2020/10/16

【日本発】コロナ抑制効果も持つ、すごい水「帯電微粒子水」の正体

NewsPicks BrandDesign Editor
人類とウイルスの戦いに、終わりは来るのか。新しい感染症が猛威をふるうなか、「空気リスク」への関心がかつてないほど高まっている。そこへ今、注目を集めているのが、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」の抑制効果が確認された日本発の技術「帯電微粒子水」だ。

世界中から期待が集まるこの技術の独自研究を進めるのは、パナソニック アプライアンス社。帯電微粒子水とは、一体、どんな力を秘めている技術なのか。

「空気リスク」に立ち向かう最新テクノロジーの正体に迫る。

新型コロナをも抑制するナノサイズの“水”

 手に付着しているウイルスであれば洗い流せるが、室内空間のどこにいるかわからないウイルスには対処できない──。そんなもどかしさを払拭できるかもしれない実験結果が注目を集めている。
 「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対し、3時間で99%以上の抑制を確認」
 7月31日、パナソニックは、「帯電微粒子水」が新型コロナウイルスを抑制する効果を確認したという技術発表を行った。
 45リットルの試験空間に帯電微粒子水の発生装置と、新型コロナウイルス液が付着したガーゼを置いたシャーレを設置したところ、3時間後には99%以上の新型コロナウイルスが死滅していたという。同様の試験を3度行い、すべてで99%以上の抑制効果が確認された。
 これはあくまで密閉した試験空間での結果で、実使用空間で同じ効果を確認できているわけではないが、同じ空間に発生装置を置いておくことで、洗えないものや空気に対してのウイルス対策ができるのであれば、どれほど心強いことだろう。
 しかも、この抑制効果は新型コロナウイルスだけでなく、他のウイルスや細菌・真菌、そして今後新たに登場するかもしれない“未知のウイルス”に対しても同様の結果が期待できるのだという。

「帯電微粒子水」とはなにか

 ウイルスや細菌・真菌に抑制効果を持つ帯電微粒子水とは、一体、どんなものなのか。
 これは、空気中の水に高い電圧を加えることで発生する小さな水の粒を指すという。その大きさは5~20ナノメートルと非常に小さく、肉眼はもちろん、一般的な顕微鏡でも確認できないほど極小だ。この小さな水の粒の中に多数含まれる「OHラジカル」が、ウイルス抑制効果のカギを握っている。
 空気中に存在する見えない水分に対し、高電圧をかけることで帯電微粒子水が拡散され、ウイルスの表面に付着すると、帯電微粒子水の中にあるOHラジカルが活躍し始める。
 その名の通り、「O(酸素)」と「水素(H)」で構成されるOHラジカルはそのままでは不安定であるため、ウイルスのエンベロープ(膜状の構造)や殻から水素(H)を抜き取って水になろうとする。
 水素を奪われたウイルスは表面のたんぱく質が変性し、死滅するしくみだ。
 OHラジカルは酸化力が強く、ウイルスから水素を抜き取り、積極的に水になりたがる性質を持ち、ウイルスに対して高い反応を示す。
 しかも、ナノサイズという特性を活かし空気中だけでなく、人の衣服やカーテンなど帯電微粒子水が到達した場所にウイルスがあれば、その繊維の奥まで入り込み、ウイルスを抑制する効果を持つという。
 帯電微粒子水はウイルスだけでなく、細菌や真菌、カビや花粉などのアレル物質に対しても同様の反応をし、除菌したり、無力化したりする。
 このような空気浄化効果に加え、髪や肌にうるおいを与える美容効果や、食品の鮮度を保持する保鮮効果も確認されている。
 帯電微粒子水は、水に包まれた微粒子イオンであり、自然界にある水分でできているので安全性の面でも心配はない。GLP(優良試験所基準)に適合した試験施設などで、安全性試験データを取得済みとのことである。

未知のウイルス抑制への期待も

 2020年、人類は突如現れた未知のウイルスに翻弄されることとなったが、この先、また新たなウイルスが世界を脅かす可能性を私たちは否定できない。しかし、この不安に対しても帯電微粒子水は明るい未来を提示してくれる。
 今回、発表された抑制効果は新型コロナウイルスに対する実験結果だが、すでにパナソニックは2012年に第三者機関※1とともに、ウイルスを4つの生物学的特性に分けたウイルスクリアランス試験を行っている(※1:Charles River Biopharmaceutical Services GmbH)
 あらゆるウイルスは「エンベロープ」の有無と「ゲノムサイズ」で4つの類型に分類されるが、この4つすべてに対して帯電微粒子水の抑制効果が確認されているのだ。
 つまり、今後未知のウイルスが登場しても、同様の効果が期待できるということ。今回の新型コロナウイルスに対する実験は、2012年に確認された効果を改めて検証したものである。

たった2人から始まったパナソニックの挑戦

 感染症の脅威から、人々を守る効果が期待される帯電微粒子水。
 パナソニックが、この技術を着想したのはどんなきっかけだったのか。その開発までの道のりと、今後の展開について、パナソニック アプライアンス社 技術本部 ホームアプライアンス開発センターの中山敏部長に聞いた。
1985年松下電工(現パナソニック)入社。浄化槽用曝気ポンプの開発から始まり、温水洗浄便座、手首一体型血圧計などの健康家電、リニアシェーバーやドライヤーなどの美容家電等の要素技術開発を経て、現在は「世界中の空気をキレイ」にするために帯電微粒子水生成技術開発のリーダーを務める
──身近な存在である“水”に、ここまでの力があるとは驚きました。帯電微粒子水の研究開発がスタートしたきっかけについて教えてください。
中山 この研究は1997年、空気清浄機の開発を担当していた2人の研究員の着想からスタートしました。
 私たちは日常的に、なにかが汚れれば水で洗ったり拭いたりしますし、それで汚れが落ちればニオイも解消されてスッキリします。こうした「水の力」を、空気清浄機の脱臭機能に応用できないかと考えたのがすべての始まりです。
 とはいえ、水をそのまま空気中にばらまいても、すぐ地面に落ちてしまいます。霧吹きで細かな粒にしても同様です。
 どうすれば空気中に長く水をとどめることができるのか。
 そこで、水に対して放電を行い、目に見えないほど極小の粒にすることで空気中に放出し浮遊させてみた。これが帯電微粒子水の誕生につながりました。
 しかし、タバコのニオイなどで実験すると明らかな脱臭効果は体感できたのですが、なにしろ帯電微粒子水はナノサイズで目に見えないもの。客観的な効果検証や評価に加え、その計測や効果を生み出すメカニズムを解明するまでには困難を極めました。
 当時は、開発に着手してから3~4年程度で商品化できなければ、その技術には芽がないと判断し開発を中止するのが通例。研究は、中止の瀬戸際まで立たされました。
 しかし、帯電微粒子水の可能性に賭けた当時の研究所長が続行を決断し、開発から6年をも経て、ようやく商品化が実現。技術の力を信じ、最後の最後まで諦めず熱意を持ち続けた技術者の姿が、パナソニックらしいと感じます。
取材はZoomで実施した

効果の長寿命化を叶えた「水の力」

──世界的な感染症の拡大で、空気の質やリスクに対する意識が高まっています。御社の技術に対するニーズや評価に変化は感じますか。
 日本人の清潔好きな国民性が影響しているかどうかはわかりませんが、空気清浄の技術は当社を含む日本メーカー数社が世界をリードする立場にあります。
 海外ではこうした研究はあまり進んでおらず、これまではグローバル市場でも関心はあまり高くない印象がありましたが、コロナ禍をきっかけに熱い視線が注がれている実感があります。
 実際、7月末に発表した新型コロナウイルスに対する抑制効果のニュースリリースに対しても、海外からの反響は国内を上回る大きなものでした。
──パナソニックの帯電微粒子技術の優位性はどんな点にありますか。
 まず、OHラジカルは非常に反応性が高く、特に細菌や真菌、ウイルスやアレル物質の抑制を得意としますが、このOHラジカルを帯電微粒子水技術として利用しているのは現在、当社だけです。
 ただ、OHラジカルそのものには、弱点がありました。寿命が非常に短く、そのまま空気中に放出しても通常は1秒もたたないうちに消えてしまうのです。
 しかし、当社の帯電微粒子水の技術では大量のOHラジカルが水に包まれ守られていることから、空気中に約10分間とどまって効果を発揮します。効果が長く続く点は、大きな強みのひとつです。
 また、菌やウイルスを無力化するために機器の中に一度空気を取り込む必要はなく、空気中に帯電微粒子水を大量に放出できるので、その分、高い抑制効果が期待できると考えています。

公共空間を“安心”できる場に

──空気をクリーンに保つテクノロジーへのニーズや関心が高まるなかで、帯電微粒子水技術は、どのような展開が考えられますか。
 実用化の面では、空気清浄機やエアコンなど家電への搭載からスタートしましたが、近年は自動車メーカーや鉄道会社に採用いただき、車内や車両内の空気をクリーンにすることに一役買っています。
 また、オフィスやホテルといったパブリックな場で導入いただくケースも増えています。
 家庭だけでなく不特定多数の人が集まる空間でも活用いただくことで、より多くの人が安心して過ごせる社会に貢献していきたい。今後は、その需要がより高まると考えています。
──20年以上にわたって「空気リスク」と向き合ってきたパナソニック。その戦いの原動力はどこにあるのですか。
 当社は100年以上にわたり、お客様の暮らしに寄り添い、家電を通して安全で便利な暮らしのお手伝いをしてきました。パナソニック アプライアンス社では、今「心と体の健やかさ」を届けることをミッションに掲げ、たゆまぬ商品開発を続けています。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、“安心して暮らせること”の大切さを改めて認識した方も多かったでしょう。当社の帯電微粒子水は、空気中の水というどこにでもあるリソースを活用して、安心して過ごせる毎日を提供できる技術だと自負しています。
 日本発の技術で世界の人々の健やかな暮らしに貢献していくために、今後も研究開発を重ねていきたいと思っています。
withコロナ時代の「空質」について考える本連載。次回は、パナソニック アプライアンス社品田正弘社長とDeNA平井孝幸氏による対談をお届けいたします。
※「ナノイー」は帯電微粒子水技術のひとつですが、ナノイー搭載製品の実使用による検証は行っていないため、搭載製品での効能、効果が実証されているわけではありません。