旬の20%弱から上がったが、9月初旬の70%強からは下がった。

ファイザーとモデルナはデータの初期的な分析に基づき、10月か11月に臨床試験の当初結果を公表する可能性があり、アストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)<JNJ.N>、ノババックス<NVAX.O>などがこれに続きそうだ。

当局が年内にワクチンを緊急承認すれば、旅行やレジャーなどロックダウンで影響を受けた銘柄が上昇し、何年も相場をけん引してきたハイテクなど成長株から、バリュー株への資金シフトが勢い付くだろう。

ただ、ワクチンが承認されても、どの程度のペースで普及するのかという問題は残る。米国ではトランプ大統領と疾病対策センター(CDC)トップとの間で、ワクチン普及の時期を巡って見解が食い違っている。

ナショナル・セキュリティーズの首席市場ストラテジスト、アート・ホーガン氏は「ワクチンの製造と供給に時間が掛かることが分かれば、市場に失望が広がるだろう」と述べた。

UBSの米・グローバル株式戦略ヘッドのキース・パーカー氏によると、ワクチンが承認されて普及した場合、S&P総合500種<.SPX>は足元の水準から300ポイント程度、8%余り上昇する可能性がある。

また、バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチによると、ワクチンが来年第1・四半期に普及した場合、世界の来年の国内総生産(GDP)成長率は6.3%となるが、普及が来年第3・四半期にずれ込んだ場合には成長率が5.6%にとどまる見通しだ。

パーカー氏によると、臨床試験が失望的な結果ならS&P500は100ポイント、3%程度下げる可能性がある。米株式市場はワクチン開発が1つ頓挫しても「何とか切り抜けられる」が、「失敗が2、3個続けば、ワクチン開発競争の再考が起きそうだ」と話した。

(Lewis Krauskopf記者)