2020/9/11

【DX】弁護士ドットコムの「リスクテイク」がすごい

池田 光史
NewsPicks 編集長
2005年、法律ポータルサイトを運営する会社として始まった弁護士ドットコム。
ハンコの商慣習に疑問を抱き、オンラインで契約書にサインできるサービス「クラウドサイン」を彼らがリリースしたのは、創業から10年後、2015年のことだった。
驚いたことに、彼らは弁護士集団にもかかわらず、電子署名法上の「電子署名」とは認められないサービスを投入して、市場に問うた。
法的な壁はあっても、これが最も支持を得られるはずだ──。
2020年6月、内閣府、法務省、経済産業省は、このクラウドサイン型の電子署名を、法的に認める見解を発表した。2001年の電子署名法施行以来、19年ぶりの解釈変更だった。そしていまや、トヨタもメルカリも野村證券もが頼るサービスだ。
彼らは正しくリスクを取り、賭けに勝った。
いや、法律のプロ集団にとってこれは賭けなどではなく、初めから見据えていた未来だったのかもしれない。
今、彼らは何を思うのか。そして、ハンコの未来は。

5年前の「決断」

──2015年、「電子署名法」上は認められない電子契約サービスを生み出しました。なぜ立ち上げたのですか?
 われわれはもともと、創業者も弁護士ですし、私自身も弁護士です。
かつては顧客企業の契約内容について、交渉を担当していた立場。そのときの問題意識がきっかけでした。
1カ月の契約交渉を終えると、顧客は契約を締結して事業をスタートできるかというと、そうではなかった。
ハンコ社会の日本では、そこから「1カ月以上」の契約プロセスが始まるんです。
つまり、契約交渉よりも、その後の契約締結に時間がかかっている状況があった。私も当事者としてペインを感じていましたし、これは日本が絶対に解決すべき社会課題だ、と強く思った。
世界はサイン文化で、サインするだけで契約締結できる。ハンコ文化が残っているのは、日本と台湾くらいですから。
【完全解説】日本人を縛るハンコのすべて
──日本のハンコ文化は、もともと中国から西暦57年に「金印」(漢倭奴国王印)を送られたのが始まり、とされていますね。
ええ。ところがその中国は、とうに電子契約大国になっている。先進国では日本は唯一といっていいほど、電子契約が進んでいない。
それもそのはずで、19年前に制定された「電子署名法」に基づく電子契約は、使い勝手の悪いものでした。