【濵野智成】中国マーケティングの勝機は「口コミ」にあり

2020/9/27
「NewsPicks NewSchool」では、10月から中国市場攻略について徹底的に学び、ディスカッションするプロジェクト「ニューチャイナ・マーケティング」を開講します。プロジェクトリーダーを務めるのは、株式会社トレンドEXPRESS 代表取締役社長CEO・濵野智成氏です。

開講に先立ち、濱野氏に概要とプロジェクトへの思いを語ってもらいました。
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「ソーシャル・インフルエンス」を高める

クチコミは中国におけるマーケティングの大前提であり、中国は「信頼経済圏」で成り立っているとよく言われます。
「朋友圏(ポンヨウチュエン/「コミュニティ」の意味)」と言われますが、中国では信頼できる自分の知り合いや知人とのあいだでビジネスをすることが多く、これはBtoCでもBtoBでも同じです。
したがって、クチコミを操り、クチコミを自分たちのものにすることができれば、実際にBtoCもBtoBもビジネスを広げやすいということになります。
これは中国事業を拡大していくための詳細ステップをまとめた資料ですが、やはりクチコミが先行指標になります。具体的な化粧品の事例で恐縮ですが、やはり売れているブランドにはクチコミが多く、売れていないブランドにはクチコミがありません。
われわれはさまざまなケースで分析を行っていますが、クチコミ量が増えれば売り上げが上がるという意味でほぼ比例関係にあります。
このような原理原則を踏まえると、中国におけるマーケティングのフレームワークはおおまかに「6S」(サーチ・インサイト、ストラテジー・プランニング、シンパサイズ・コンテンツ、ソーシャル・インフルエンス、サーベイ・イフェクト、ストラテジー・インプルーブメント)に分かれていきます。
まずはサーチ・インサイトとは、先ほども申し上げた通り、消費者のインサイトを発掘すること。これをもとにストラテジーをプランニングし、シンパサイズ・コンテンツ、すなわち共感できるコンテンツを生み出し、ソーシャル・インフルエンスを引き起こしていくという流れになります。
これを逆算しますと、ソーシャル・インフルエンスを引き起こすうえでクチコミが非常に重要なキーになるわけですが、このクチコミを生み出し、起爆させることに成功した事例を紹介したいと思います。
ご紹介する事例は某製薬会社の害虫駆除商品です。これは中国で一番売れている同社の商品ですが、この商品をさらに中国で売っていくにはどうしたらいいのかというご相談をいただきました。
われわれの強みでもあるビッグデータ解析でわかった深いインサイトは、同商品の捕獲型のパッケージがペットや赤ちゃんのいる家庭から支持が高いことがわかったのです。
なぜかと言うと、中国ではまだ毒餌をまいて害虫を駆除することが主流で、赤ちゃんやペットが毒餌を誤飲し、食べてしまうリスクがあるからです。そうした中で、じつは捕獲型のパッケージで赤ちゃんやペットが誤飲するリスクが少ないというのが当商品の深いインサイトであり、購入要因でした。そこで、ペットや赤ちゃんというキーワードに強く反応する方々に刺さるキャンペーンを組んだのです。
中国でペットを持つ家庭の主婦に刺さるハッシュタグをつけてキャンペーンを実施したところ、クチコミが急拡大し売り上げも大きく伸びていったのです。
濵野 智成/トレンドEXPRESS代表取締役社長CEO
大学卒業後、Deloitteに入社。 グループ最年少のシニアマネージャーとして、東京支社長、事業開発本部長を歴任。 その後、ビッグデータ&AIを事業とする株式会社ホットリンクに参画し、COO(最高執行責任者)として、グローバル事業、経営企画、事業開発、戦略人事等を管掌。 日本の人口縮小課題の解決と日本企業の世界での活躍推進をミッションに、株式会社トレンドEXPRESSを立ち上げて代表取締役社長に就任。 DNXVentures、日本郵政キャピタル、NTTDocomoベンチャーズなどから累計12.8億円を調達。 日本と中国を拠点に、クロスボーダーマーケティング&コマース事業を展開中。
また、日本の強みであるコンテンツ、とくにIP(Intellectual Property/知財)コンテンツを活用した例も見られます。
たとえば最近ですと、ユニクロと集英社の週刊「少年ジャンプ」のコラボレーションが非常にバズになり、これがクチコミを起爆しました。ユニクロは中国では非常に強いのですが、こうした起爆剤を、つねに投下しているわけです。
一方、クチコミだけでなく流通戦略も大事ですが、中国ではダイレクト・トゥ・コンシューマー(D2C)といったビジネスモデルがなかなか伸展していません。そのため流通全体の規模を広げていくことが大きな戦略になっています。
たとえば中国におけるECの販路は多岐にわたりますが、流通全体の規模が拡大するとEC旗艦店の売り上げも拡大する傾向にあります。
ところが、EC旗艦店の売り上げのみを追っていて、流通全体の戦略が欠けているケースも少なくありません。EC旗艦店の売り上げを伸ばすには流通全体の規模をコントロールしていかなければならない中で、BtoBとBtoCを意識した流通戦略が求められます。
このように流通全体の規模をコントロールしながらどう売るのかということも、中国市場におけるマーケティングを成功させるうえで重要なテーマです。
また、BtoBとBtoCのビジネスモデルに垣根がなくなってきているというのが、今の中国市場の大きな特徴です。
たとえば最近ですと、自動車メーカーに製品を納入しているねじのメーカーが、ライブコマースを通じて「淘宝(タオバオ/Taobao)」というECプラットフォームで製品を販売し、その結果としてBtoBのチャネルを開拓するという動きも起きています。
このように、BtoCとBtoBとの垣根がなくなっていく中で、中国のアリババを始め「腾讯(テンセント/Tencent)などのインターネット企業は軒並みBtoBプラットフォームを立ち上げてきていますので、BtoB事業を手がけている方でもBtoCのメソッドを生かせる機会が多々あると思いますし、一部事例としても触れていきたいと考えています。
(写真:istock.com)

拡散型から蓄積型へ

最後のテーマが、拡散型から蓄積型のマーケティングへということですが、先ほどD2C展開での成功例が少ないという話をしました。
唯一、大きな成功を収めているのが、この完美日記(ワンメイリイジイ)、PERFECT DIARYという会社ですが、現在中国ナンバーワンの化粧品会社に躍り出ています。
同社は、コロナ禍の中でも広告投下を約250%プラスアルファしており、時価総額2000億円、資金調達100億円を実現しているブランドです。
「広域流量」と言われる潜在顧客を「私域流量(ロイヤルユーザー)」にうまく転換させており、商品力はもちろんマーケティングにもたけています。
そのマーケティングモデルを簡単に図解化しますと、「ブランド経済圏」を確立させることによって、中国ではなかなか難しいと言われるD2Cで一定の成果を収めており、その1つのサイクルが消費者インサイトの発掘から始まっているのです。
同社はとくに、1990年代後半から2000年生まれのZ世代について非常によく研究されています。
じつは今Z世代に刺さるのは、オリジナリティがあるもの、オンリーワンであるもの、自分で選択できるものだというインサイトがありますが、最近出された完美日記のアイシャドウには動物の絵柄が12種類ぐらいあり、たとえば私はトラのアイシャドウを使ってみるとか、パンダのパイシャドウを使ってみるとか、自分でセレクトできることをうまく取り入れたマーケティングや商品開発を行っています。
こうしたところから戦略の洗練化を進め、クチコミを創出しているわけです。
次いで、認知の拡大と興味層の拡大を図るわけですが、それらを通じて購入の最大化を図ったあと、日本のブランドではここで売りっぱなしになるケースが多々あります。
ところが同社は、購入者の発掘とデータの蓄積をしっかり行い、購入者の活性化および購入者データの分析を通じて、さらなるインサイトを発掘していくというサイクルを構築しているのです。
中国市場のマーケティングにおいてクチコミの創出が大事だということまではご存じの方が多いのですが、このサイクルにおけるすべてのプロセスにおいて、蓄積型マーケティングが抜け落ちていることが多々あるわけですね。
とくに、すでに中国のマーケティングに取り組んでいる方ならご存じのテーマも多いと思いますが、たとえばKOL依存といった課題があります。
KOLは「キー・オピニオン・リーダー」のことですが、マーケティングがインフルエンサー依存型で、李佳琦(リージアチイ)や薇婭(ウェイヤア)などの有名KOLさえ使えば商品が売れる。その一方で、それ以外に何か戦略的な手が打てないという課題に悩まされているブランドも多いと思います。
こうした課題を解決するために、多様な切り口で、さまざまな成功事例や失敗事例を深掘りしながら、日本ブランドが世界で勝つために、もっと言えばファーストマーケットとしての中国で勝つための成功法則を、皆様と一緒に見いだしていくことが本セッションの大きな趣旨となります。
(構成:加賀谷貢樹、デザイン:九喜洋介)
「NewsPicks NewSchool」では、10月から「ニューチャイナ・マーケティング」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。