植竹知子

[シドニー 15日 ロイター] - 菅義偉官房長官が自民党新総裁に選出され次期首相に指名される見通しとなったが、海外投資家の間では冷静に受け止める声が多い。アベノミクス政策の継承表明は好感されているものの、安倍政権時代に進まなかった構造改革や成長戦略といった金融・財政政策以外の「第3の矢」をいかに実行できるかが、日本株への投資を決断する決め手になるとみられている。

<注目度高まる日本株>

予見可能性を重視する投資家にとって、現行政策の継続を掲げる菅氏への政権承継はポジティブな材料だ。

香港のCLSA証券の日本担当ストラテジスト、ニコラス・スミス氏は「自民党の支持率は第2次安倍政権の発足当時より高く、党内も一枚岩に近い状況。菅氏はアイデア力があり、その調整能力に定評がある一方、派閥のしがらみから自由だ」と次期政権を好意的に評価する。

折しもウォーレン・バフェット氏の米バークシャー・ハザウェイによる総額60億ドルの商社株投資が明らかになり、にわかに日本株の注目度が上がっている。

ドイツ銀行グループの資産運用会社、DWSのアジア太平洋地域最高投資責任者、ショーン・テイラー氏は、景気敏感株の買い増しに関心があると話す。

「本格的なシクリカルバリュー相場の到来は来年に入ってからとみているが、日本株は今後の世界景気の回復局面でその恩恵を受けるだろう。同盟パートナーである米国との関係、そして貿易パートナーの中国との関係をいかに両立させられるか、次期首相のかじ取りに注目している」という。

<まだ「アンダーウエート」の投資家が多い>

ただ、先月28日に安倍晋三首相が辞意を固めたと伝わって以降の日経平均株価<.N225>は、多少の上下はあったものの概ね横ばいで推移している。東証によると、海外投資家による日本の現物・先物合計の売買は8月第4週が1324億円の買い越し、9月第1週は2356億円の売り越しとなっている。

資産運用の世界最大手、米ブラックロック傘下のブラックロック・インベストメント・インスティテュート(BII)は、安倍首相の辞任表明後も日本株の投資判断は「中立」で維持。

BIIのアジア太平洋地域チーフ投資ストラテジスト、ベン・パウエル氏は「経済・財政政策は、ともに現行政策が引き継がれると予想する。今後の投資判断を決めるにあたっては、構造改革において新たに具体的なステップがとられるかに注目する」と述べている。

アベノミクスが始まった2013年には15兆円余りの日本株を買い越した外国人投資家だが、米ゴールドマン・サックス証券の建部和礼ストラテジストによると、グローバルファンドの日本株組み入れ比率は5月末時点でベンチマークの世界株指数(MSCI EAFE指数)を7.6%ポイント下回っており、依然として大幅アンダーウエートの状態だ。

<構造改革・ガバナンス改革の進展が鍵>

衆議院の解散総選挙で菅氏率いる自民党が勝利し安定政権期待が高まれば、それが日本株買いの一つの呼び水となるとの見方もある。

「現時点では、改革志向の人とされる菅氏の改革への期待感がある一方、政権の長期安定性については見方が定まっていない。もし暫定政権ではないとなれば、改革実行への期待感が一段高まる可能性はある」とゴールドマンの建部氏は指摘する。

ただ、単にアベノミクスを「スガノミクス」に衣替えしただけでは長期目線のグローバル投資家を本格的に動かすのは難しい。金融緩和・財政出動・成長戦略というアベノミクスの3本の矢のうち、安倍政権時代に進まなかったとの批判が多い成長戦略・構造改革をいかに実行するかが、菅新首相に対する国際的なマーケットからの評価につながる。

オランダのヘッジファンド、ペラルゴス・キャピタルのマイケル・クレッチマー最高投資責任者は、政権交代や政治スケジュールを手掛かりに投資はしていないとした上で、「菅氏が首相としてコーポレートガバナンス改革を本気で進める意志を見せるかどうかを注視している。改革の進展は日本株の大きな押し上げ要因になる」と話している。

(植竹知子 編集:伊賀大記、田中志保)