2020/9/15

【教養】あなたに、大坂なおみの「本当の声」は届いているか?

黒田 俊
SportsPicks編集長
Tamir Rice(タミル・ライス)は、2014年11月にアメリカ・オハイオ州で警官に撃たれた黒人少年だ。
模造銃を所持していた14歳のタミルは翌日、命を落とした。
彼の名を改めて世界に知らしめたのが、大坂なおみの「マスク」である。
全米オープンを戦っていた大坂は、この数カ月で立て続けに起きている警官による黒人差別(ジョージ・フロイド事件、さらにはウィスコンシン州での発砲事件)への抗議として、過去にもあった「警官から人種差別による暴力を受けた事件」の犠牲者たちの名前入りマスクをつけて登場し続けた。
7枚のマスクでは数が足りないということを、とても悲しく思います。なんとか決勝まで勝ち残り、すべてのマスクをお見せしたいです

──大坂なおみ、2020年8月31日全米オープンにて
決勝までの最大7試合では到底伝わりきらない事実があることを訴えた大坂は、果たして優勝を遂げ、7人の名前を示した。
抗議したアスリートは大坂だけではない。
NBA(北米男子プロバスケットボールリーグ)では選手がプレーオフをボイコットし、MLB(米メジャーリーグ)は7試合が延期。開幕を控えていたNHL(北米ナショナルホッケーリーグ)も多くのチームが練習を中止した。
人種差別は、スポーツ界においても長い歴史がある。
「レベル・プレーイング・フィールド(公正な競争条件)」という言葉が示すように、記録という客観的なもので測られるスポーツには、差別のない公正な場だというイメージもある。
こうしたイメージは、ときに公正な社会へのアイコンとして、ときに国威発揚の舞台として、利用されてきた。スポーツ界に内在する「差別」を抱えながら、である。
いま、知っておくべきスポーツ界の「差別問題」の実態を、早稲田大学スポーツ科学部教授・川島浩平氏に聞く。

スポーツ界で「反差別」の3つの象徴

人種差別をめぐるさまざまな運動のなかで、スポーツは社会に先行する形で行動を起こしてきたと言える。
1619年の「奴隷輸入」以来、19世紀中盤におけるリンカーン大統領の登場、南北戦争と奴隷解放宣言。
さまざまなターニングポイントがあったが、近代においてもっとも重要なもののひとつが、「公民権運動」のピークとされるワシントン大行進とキング牧師の演説だろう。
リンカーン大統領暗殺から約100年後、1963年のことだ。
1:ジャッキー・ロビンソン
それより16年前、アメリカプロ野球リーグ・MLBにひとりの男が現れた。その名を「ジャッキー・ロビンソン」と言う。