【徳谷智史】自己と組織を変える「変革コーチング」の極意

2020/9/16
問い掛けを通じて、相手の意見を引き出し、行動変化を促進する「コーチング」。その限界をいち早く感じ取り、全く新しいカタチのコーチングを提唱し始めた人物がいる。それがNewsPicks NewSchoolのプロジェクト「実践・変革コーチング」でリーダーを務める、エッグフォワード代表の徳谷智史氏だ。「変革コーチング」を通じて目指すのは、自己革新を伴うより大きな行動変化を促し、そのプロセスで自身のみならず組織・事業・世の中を変えることだと言う。徳谷氏に「変革コーチング」の極意を聞いた。(聞き手:佐々木紀彦)
【徳谷智史】自分と組織を変えるための「実践・変革コーチング」

「変革コーチング」とは何か?

佐々⽊ 今⽇のテーマは「変⾰コーチング」ですが、まず、コーチングが変⾰につながるという考え⽅は⼀般的なのですか?
徳⾕ コーチングを行動促進の枠にとどまらず、自己変革、さらに組織変革にまで繋げるという意味では、全く新しい概念と言ってよいと思います。
変⾰コーチングを説明する前に、まず、⼀般的なコーチングとティーチングの違いからお伝えします。
ティーチングが答え・やり⽅を教える⼿法であるのに対して、コーチングは問い掛けを通じて本⼈に⾃分の中から答えを導き出し実践してもらう、問題を本⼈主体で解決していくアプローチです。
徳谷 智史(とくや・さとし)/エッグフォワード代表取締役
組織人材開発のプロフェッショナル。大手戦略コンサル入社後、海外代表を経て、未だない価値を創り出し、人の可能性を最大化するべく、「世界唯一の人財開発企業」を目指し、エッグフォワード設立。総合商社、戦略コンサル、リクルートなどの大手から、ユーザベースグループを初めとしたスタートアップまで、数百社に至る変革コンサルティングを手掛ける。個の価値を最大化するキャリア支援サービスTURNINGPOINTを運営し、2万人を超えるビジネスパーソンの意思決定支援・キャリア支援を実施。NewsPicksキャリアゼミプロフェッサー。東洋経済オンライン連載、著書に「いま、決める力」(日本実業出版社)等
佐々⽊ では、変⾰コーチングとは?
徳⾕ より潜在的な、本⼈すらも気づいてないことを浮き彫りにし、⽬指すところを定め、そこに向けて⾏動変容を促します。さらには、変化を本人のみならず、組織全体にも波及させていくアプローチです。
いわゆる、一般的なコーチングアプローチだと、「⾃分ではどこまで進んでいると思いますか」「では何をしますか」というやりとりになります。
しかし変⾰コーチングだと、まずは「本当に⾃分が変わる必要があるのか」「本当にどこまで変えたいと思っているのか」といった本⼈の理想や現状認知を深く⾏います。
要は「変わる本気度」を深く設定する。
佐々⽊ なぜ、そのようなアプローチをするようになったのですか?
徳⾕ コーチングの限界、さらにはコンサルティングの限界も強く感じたためです。
私は、エッグフォワード創業前は、戦略コンサルティングファームに在籍していました。問題を構造整理して「この打ち⼿をやってください」とティーチングに近いことをします。
ただ、一般論として、コンサルファームの提案は、どんなに良い提案をしても実際には半分以上実⾏されないことが多い。経営者は、潜在的には変わりたくないことが多いからです。
そこで、自身の専門領域であった心理学を融合させ、コーチングアプローチを重ねるようにしたのです。本⼈がどうしたいかを問い掛けるので実⾏される確率は上がりました。
しかし、今度は、その際の解が必ずしもベストとは限らなかったのです。どうしても⾃分がやりやすいアクションに偏り、根本解決につながらないという事態が発⽣したのです。
そのため、エッグフォワードでは、コーチングとコンサルティングの概念を組みわせて、より⼤きな成果を出せないかと考えました。それが「変⾰コーチング」の始まりです。

コーチング×コンサルティング

佐々⽊ 変革コーチングの特徴をより具体的に教えてください。
徳⾕ まずは、本人や組織が「なぜ変わるのか、どこまで変わるのか」を対話アプローチを通じて、具体化していく。結局、人も組織も本気で変わろうと思っていない限りどれだけ有益な施策を提供しても実行に移されないんです。
ここに最も時間をかけますし、経営層ですと、「目指す未来に初めてここまで向き合った」といわれるケースも多いです。
佐々⽊ コーチングと変⾰コーチングで他に違いはありますか?
徳⾕ 後工程の伴⾛⽀援の仕⽅です。
コーチングだと答えは⾔わずに、「あなたはどうしたら良いと思いますか」「何からやりますか」「では、それをやってみてください」となります。
しかし、ここに限界があります。あまたのスタートアップ経営者の支援を行っていても、⾃分の中で答えが出せない「そもそもどうしたら良いのか」「ここはプロに相談したい」「客観的な意⾒が欲しい」といったケースが非常に多い。
そこで、今度はコンサルティングアプローチを組み合わせる。対話を通じて、本人や組織の課題を構造化していきます。
悩みの背景には様々な事象があり、まずは、絡まり合った課題を整理し、本質的な課題を共に解き明かしていくのです。
その上で、「もっとこうした⽅が良いのではないか」というところまで伴⾛する。
結果的に、個⼈の⾏動のみならず事業・組織にまで本質的な変⾰を起こすことができるようになるのです。

「潜在的なWILL」を引き出す3つの手法

佐々⽊ 下図の「変革コーチング」のステップでは、まず「潜在的なWILL・価値観と目指したいゴールを浮き彫りにすること」がステップ1になっていますが、個人の「潜在的な WILL」はどのように引き出すのですか?
資料提供:エッグフォワード株式会社
徳⾕ そもそも⾃分が⽬指したいもの・ゴールがクリアになっている⼈はあまりいません。「果たして何がしたいのか」「どこを⽬指したいのか」は⾃分だけでは出てこないものです。
ケースバイケースですが、我々は、例えば⼤きく3つの⾓度から質問をしていきます。
1つめは本⼈の原体験や過去をさかのぼる⼿法、2つめは未来を具体化する⼿法、3つめはゴールを仮置きする⼿法です。
まず「原体験を探る手法」について言うと、過去を問い掛け、本⼈のキーとなる原体験を探すと、幼少期の体験だったり仕事での体験だったり、何かしら⾔語化されていきます。
経営者はこの原体験に何か強烈な、場合によってはコンプレックスや悩みがあるケースが多いです。それがあるから、こうありたい、こういう会社にしたいと感じるわけです。
佐々⽊ 過去の様々な体験から重要な原体験かそうでないかを区別するにはどうするのですか?
徳⾕ ⾃分の中で「原体験は何か」と⾔われても、答えられないケースがほとんどです。
いったんは洗い出してみて、その上で良くも悪くもいろんなターニングポイントを抽出し、それぞれが今の⾃分にとってどういった意味があるのかを考えていきます。
佐々⽊ ターニングポイントになるのは、いわゆる挫折とか死の恐怖とか、感情が⼤きく動いた経験なのですか?
徳⾕ そのとおりです。ただ、同じ出来事でも⼈によって捉え⽅が違います。
だから、結局「その事実がどうだったか」というよりは、それを「どう位置付けているか」という、意味付けが影響を及ぼします。
そしてその位置付けを決定しているのが感情です。つまり、何かしら感情が揺れ動いた出来事がその人にとっての原体験になっている場合が多いのです。
佐々⽊ 「潜在的な WILL」を引き出す2つめの問い掛けは?
徳⾕ 先ほどとは逆で、未来を問い掛けます。何となく充実したい、幸せになりたいという⽅の願望を深掘りし、望む未来を具体化します。
多くの場合、望む未来の要素は抽象的です。
なぜ、目指すのか?具体的には?優先度は?を共に言語化していく。
意外かもしれませんが、経営者は孤独であり、社内にはビジョンを発信していても、私が本音で話すと目指す未来があいまいになっているケースが非常に多いんですね。
個人の場合は「ロールモデルはどういう⼈か」とか「A パターンと B パターン数年後の理想はどちらか」「それはなぜか」といった選択肢を出していく質問も有効です。
佐々⽊ では3つめは?
徳⾕ 逆説的なのですが、答えを決めきらない。仮で置いて動いてみるというケースです。
仮置きでもゴールを設定して動いてみると新たな発⾒があります。それを踏まえて「どういうことやっていくか」を徐々に明確化していきます。
佐々⽊ 仮置きでも⾏動を変えていくと、⾃分がやりたいことだったかが分かり、 2つめの未来の⾃分のイメージにつながっていきそうですね。
徳⾕ そうです。やってみないと分からないことって多い。やってみたら別のことが⾒えるものなので、仮置きでもやってみようと。
家の中で考えているだけでは絶対に⽬指す未来は⾒えてこないですから。

コンフォートゾーンを抜け出す極意

佐々⽊ まずやってみるというお話がありましたが、これはコンフォートゾーンを出て新しいことに挑戦するということですか?
徳⾕ はい。私の座右の銘で“Life begins at the end of your comfort zone”という⾔葉があります。⼈⽣はコンフォートゾーンを抜けた瞬間に始まる、という意味です。
コンフォートゾーンの中にいる限り楽です。しかし⽬指すゴールに達することはできません。
結局、コンフォートゾーンを抜けるには、「何をするか」や「どうやるか」、いわゆる What や How ではなく、「なぜ実現したいのか」、つまり Why に強く本⼈が腹落ちする必要があります。
佐々⽊ コンフォートゾーンを抜けてまでチャレンジするには強い動機が必要ということですね。
徳⾕ その通りです。だからこそ、最初の「変わる本気度」が重要になる。
とはいえ、コンフォートゾーンは急には抜けられませんので、まず⼀歩だけ抜けてみる。そうするとその先が広がっていきます。
だから⼩さい⼀歩を繰り返すことが重要です。これは、組織・事業変革においてもまったく同じで、いきなり大きな変容を起こすのではなく、小さい変化が起点になるのです。
佐々⽊ ちなみにコンフォートゾーンを抜けたのか、まだもがいているのか、判別する⽅法はあるのですか?
徳⾕ 抜けたかどうかの判断基準をお伝えすると、自身や自組織が何カ月前・何年前と⽐べて変わっているか、中⻑期で振り返ることです。
「半年前と同じようなことを⾔っている」とか「同じような課題がある」と感じる場合は抜けていない。
とはいえ、コンフォートゾーンを抜けると⾃分の守備範囲が広がっていきます。だから前提として抜けたら終わりではなく、常に抜け続けようとすることが⼤事です。
佐々⽊ 抜けたかどうかも対話する中で⾃覚できるわけですよね?
徳⾕ 仰る通りです。やはり⾃分だけで全部⾔語化するのは難しく、質問されて分かることが多いです。
例えば、順に「あなたは今 100 点満点中、何点か」「⾔われてみると 60 点」「ではその不⾜分を順に洗い出してみよう」と、このように問われない限り⼈はそこまで考えられません。対話を通して⾃⼰を認知していくのです。

人間は自分で変われない

佐々⽊ ちなみにコンフォートゾーンを抜けた後、どのように実際の「成果」につなげていくのですか?
徳⾕ コンフォートゾーンの先のフィアーゾーン・ラーニングゾーンを越え、グロースゾーンに進むことです。
コンフォートゾーンを抜けた先には、最初は恐れがあります。恐れを越えると人は学び、そこから成長し、成果が生まれます。
「コンフォートゾーンを抜けるために学びたい」という方もいますが、結局、⾃分は果たして何のためにこれを学びたいのかという学ぶ⽬的を仮でも良いので決めなければなりません。
そうしないとラーニングゾーンがゴールと現状の差異を埋めるためのものにならないのです。
資料提供:エッグフォワード株式会社
佐々⽊ 無⽬的な学びではなく、ゴールに向けた学びが⼤事ということですね。ちなみに、学ぶという観点では、他に必要なことはありますか?
徳⾕ アウトプットすることに尽きます。新規事業開発などと全く同じで、粗くても良いからアウトプットして磨いていかなければばなりません。
そしてアウトプットに必要なことをインプットで学ぶ、これが学び⽅の⼤切なポイントです。
佐々⽊ ゴールのための学び、アウトプットのためのインプット、ということですね。そういう意味でも学び始める前にゴールを決めるコーチングが必要ですね。
徳⾕ その通りです。ぼんやりとゴールがある⽅は多いですが、そのゴールも⼆転三転するわけです。
それを置き直し続けるために変⾰コーチングを求める⽅がたくさんいらっしゃいます。
佐々⽊ ちなみに、「学び」をそこから「創る」「稼ぐ」につなげていくポイントはあるのでしょうか?
徳⾕ アンラーニングも重要ですね。要は成功体験を捨てるということ。
新しいものを創るのであれば今までのやり⽅に固執せず、アンラーニングの上でアウトプットしていく。そうすればアウトプットが新しい何かを「創る」ことにつながっていきます。
「稼ぐ」上ではアウトプットはユーザーになり得る⼈に対して⾏うことが⼤切です。
結局「稼ぐ」ためには仕組みとして回していかなければなりません。
そのために「何が評価されたのか」「再現性を⾼めるにはどうすればいいか」「評価が悪かったものは何か」「どのように改善するか」これらを知るためにも将来お⾦を払う可能性のある方にアウトプットすべきですね。
佐々⽊ 最後に、コロナショックにより社会が大きく変わる今だからこそ変革コーチングの必要性は高まると思います。それを踏まえてメッセージを頂けますか?
徳⾕ これからの時代は⾃分も企業も組織も変わらないといけません。
しかし、自身で変われる⼈はごく⼀部です。⼈間の構造的に難しいからです。
ただ、「⾃ら変わる」ことはできなくても、まず⼀歩⽬として、自ら「変わる機会を創る」ことはできます。
⼈と寄り添いながら変⾰を起こしていくことができるようになれば、他者にも、組織にも必ず良い影響を及ぼすことができます。
それが、皆さんのこれからの人生や組織の未来の起点になるはずです。
ぜひ皆さんも、この機会に変⾰コーチングを体感してみてください。
(構成:菊谷邦紘、撮影:鈴木大喜、デザイン:九喜洋介)
徳谷氏がリーダーを務める「実践・変革コーチング」は10月14日(水)から開始します。詳細はこちらをご覧ください。