2020/9/24

【必見】優良企業が採用する財務諸表、ROIC使いこなし術

NewsPicks ジャーナリスト
多角化経営がコロナ禍で見直されつつある。
幅広い分野で事業展開すれば、航空機産業や自動車産業のように不調な産業があっても、代わりにITやヘルスケアのように好調な産業もあるため、不況時に業績が安定するからだ。
ただ、世の中には、収益性の低い事業を数多く抱えた多角化企業も少なくない。
将来性のある事業を見極め、収益性が低くて未来の展望も描きにくい事業は切り出すーー。こうして、強い事業で構成された多角化経営が求められている。
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そこで注目されているのが、事業ごとの「稼ぐ力」を測る経営指標である「ROIC(投下資本利益率)」だ。
株主資本や有利子負債といった投下資本に対し、どれだけの利益が得られるかを測る指標だ。
ROICが低い事業は、投じた資金に見合うだけの利益を稼げていないと判断される。つまり、その事業から手を引き、そこで回収したお金は別の事業に投資した方が、全体の企業価値が高まる、というわけだ。
こうしたロジックは、経営するうえで合理的だ。一方、あまりに投資家視点に偏った考えではないかという懸念も根強い。
事業を縮小して人員削減などのリストラが加速するのではないか。短期的な利益追求が重視されるのではないか……。
そうした懸念を払しょくするかのごとく、ROICを全社員でフル活用している企業がある。ヘルスケアや自動化システムなどを手がける多角化企業、オムロンだ。
同社によると、生産現場の生産性改善活動や、付加価値の高い製品販売の推進といった日本企業が得意な泥臭い活動そのものが、ROIC向上に直結し、よりよい社会づくりへと結び付くという。
投資家目線の経営指標であるROICの考えを、全社員に「腹落ち」させることは可能なのか。
オムロンの取り組みのキーパーソンである日戸興史CFO(最高財務責任者)を直撃し、その全貌に迫った。

一度失敗しました

「実は、2000年代半ばにROIC導入を進めたのですが、一度失敗しました」ーー。日戸CFOは率直にそう認める。日戸氏は、当時のROIC導入に際して、旗振り役を担っていた。
とはいえ失敗によって、「ROICが、より良い社会づくりへとつながっていくという『シナリオ』が大事だと気付かされました」と話す。
日戸興史取締役執行役員専務。1983年立石電機株式会社(現オムロン株式会社)入社。2011年執行役員、2014年グローバル戦略本部長(現任)、2017年CFO
創業当初はレントゲン写真撮影用タイマーの製造などを手がけていたオムロン。
今は体温計や血圧計などヘルスケア、工場の自動化機器システム、さらには自動改札機など社会システムと、手がける事業は多岐にわたる。
「選択と集中」ならぬ「選択と分散」なる経営方針の下、事業撤退を含めた事業の厳選はしつつ、事業領域を手広く模索する。
そんな同社にとって、事業ごとの強さや将来性を見極めるには、ROICが有効な指標だった。

問題は赤字ではない

そもそも、「アール・オー・アイ・シー」とも「ロイック」とも呼ばれるROIC、すなわち投下資本利益率とは何なのか。
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