【古都で学ぶ】異分野の3人が見て触って知る、食材選びの極意

2020/10/3
「食材」と「器」、そして「技」が織りなす京料理。そこにはプロフェッショナルたちのセンスや感性、知識が息づく。異分野で活躍する3人が、京料理「木乃婦」髙橋拓児氏と京料理を仕立てる全3回。第1回は、「食材」の目利きを学ぶ。

【案内人】髙橋拓児(京料理「木乃婦」3代目)
【出席者】石川善樹(予防医学研究者)、佐渡島庸平(コルク代表)、宮田裕章(慶応義塾大学教授)
食材選びの極意を語るのは、京料理「木乃婦」3代目の髙橋拓児氏。フランス料理や分子化学の理論など最新の技法を取り入れた新しいスタイルの日本料理を追求している。NHK「きょうの料理」講師。京都大学大学院農学研究修士課程修了。
触れるとわかる、魚介の選び方
出演者3人が訪れたのは、その日の朝に仕入れた魚介がずらっと並ぶ、京都市中央卸売市場の木乃婦。3代目・髙橋氏の案内を受け、新鮮な食材を選ぶ。
髙橋 並んでいるのはすべて今朝、京都市中央卸売市場で仕入れた魚です。
 赤い魚は大分の甘鯛。魚全般そうなんですが、背方を見た時に分厚いものがおいしいんですが、甘鯛は頭が小さく、艶があって、エラがキレイなのがいいですね。甘鯛は安いものでは1キロ2500円からありますが、ちなみに今日のは1万2千円くらいです。
一同 値段の差がすごいですね。
髙橋 (スズキの背方を触りながら)これもすごく肥えてていいですね。(魚を揺らしながら)スズキは柔らかいものの方が脂があっておいしいんです。
佐渡島 揺れ方がすごい。
髙橋 これがいいんです。背方が硬いものは脂がないんです。触ってみはりますか。
佐渡島 (スズキの背方を触りながら)相当、柔らかい。
髙橋 ちょっと女性的ですよね。魚って結構、エロティシズムなんですよ。僕らは魚を選ぶ時、絶対に触りますね。
今日のは明石のスズキですが、かなり肥えていますし、いいですね。スズキは唇を焼いてもおいしいですよ。
石川 唇ですか。ゼラチンぽいのかな?食べてみたいですね。
髙橋 こちらは淡路島の穴子です。顔は左側にして並べ、(穴子を親指、人差し指、中指の3本指でつかみ)こうやって指で身の肥え具合と骨をみるんです。
宮田 骨はどういう感じがいいんですか?
髙橋 細いほうがいいですね。骨細でしなやかな感じがいいです。
佐渡島 穴子を選ぶ時は骨細がいいという知識はどなたかに教えてもらったんですか。
髙橋 祖父に教えてもらいました。うちの店はもともと魚屋から始まったこともあり、魚を目利きできることが料理屋の原点やと言われて育ちました。魚屋から仕出し屋、料理屋になりましたが、いつでも魚屋に戻れるように。
 今、店の者は70人ほどいますが、これが私と妻の2人になっても仕事ができるようにしておきたいと思っています。だいたいの魚は見た瞬間に良し悪しがわかりますね。
宮田 調理した時の感じも頭で再現できるんですか?
髙橋 過去の経験、データもありますし、イメージがつきます。
佐渡島 中央卸売市場の中でもいい魚を仕入れるルートを持っているんですか。
髙橋 そうですね。10軒以上あります。目利きできる腕がついてくると、自分で値段を決めて、こちらから言うことができます。
一同 なるほど。
髙橋 これは天草の天然の車海老です。背方を見て、色がはっきりしてる方がいいものを食べています。赤が濃く、きれいなのは甘いですよ。
髙橋 鮑だったら・・・(大きく、身の縁が立ち上がっているものを指さし)、そらまあ、これが一番おいしいですわ。間違いなく。
 大きさや色じゃなく、ここの立ち上がりが高いものがいいんです。立ち上がりが高い方がうま味が強いんです。そして持った時の重さやほどよい硬さも大切。持ってみてください。
佐渡島 (大きさの似た鮑を持ち比べして)全然違う。そして、結構硬い。
宮田 鮑ってこれほど個体差があるんですね。
髙橋 同じように調理しても全く味が違いますね。
宮田 ここに並んでいるものは髙橋さんが選りすぐったものですよね。それでこれだけ差があるなんて。
髙橋 市場に並んでいるのはもっとピンキリです。鯛もあるんですが、今日のはあまり大きくないです。姿形はきれいなんですが。すーっと長いし、四国寄りの鯛ですね。これ、淡路島のやと丸く短くなるんです。
佐渡島 鯛の形を見ただけでどこのものかわかるんですね。
髙橋 はい、わかります。これは愛媛産の雄です。鯛を選ぶ時はエラと腹を見るといいですよ。あとは、活かってるかどうかを確かめるために、弾いてみます。
 鯛を左頭に置いたとき、上になる側は上身、下になる側は下身といいますが、上身の方がストレスがかかってないので、いい身なんです。
 なので、カウンターの店でお造りを出される際、上身を出しているか下身を出しているかでお客さんのプライオリティーがわかってしまうんです。
宮田 上客とみられてないか、あるいは魚をよくわかってないと思われているかですね。
髙橋 泳いでる時は均等の圧がかかっていますが、寝かせたら、下身に重みがかかってしまいますし、上と下で味がかわってきます。
宮田 上身と下身を区別することは、それをどう料理し、展開していくか考えるために、大切なことなんですね。
髙橋 これは淡路島産の鱧です。全部、同じ港の同じ漁師さんがとったもので、今日は80本、仕入れています。鱧は頭が小さいものを選びます。厳密に言うと、身が肥えているため、頭が小さく見えるものです。
 鱧も穴子と同じように、親指、人差し指、中指の3本指でつかんで触ります。女性の二の腕みたいな柔らかさのものが一番おいしいですね。みなさんも触ってみてください。
佐渡島 髙橋さんが先ほど言っていたエロティシズムを感じます。
石川 骨切りした後の鱧しか触れたことがなかったです。
宮田 この鱧の触感を踏まえた上で、食べて確認することも楽しみです。
髙橋 イカは身が分厚ければ分厚いほどうま味があるんですが、この剣先イカは分厚いし、おいしいですよ。
佐渡島 ではそのイカもお願いします。
宮田 鮑の個体差を確かめるためにも食べ比べてもいいですね。
石川 スズキの唇、甘鯛も気になりますね。
【選んだ食材】鮑・スズキ・イカ・甘鯛・鱧
「#2 目利き力 器編 梶古美術」に続きます。
■髙橋拓児(たかはし・たくじ)木乃婦3代目主人。「東京吉兆」で修業後、「木乃婦」の3代目主人に。フランス料理や分子化学の理論など最新の技法を取り入れた新しいスタイルの日本料理を追求。シニアソムリエ。NHK「きょうの料理」講師。京都大学大学院農学研究修士課程修了。

■京料理 木乃婦
http://www.kinobu.co.jp/
■京都中央卸売市場
http://www.kyoto-ichiba.jp/
(構成:天野準子 写真:塙新平)