【西口一希】これからの勝ち筋は「ニッチ」にしかない

2020/8/29
NewsPicks NewSchoolでは、10月から「スタートアップグロース戦略」プロジェクトを始動。リーダーを務める西口一希氏は「スタートアップは素晴らしい事業やプロダクトを生み出しているにもかかわらず、そのポテンシャルを100%発揮できていない」と指摘する。なぜ多くのスタートアップは、大きくグロースできないのか?その真因を探った。(全4回)
【西口一希】なぜ御社はマーケティングでつまづくのか

キャズムの超え方

――そうすると、平成以降、令和のブランドは、どうやったらある種のキャズムを超えられるんですかね?
明確な答えはないですが、一つわかっているのは、「本当に独自性がないといけない。代替品や競合品と比較優位でしかない既視感があるものは、あっという間に忘却される」ということです。
ただ、既視感がない独自性は、その誕生時点において、すごくヘンテコなんですよ。だから、そのカテゴリーやマーケットに詳しい人やベテラン経営陣から見れば「成功しない匂い」「ダメな感じ」が絶対するはずです。
その文脈で言うと、最近のスタートアップは、何か聞いたことがあるようなビジネスを手掛けているところが多いですよね。
――とくにBtoBに多いですね。
マーケティングオートメーションが流行すると、みながいっせいにマーケティングオートメーションやったり、マッチングが流行すると、みながマッチングをやってみたり。
西口 一希/Strategy Partners 社長、M-Force 共同創業者
――ただ、ぶっ飛んでれば、ぶっ飛んでるほど、ニッチで終わってしまう可能性も高くないでしょうか?
ニッチになるかもしれないというのは、裏返すと、独自性だということなんですよ。
それをスケールさせられるかどうかはまた別問題です。独自性をより広い大きな便益に結びつけることで、うまくいく時もあるし、そうでもない時もある。ニッチとして確立できれば、次の段階として、顧客調査をしっかりやりながら、そのニッチが提供できる便益とそれを欲する顧客層を見つけて、投資をしていけばいいと思います。

「認知ブランド×ニッチな提案」

これからの時代は、ニッチと思えることに勝負していくという商品作り、もの作りに回帰すると読んでいます。
独自性のない商品をいかに美しくカッコよく見せるか、広告手段としてのコミュニケーションは、優先順位が下がってくるのではないでしょうか。
商品が独自性を持っていないと、表現としてのコミュニケーションをいかに凝っても、勝負できなくなると思うのです。マーケティングにお金もそれほど使えなくなるはずですし。
――第2回では、「どんなにいいプロダクトを作っても、届かない時代になった」と指摘されていましたが、その流れが変わってくるということでしょうか。
【西口一希】老舗ブランドに、チャンスが生まれる
いえ、そういうことではありません。
要するに、昔は、より便利、より安い、より早いといった、比較級で改善したプロダクトやサービスであれば、バズって売れたんです。
しかし、今の時代は、既存プロダクトとは比較できないくらいの、絶対的な何か新しい要素がないと話題になりません。それぐらい、顧客の積極的な取捨選択が激しくなる。
だから、これからのプロダクトは、ヘンテコなもの、一見変なもの、エキセントリックなもの、そういう要素が含まれてないといけません。
パッと聞いた感じだと、ニッチだと思えるようなものでないと通用しないのです。
もう一つのトレンドは、第2回でも話した認知ブランドの復活ですね。
認知ブランドをどう復活させるか、どの認知ブランドに、どんな新しいサービスを展開するかというのは、ニッチな提案ともつながります。
「認知ブランド×ニッチな提案」という組み合わせが、大きなトレンドになり、いちばんの勝ち筋になると思います。
――新しいブランドを創るのはできるだけ控えたほうがいいということですね。
経営者やマーケッターは、どうしても「既存のブランド以外を創りたい」という気持ちが出てしまうところがある。
「自分で新しいものを創りたい、レガシーを残したい」というエゴと言うか、本能のようなものがある。
しかし、私が関わるクライアントが、すでに一定のブランドがあるのに、新しいブランドを立ち上げようとする場合は必ず止めています。既存ブランドに起因するネーミングや、その派生で展開したほうがいいとアドバイスします。
認知ブランドというのは、言い方を変えると、お客さんの心の中に、何らかのイメージや言葉が残っているということです。
そうした資産、本来の意味でのブランドエクイティを再発掘し、事業やビジネスを構築するという発想が大切です。
ゼロからブランドを創る場合は、非常に強い独自性と便益がなければ心に入らないので、超ニッチに尖らせていく。
矛盾めいて聞こえるかもしれませんが、最終的に広げるために、ニッチから絶対に逃げてはだめだということです。ニッチじゃないと、絶対広がりませんから。
――始まりはニッチですね。
もちろん、ニッチで始まり、ニッチで終わる可能性もありますが、そのリスクをとってでも、ニッチにいった方がいい。
とくに、認知ブランドを持っていないスタートアップは、ニッチ一本勝負だと思います。
――最初にニッチを創るときは、リサーチなどはせずに、自分の思い込みで突っ走っていいのでしょうか?
いいと思います。リサーチしてもいいですが、最終的に一人に絞り込んだものにしたほうがいいです。
よく「自分の思い込みでしょう」「あなたが欲しいだけでしょう」という話が出ますが、それでいいんですよ。
強烈にニッチであれば。自分だけが気に入るものを創ると、それをいいと言う人が、必ず世の中に10万人、100万人、いたりするんですよ。
それを創った時点では、その数が、1万人か、100万人か、1000万人か、1億人かはわかりません。
ただ、自分がめちゃくちゃ好き、もしくは自分ではなくても、本当に実在する誰か一人の人がめちゃくちゃ好きというものは、必ずその後ろ側に、同様に反応してくれる何万人、何十万人、何千万人がいるんですよね。
一方、その人にも、この人にも、あの人にも気に入ってもらえるものを創ろうとすると、共感する人は少なくなっていくのです。
自分が好きなものは、世の中で完全に初めてのものである必要はありません。ターゲットとする人にとって、初めてで、独自性があればいいんです。
たとえば、P&G時代の同僚でもある森岡毅さんは、USJのジェットコースターを後ろ向きに走らせてヒットを生みましたが、あれは海外にはすでにありました。
(写真:ManunNgueampha/iStock)
それを、非常識だ、うまくいくわけないなどの非難覚悟で日本で初めてやったことが、圧倒的な独自の便益になったんです。
ソフトバンクのタイムマシン経営も全く同じです。日本にヤフーやグーグルやアマゾンが当時はなかったからこそ、独自価値のあるものに見えたわけです。
そうした、ニッチの種はきっと世界中にあります。その意味では、どこかの国にあるものを日本でいきなり導入するというやり方は、いまだに有効だと思いますよ。
ですから、今は世界70億人の全員にチャンスがあります。自分の手元にないもので、いいものを見つけたら、それを自分で作ってしまえばいい。
以前はお金を持っている人が、広告枠を買って勝つという時代でしたが、その方法が機能しにくくなっています。
個人でも、プロダクトのアイデアを突き詰めれば、一時的に勝てる可能性はある。
ただ、0→1で成功したら、すぐに競合が摸倣してくるので、いちはやく1-10、10-100、100-1000とスケールするために、マーケットの顧客構成をしっかり見極めて顧客セグメント別のマーケティングを強化すべきなのです。
その時も、やみくもにテレビCMを打つのではなくて、第1回で説明したように、きちんと顧客の構成である戦略マップを創って、戦略的にスケールさせていくことが大事になるのです。
※明日に続く
(撮影:竹井俊晴、デザイン:九喜洋介)
NewsPicks NewSchoolでは、10月から「スタートアップグロース戦略」プロジェクトを始動します。スタートアップを成長に導く、「顧客起点の戦略」を実践するためのリアルコンサルティングプロジェクトです。詳細は以下の画像をタップしてご確認ください。