多様なライフスタイルを「共創する」コミュニティーを作ろう

2020/9/15
コロナ禍で祇園祭も姿を変えた夏の京都。宗教、医学など異分野の5人が、伝統産業の現在とこれから、文化を未来につなぐ次世代のコミュニティーの在り方を探った。

【出席者】藤井浩一(藤井絞4代目)、松山大耕(退蔵院副住職)、石川善樹(予防医学研究者)、佐渡島庸平(コルク代表)、宮田裕章(慶応義塾大学教授)
【聞き手】THE KYOTO 編集長・各務亮
着物は、人々の生き方を解放できるのか
既存の文化に飽きる
──文化で遊ぶことが憧れになるということは叶うでしょうか。
石川 基本的に人間は、何かに「はまる」際、いま自分を委ねている既存の文化に飽き飽きしているのではないでしょうか。私の場合、在宅勤務で好きなコーヒーを飲みすぎて気分が悪くなり、現在では少し控えめにして、代わりに煎茶に傾倒しています。飲み始めると、その奥深さが分かりますね。なぜハマったかを自分なりに分析すると、煎茶という「概念」、「道具」、そして「作法」。この三位一体の魅力にのめり込んでしまったようです。
そうなると次は、お茶で誰かをもてなしたくなるんですね。すると、どんな格好でもてなしたらいいかを考えます。それを悩んでいましたが、今日、本物の着物に出会ったわけです(笑)。
佐渡島 着物は「役立つ」っていう概念から作られているものかもしれません。もしそうであれば、その概念だけで戦うことは現代では難しいですよね。より役立つものが出てきたら負けるわけですから。だからこそ、現代における着物の新たな概念を作らないといけません。
石川 そうですね。千利休もただお茶を飲む行為を、「道具と作法」や「一期一会」など、難しい概念を分かりやすくしたんですよね。
佐渡島 私は瞑想(めいそう)にはまっているんですが、プログラム的に誰もがはまるものではないんですよね。私がはまったのはたまたまで、基本多くの方ははまらない。多数の支持を得ようとした場合、いきなり成功体験を味あわせないといけないのに、それを味わえるプログラムになっていないんです。
「知る人ぞ知る」のように、その魅力にはまった人だけが分かる手順になっていて、伝播しやすい教育システムになっていない。だから広がらないんです。
文化への「道」
──誰もが理解し得る方法、好きになった人のそのアプローチ方法などをうまく発信していくことが必要ということですね。
宮田 服の場合はつまるところ、着た人の「気分が上がるかどうか」です。その感覚は十人十色なので、多様な引き出しが求められます。着物も一部のニッチな市場を目指すのではなく、人が生きていく上での接点を多く作ってその魅力をみせていくことが重要です。着物が伝統美に寄り過ぎているのがもったいないように、あらゆる伝統的な業界についてこの課題は言えることです。
松山 そうですね。禅に傾倒する人でも最初から興味があったという人はいません。多くの方が、弓道、茶道、合気道など「道」から来るんです。それらを極めていったら「禅」にたどり着く。そういうチャネルを増やすということですよね。
石川 出口は着物だとしても、入口はどこからでもいいということですね。
宮田 そうですね。入口はお茶でも、日本料理でも。仮に作務衣であってもそれになじんでいけば、着物という選択肢が自然とすてきなものになるはずですから。
佐渡島 いま着物の市場規模はどのくらいですか。
藤井 年間2600億くらいで、その8~9割方が女性ですね。
佐渡島 そうすると、男性の消費者は、1万人いるかいないかでしょう。ゴルフ場もそうですが、60~70代中心で、なかなか30~40代が行きづらい。平均寿命が延びていくなかで、「常連がいなくならない問題」というのがありますね。
現在でも、着物を着てくることが参加条件の会などがありますが、例えば京都であれば料亭さんを貸し切りにして、文化体験と着物をセットにした若年層の社交場を作るなどは可能性がありそうです。
まずは100人程度のコミュニティーをつくり、全てを開放するのではなく緩やかにオープンにしていくことで、「文化的な話に入りたい」と思わせる仕掛けにすれば、徐々にでも広がっていくはずです。
金銭とは違った貢献の尺度
宮田 そうですね。私は、大阪最後の一等地と言われる「うめきた2期」の事業アドバイザーで、目下、ハイエンドの新しい文化ゾーンを創ろうとしています。これまでの「ロイヤルカスタマー」というカテゴリーは、多くの場合お金でランク付けされてきました。
つまるところ文化に貢献するかどうかは考えてこなかったのです。単にたくさんお金を使ってくれた方に特別な体験を提供するという形のみで運営されるコミュニティーは時に、文化を衰退させます。パリで顕著になっている観光公害は、まさにこうした弊害から生まれたものです。目指すのは、多元的な価値観の中で、文化への貢献をデータで共有しながら多様なライフスタイルを「共創する」コミュニティーです。
例えば、サッカーを子どもたちに教えるという文化貢献をしている人は、プロサッカークラブと連携したコミュニティーに入れるようにします。
今まで金銭に還元されづらく評価されなかった貢献を可視化することで、スポーツ文化のさらなる発展につなげることができるかもしれません。他方で芸術文化に造詣が深い人たちへの貢献を評価することで、企画展の意思決定に参加する権利を得る、鎌倉やバルセロナなどの他地域の特別な場所に入れるようなネットワークをつくるということも一つのアプローチです。
これまでは経済合理性のみが重視されるなかで、金銭に還元される価値にさまざまな文化が翻弄されてきました。
そうした中であっても、京都の旦那衆は文化貢献の中で、経済も回してきたという点からも重要な存在です。多様で深い文化に加え、そうした素晴らしいネットワークがある京都は、次の世界の可能性を拓く、最大の可能性を持つ地域の一つであることは間違いありません。
──ありがとうございました。「見えない価値」をどう継承していくか、そして、それを支えるためのコミュニティーのあり方について、社会の変容の兆しにも言及いただき、示唆に富むお話をいただいたと思います。
着物にしても祇園祭のような神事、行事についても、一元的な価値を考えるのではなく、個々人の位置づけが違うことを包含した多元的価値に目を向けることが肝要ですね。入口を多くすれば、きっと価値は伝わる、伝われば自然と人は集まる。物理的距離に左右されない社会に移行するなか、今後の文化コミュニティーの萌芽をみたような気がいたします。
(構成:佐藤寛之、写真:塙新平)
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