世界中でロックダウンがなされ外出の制限がかかったことで、大勢の人のリモートワークが可能だということが証明された。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がアジア、ヨーロッパや南北アメリカを襲うと、証券取引所は全面的に電子取引に切り替えられ、銀行家たちは自宅のベッドルームで仕事をするようになった。
多国籍の法律事務所はオフィスを閉鎖し、共同作業や「対面での作業」の上に成り立っていたビジネスは、「対面」の場をビデオ会議ソフトに移行させた。
新たに普及したリモートワークは、多くの労働者が既に表明してきた願望と一致している。
オフィスは都市の中心部にあることが多いため、リモートワークになったことで人々は長い通勤時間をかけずに済むようになり、オフィスに拘束される時間を減らすことができるようになった。
だが事態が落ち着き始めたところで、多くの人からオフィスを懐かしむ声が上がっているのも事実だ。
私たちが懐かしく思うものの多くは、偶然始まる会話やジョーク、共通の不満や一緒のランチなど形のないものだ。
それを集合的に「企業文化」と呼ぶこともある。従業員の企業での体験、企業が自身を表現する方法のどちらでも、あるいはその両方が組み合わさったものを表す不定形の言葉だ。
企業文化は、私たちが自分の仕事についてどう感じるかに最も大きな影響をもたらすものの一つであることは間違いない。そして私たちが知っているその文化は、いま大きな変化の時を迎えている。

「ちょっとしたやりとり」で文化が生まれる?

米生命保険会社プルデンシャル・ファイナンシャルでは、従業員2万2000人のほとんどが3月前半までにリモートワークに切り替わった。
ロブ・ファルゾン副会長は「私たちが長期にわたって完全にリモートで仕事をしている間に、(企業)文化が崩れていくのではと懸念している」と語る。
「リモートワークの割合を増やすことには大賛成だが、十分な準備ができないままオフィスを離れるのはリスクであり、健康や経済が危機にさらされている中でのリモートワークは明らかにストレス要因になる」
同社では従業員がストレスの問題に対処するのを支援するために、カウンセリングなどの福利厚生を拡充させ、マネージャーや医療の専門家にアクセスしやすい環境を整えたという。
だが人々の健康で幸せな生活を維持するための取り組みは、大きな全体図の中の小さな要素にすぎないとファルゾンは考えている。
「職場で一緒にいることの利点は、同僚との関係を育んだり、非公式なやり取りがあったりするところにあり、それが企業文化を築き、強化していくのだ」
パンデミックの発生以降、時間外労働の多くは「とにかくコミュニケーション」に費やしているという。
同社ではさらに、マネージャーたちの能力を引き上げステップアップさせるために週に一度CEOが話す動画を公開したり、これまではオフィスの廊下で顔を合わせた時にできたような「ちょっとした会話」の代わりに、予め日時を決めて30分のビデオコールを行っている。

労働文化は今どうなっているのか

各企業が従業員の労働体験を管理するのを支援するツールを提供している企業、クアルトリクス(Qualtrics)では7月、世界の従業員たちによる企業文化の体験がパンデミック以降、どのように変わったかについて調査を実施した。
ファルゾンらが企業文化の衰退について懸念していたことを考えると驚きだが、「パンデミックの発生以降、職場の文化が改善されたと感じている」と回答した人が全体の37%にのぼり、「悪化したと感じている」と回答した人は15%にとどまった。
また「会社とのつながりが強くなったと感じている」と回答した人が半数近くにのぼり、そうは思わないという人は18%だった。アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北米とオセアニアの有給の従業員2100人以上が調査に回答した。
もちろん、今は新たな、リモートに重点を置いた職場が始まったばかりの時期だ。私たちの働き方がまだ流動的であるなか、企業文化は今後もさらに変化していく可能性が高く、悪化する可能性もある。
だが改善されたと受け止める人がいる理由のひとつは、多くの職場が従業員の多様性の受け入れなどに関する懸念を真剣に受け止め、新たな取り組みを実施しているからかもしれない。
パンデミックによって、これまで企業が無視することができていた従業員の個人的な事情(たとえば子どもがいる、介護をしている、生活環境に困難を抱えているなど)が表面化したことがその一因だ。

より近くに、でもさらに遠くまで

ある意味で、ロックダウンによって企業の従業員たちはお互いをこれまで以上に理解できるようになったともいえる。
労働者たちはマネージャーを自分の生活の中に招き入れざるを得なくなり、代わりにマネージャーたちは部下と本音で接することを求められるようになった。
同僚の家や犬、子どもや配偶者、伸び放題の髪を見たことで、お互いの距離は縮まった。多くの場合は一人で、しかも仕事やその他の責務をうまく調整しようとしながら脅威に直面していることが、チームの関係をこれまで以上に深めることにつながったとゴームリーは言う。
「『調子はどう?』と聞かれた時、だいたいは『好調だよ、さて会議ではどこまで話していたんだっけ』とすぐにミーティングを始めてきた。でも今は、これまでよりも相手の様子を尋ねるのに時間をかけている。『調子はどう?お父さんの調子は?お子さんはどう?保育士の人は戻ってきた?』という風に」
多くの場所の職場が、複雑な問題を抱えながらも出勤を再開し始めている今、オフィスに戻ることに関して私たちみんなが数多くの疑問を抱えている。
オフィスに戻っても安全なのか、再開後のオフィスはどんな感じになるのか、などといった疑問だ。さらに次の段階として、ロックダウン中にもたらされた「これまで以上に近い関係」が今後も続くかどうかという疑問がある。
今もさまざまな規制が敷かれているため、職場の文化や人付き合いがすぐにパンデミック以前の水準に回復する可能性は低い。同僚とビールを飲みながらだらだら過ごす機会は減るだろう。
だがみんな一緒にオフィスに戻る時が来たら、その時はオフィスがもたらしてくれるものに改めて感謝しながら同僚と夕食を楽しむことができるかもしれない。
そしてその結果、私たちは以前よりも寛大な心を持ち、やさしくなり、多様性を広い心で受け入れるようになっていることだろう。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Cassie Werber、翻訳:森美歩、バナーデザイン:月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.