[デジョン(韓国) 14日 ロイター] - 韓国政府が先月、拡充した半導体材料の試験施設をお披露目した際に目玉となったのは、サムスン電子<005930.KS>が格安で売ってくれた最新鋭の露光装置だった。

この施設は、国内のサプライヤーが、フォトレジストなどの半導体向け先端素材の製造や検査ができる態勢づくりを進めるのが目的。日本が昨年、幾つかの半導体材料輸出を制限したことをきっかけに、韓国は内製化を推進している最中だ。

業界関係者からは、内製化実現への道のりは遠いとの声が聞かれる。ただ今年になって、新型コロナウイルスのパンデミックと米中対立激化によりサプライチェーンの世界的な変化が加速しているため、内製化の必要度は一層高まっている。

サムスンから露光装置の提供を受けた国立ナノ総合ファブセンター(NNFC)のリー・ジョウォン所長は、以前ならサムスンなどの大手半導体メーカーは、材料の調達に関して価格が最優先で、調達先がどこかは問わなかったと話す。「だが日本の輸出制限とコロナが原因で、彼らは国内のサプライヤーを育成し、混乱なく材料を仕入れられる仕組みを構築し始めた」という。

NNFCがサムスンから購入したのは、オランダの半導体製造装置メーカー、ASLM<ASML.AS>の「ArF液浸リソグラフィ」と呼ばれる露光装置で、国内サプライヤーが材料の品質を検査する上で役立つ。専門家によると、新品の価格は最高で1000億ウォン(8400万ドル)に達する。一方、NNFCのある職員は、この装置の購入と改修に付けられた予算はおよそ200億ウォンだと明かした。最終的にいくらで買ったかは分かっていない。

ソウル国立大学のリー・ジョンホ教授は「これほど高価な機器が公的研究施設に提供されるなど、過去には決して想像できなかっただろう」と驚き、政府のかなり高いレベルによる判断があったとの見方を示した。

<調達先の多様化>

サムスンの広報担当者は電子メールを通じてロイターに、同社は次世代の半導体技術開発に協力してもらう必要がある企業に投資することを決めていると説明した。

最近では国内で半導体部品と検査機器の製造を手掛ける2社、S&Sテック<101490.KQ>とYIK<232140.KQ>に合計約1130億ウォンを投じている。S&Sは、半導体製造工程において欠かせない「マスクブランク」のメーカー。韓国は現在、マスクブランクの90%強をHOYA<7741.T>など日本メーカーから調達している。ただこの製品は日本の輸出制限対象ではない。

サムスンの支援を受けたある半導体材料メーカーの幹部は「サムスンは、1つの調達先に依存しすぎないように、多様な選択肢を確保しようとしているようだ」とみている。

日韓関係に改善の兆しが見えないことから、韓国政府は依然として主に日本から仕入れているハイテク100品目の調達先を広げる取り組みを進めており、このために2022年までに5兆ウォンを投資すると表明した。日本の輸出制限を受けた3品目については、既に国内やベルギー、台湾、中国から仕入れている。

<懐疑論>

とはいえ、規模の小さい韓国国内の半導体材料市場において、日本が優位に立つ最先端技術開発に多額の資金を投じることに経済的な合理性があるのか、との疑問も存在する。

また韓国政府は大手メーカーが国内のサプライヤーを使うことを望んでいるが、韓国産業連盟(FKI)幹部は、「品質面の保証がない限り、それは簡単なオプションとは言えない」とけん制した。何しろサムスン、SKハイニックス<000660.KS>、LGディスプレー<034220.KS>は、アップル<AAPL.O>やクアルコム<QCOM.O>、華為技術(ファーウェイ)といった世界的なIT企業に製品を供給しており、韓国にとって半導体セクターは輸出の2割を占める重要な産業なのだ。

元SKハイニックスのエンジニアで現在は韓国産業技術大学教授のキム・サンヨン氏は、EUV(極端紫外線)フォトレジストのような高度な材料を内製化するにはそれなりの時間がかかると指摘する。今、世界のフォトレジスト製品のシェアは日本が9割を握っている。

キム氏は、日本が輸出制限対象を半導体製造装置にまで拡大すれば、韓国は痛手を受けかねないと警告する。

韓国がなおも日本に大きく依存するハイテク100品目のうち、14品目は半導体製造装置関連で今は輸出が制限されていない。ただキム氏は、日本がこの14品目を規制すれば、韓国の「半導体生産はストップする」と強調し、半導体の材料よりも製造装置とその部品の方がより足場が弱いと付け加えた。

(Joyce Lee 記者、Hyunjoo Jin記者)