2020/9/8

パンケーキにスガる先──自民党総裁選と男性としての菅義偉

鈴木 涼美
作家
鈴木涼美(すずき・すずみ)作家
1983年東京都生まれ。父は舞踊評論家・翻訳家の鈴木晶、母は児童文学者の灰島かり。10歳〜12歳まで英国で過ごす。慶應義塾大学環境情報学部入学、横浜・新宿でキャバクラ嬢として働き出し20歳でAVデビュー。東京大学大学院学際情報学府での修士論文は後に『AV女優の社会学』として書籍化。大学院修了後、2009年日本経済新聞社入社。都庁記者クラブ、総務省記者クラブなどで地方行政取材を担当。2014年秋退社、現職。
スマートよりスウィート。
どこかキュートでスウィートな雰囲気が、無害で無垢な印象を作り、次々に浮かび上がってくる疑惑にも功績の貧困さにも甘めの味付けをしてしまう。
伝統的な自民党総裁の一つの類系であり、安倍政権が長期に渡って比較的高い支持率を維持してきた秘訣でもあるそれが、継承されそうな気がしているのである。
憲政史上最長の在任日数となった途端に満足したかのような現首相の辞任表明を受け、自民党は今回の総裁選において、通常通り全国一律の党員投票はせずに、国会議員394票に加え、各都道府県連がそれぞれ3票のみ投じる仕組みにすると発表した。
地方と中央の意向のねじれは、野田政権下で行われた石破・安倍攻防が象徴的で、つまりは今回、安倍路線継承の印象が強い菅官房長官が本命視されている。
新型コロナウイルス報道を縫うように、ポスト安倍の行方が囁かれていた折、「考えたこともない」「おべっかです」と一貫して出馬に謙虚な姿勢を保っていた菅氏ではある。
ただ、「パンケーキを食べている時が一番幸せ」などと原宿の女子高生みたいなコメントを強調していたあたり、次期総裁への布石だったようにも私には見える。再び私たちはこの自民党スウィートモードによって、混乱以外に特に何も齎さなかった直近のGoToキャンペーンなどを水に流すのだろうか。