[パリ/ニューヨーク 9日 ロイター] - 高級ブランド世界最大手LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン<LVMH.PA>は9日、米宝飾品大手ティファニー<TIF.N>を160億ドルで買収する計画を断念すると発表した。

米国による追加関税発動に向けた動きを理由にフランス政府から買収延期を求められたとした。これに対しティファニーは、合意通り買収を完了するよう求めてLVMHを提訴した。

LVMHは声明で、米国が仏製品に追加関税を課すと警告していることを踏まえて2021年1月6日以降に買収を先送りするよう求める書簡を仏外務省から受け取ったと説明。これにより、契約上の期限である11月24日までに買収を完了することができなくなったと主張した。

ルドリアン仏外相はLVMHのベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)への8月31日付の書簡で、「国益を守るためのわが国の取り組みに参加する必要性を理解してもらえると確信している」と記している。

ギオニー最高財務責任者(CFO)は9日、記者団との電話会見で「買収は不可能だ。われわれは買収完了を禁じられている」と断言。ルドリアン仏外相と会談したことを明かした上で、LVMHは仏政府の要請に従わなければならないが、買収完了期限を11月24日以降に先送りすることを望んでおらず、結果的に買収を断念せざるを得ないとした。

ブルームバーグは匿名関係筋の話として、アルノー氏が買収を撤回するため仏政府に協力を求めたと報じた。だがギオニー氏は、書簡は一方的に送られてきたもので、LVMHは全く予想していなかったと述べた。

仏外務省の報道官は記者団に対し、ルドリアン外相がLVMHのティファニー買収にかかる問題の詳細に取り組むと指摘。仏政府は提携国との国際交渉において「言いなり」にならないとした。

仏政府関係筋は書簡について、フランスが関税を巡り米国と論争する中で買収を行うことのリスクについて注意喚起する狙いだったとした上で、あくまで忠告であり、拘束力はないと述べた。ホワイトハウスは仏政府の介入についてコメントを控えた。

アナリストらは、フランスが米国との貿易摩擦でLVMHのティファニー買収をてこにしようとしたとの見方には懐疑的だ。

バースタインのアナリスト、ルカ・ソルカ氏は「仏政府は確かに国益保護非常に積極的だが、仏企業の買収阻止という形が大半のケースだった」と指摘した。

ティファニーは5─7月期の世界売上高が29%落ち込むなど、新型コロナウイルスの感染拡大が業績に影響しており、買収価格に割高感も出ている。

関係筋は6月にロイターに対し、LNMHのアルノー氏が新型コロナなどを理由に買収価格の再交渉を検討していると明かし、実現に不透明感が生じていた。

LNMHの発表に対し、ティファニーは、LVMHが契約上の義務を順守し、合意された条件で買収を完了することを求め、米デラウェア州の裁判所に同社を提訴した。合意を履行しない場合は損害賠償を求めている。

ティファニーは、LVMHが欧州連合(EU)、台湾、日本で規制当局の承認申請をしぶっていると主張した。また、ティファニーの状況が大幅に悪化した、もしくは買収合意に違反したという主張や、買収が仏企業としての愛国義務に合致しないという理由で買収を撤回するのは不当だとした。

9日の米国株式市場でティファニーは6.4%下落し、113.96のドルで終了。1株当たり135ドルの買収価格を大きく下回った。

*仏政府の書簡の内容やアナリストコメントなどを追加しました