【3人制バスケ】五輪延期後の我慢、際立つ競技のポテンシャル

2020/8/31
スポーツ界に大きく影響をもたらした東京五輪の延期。「新競技」の選手・運営陣にとっては、一層大きな試練となった。
現役Bリーガー、公認会計士、経営者などマルチに活躍する岡田優介が注力する3人制バスケットボール(以下、3x3)も、大きな煽りを受けた新競技の一つだ。
2014年にプロリーグ「3x3.EXE PREMIER」が発足して以降、3x3は若者を中心に拡大してきた。そんな中で立ちはだかったコロナウイルスと五輪の延期だが、岡田は「今はチャンスだ」と話す。
コロナ禍の今も攻めの経営を貫く岡田に、今後の戦略と3x3が持つ可能性を聞いた。
岡田優介(おかだ・ゆうすけ) 1984年、東京都生まれ。B2のアースフレンズ東京Zに所属。09年、日本代表初選出。選手として活躍する一方で10年には公認会計士試験に合格。13年に一般社団法人日本バスケットボール選手会を設立し、初代代表理事に就任。新日本有限責任監査法人にて非常勤勤務、会計塾講師、3x3チーム「TOKYO DIME」代表、スクール経営、執筆、講演など、活動は多岐にわたる。

露出なし月謝なしでも「今はチャンス」

──2014年に「TOKYO DIME」を立ち上げてから6年経ちました。これまでの成長をどう見ていますか。
岡田 元の規模が小さいこともあり、初年度から比べてかなり成長しています。当初は事業にする気がまったくありませんでした。3人制バスケは新しい競技で、オリンピック種目になることも決まっていなかったですからね。3人制バスケを盛り上げることでバスケ全体も盛り上がればいいと思って、(共同オーナーを)引き受けました。
設立当時はまだBリーグもできていなくて、男子バスケのトップリーグはbjリーグとNBLがバラバラに活動していたんです。そこに3人制バスケができたこともあって、ストリート出身の選手やbjリーグの選手、NBLでプレーしていた選手も連れてきました。
「リーグはバラバラに行われているけど、選手は一つだよ」と。Bリーグより先に、3人制バスケは一丸となっているというメッセージを残したいなと思ったんです。
──新型コロナウイルスの感染拡大に伴う東京五輪の延期は3x3全体、チームの経営にどんな影響を与えていますか。
岡田 影響は結構ありました。東京オリンピックをずっと目指してきましたからね。どこもこの夏に価値が上がることを想定していましたし、特にうちのチームにはオリンピック候補選手もいて、あとは本番を待つだけでした。
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直前のオリパラ関係のイベントもオファーがかなりありましたが、全部キャンセルになりました。メディアの露出も増えてきたなか、それも丸っとなくなった。
スポンサーさんの業績も少し悪くなったり、かなり影響がありました。加えてスクールが停止になって、2カ月間、月謝が入ってこない。ビジネス的には打撃をかなり受けました。
──コロナの影響は数年続くと予想されます。この先の経営戦略をどう考えていますか。
岡田 「他のチームが何も活動できていないなか、逆に積極的に活動できたらプラスだよね。ここで攻めよう。今はチャンスだよね」という話をずっとしています。
3、4月は資金繰りや、国の支援制度の活用に奔走しました。そこで、売り上げが2年くらいゼロでも今の体制を維持できる資金を確保することができたんです。
足元を整えた上で、僕は常々「一度きりの人生だから挑戦すること、全体をよくしていくこと、誰かから感謝されることをやっていきたい」と思っているので、バスケットボール界をよりよくできるような新しい取り組みを進めていきました。ただし、借入資金によるものが大きいので、返済スケジュールを考えつつ長期的に稼ぐことが前提です。
──新しい取り組みとは、どんなことですか。
岡田 練習試合をライブ配信したり、Zoomを使ったファンイベントや、パーティーみたいなことまで、オンラインでできることは全部やりました。今では当たり前のようなことも含めて、少なくともバスケ界では、TOKYO DIMEが初めてやったことがたくさんあります。
新しいビジネスモデルへのチャレンジもしていて、7月15日にはリモートマッチを開催して、チケットを1000円で販売しました。有料チケットでの配信はバスケ界で初だと思います。
──反響はありましたか。
岡田 アンケートをしましたが、評判はすごくよかったです。今後2回、3回と続けていくことで、スポンサーの見込みも立ちますし、収益化できそうな気配が見えています。
こうやって新しいチャレンジをしていくと、見ている人は見ているので、いい出会いもあります。思ってもみなかった話が来たこともありました。
──どんな話がありましたか。
岡田 渋谷のセンター街のど真ん中にある店舗が1カ月空いたらしく、お付き合いのある管理会社から「そこでイベントをやりませんか」という話をもらいました。「営利でなくてもいいので、地域のために何かしませんか」と。
TOKYO DIMEは以前から社会貢献活動をしていたので、SDGsに沿ったところで社会貢献活動を再定義してやろう、と。
店舗の空き地を10日間くらい借りて、お付き合いのあるスポンサーさんの商品を売ったり、SDGsの啓発活動をして寄付をしてもらったり、子どもでもできる簡単なバスケットボールゲームで高得点を出したら参加賞をあげたりしました。
加えて、渋谷の飲食店さんに「ここでランチを売っていいですよ。こちらはお金をいただかないので、場所をご自由に使ってください」とお声かけをしたり。
イベントの収益は渋谷区社会福祉協議会に寄付しました。微々たる金額ではありますが思いがけず感謝状まで頂き、地域との結びつきがより広がりましたね。

なぜ3x3がおもしろくなっていくのか

──改めて、3x3が拡大していく戦略をどう考えていますか。東京五輪は開催自体も不透明な状況です。
岡田 拡大していくために重要視しているものの一つが、SNSです。例えばTOKYO DIMEのYouTubeチャンネル登録者数は、Bリーグを含めて国内バスケ界で3位。TikTokは1位です。
プロスポーツは一つの娯楽です。なので、みんなが注目している分野やツール、プラットフォームには常に敏感でいないといけない。それがどうビジネスに変わるかは、後から考えればいい話です。
あらゆるツールを活用して3x3をもっとメジャーにしていって、バスケ界全体で見たときにも「すごい勢いがあるよね」となるように。まだまだいろんなことをやれると思っています。
──3人制バスケは試合展開がスピーディーで、コートが小さいからスマホでの視聴に向いていると言われます。日本での認知はまだそれほど高くないですが、今後のポテンシャルは高いですか。
岡田 高いと思います。コンパクトスポーツで、1チームに4人いれば成り立ちますからね(同時にプレーするのは1チーム3人で、交代要員が1人)。
今、Bリーグの可能性として言われていることの一つが、「抱える選手の少なさ」です。1チームに12人いればいいので、コストがサッカーほどかからない。アリーナも5000人や1万人規模で十分だという点が注目されています。
3人制バスケはさらに小さい規模でいいので、もっと可能性がある。参入障壁が低く、うまくやれば、少ない人数で効率的に稼ぎ出すことができると思います。
女子日本代表チームは、2018年のアジア選手権で銀メダルを獲得している。
──では今後競技として発展していく上で、どんなことが必要ですか。
岡田 選手が稼げるようになるのが一番だと思います。
Bリーグより稼げると大きく変わってくると思いますね。「3人制のほうが稼げるなら、自分もやろう」となるだろうし。そこが手っ取り早いと思いますね。
──現状、稼げるのでしょうか。
岡田 いや、稼げていないです。ただし世界を見れば、稼いでいる選手はいます。テニスやゴルフのツアーみたいに、うまい選手は賞金を稼げるんですよ。
そして今後、3人制バスケの大会の数が増えていけば、もっと賞金を稼げるようになりますし、5人制とは別のビジネスモデルができていきます。
5人制ではクラブと契約して年俸という形で支払われますが、3人制では、クラブから払われる年俸と大会での賞金が半々くらいになってくると面白いんじゃないかなと考えています。
数多く大会に出て賞金を稼いだり、「俺はデカイ大会に懸ける」という人がいたり、いろんな稼ぎ方ができてくると思います。
まだ大会をつくっていく段階ですが、これから大会数が増ていけば本当に面白くなると思います。
──TOKYO DIMEは昨年、日本国内だけでなく韓国リーグにも参戦しました。どんな目的がありましたか。
岡田 目的は二つありました。一つが選手たちのFIBAランキングポイントの獲得。国際大会で獲得したポイント数で、オリンピックの出場権を決められるんです。
もう一つは海外への挑戦です。僕たちの目標は「世界一のチームをつくる」ことです。3x3のおもしろいところに、世界に近いことがあります。今のところ、5人制に世界一のクラブを決める大会はありませんが、3人制にはクラブ別世界選手権(FIBA 3x3 World Tour)があります。
いつか世界一になる、世界に挑んでいく一歩目だと思って、韓国リーグに参戦しました。
国内では3x3全体を引っ張る位置にいると思っているので、バスケ界全体としっかりとリンクして、世界への挑戦もし続けて、もっと大きな存在になれればと考えています。
国別世界ランキングで日本は男子が12位(207カ国中)、女子が4位(171カ国中)と、上位にランクインしている。(2020年4月1日時点)

35歳、ワクワクする選手兼事業家

──岡田さんの活動を10年単位で考えると、今後も「国内バスケの発展」を最上位に置いて活動していくのですか。
岡田 ちょうど今、立ち止まって考えている時期です。ここ10年くらい、ビジネスを始めてから突っ走ってきて、今は分岐点にいると思っています。
コロナの自粛期間中、すごく時間があったので、「10年、20年後、自分はどうしたいんだろう?」と、いろんなことを考えました。
周りからは、「岡田さんは選手をやりながら、事業などいろんなことをやってすごいですね」と言ってもらいますけど、自分のリソースをだいぶ割かれているのは事実です。事業をもっと大きくするなら、コミットする必要がどこかで出てくる。
これからも国内のバスケ界を盛り上げることは続けますけど、もうちょっと大きなことをやりたいと思っています。
バスケは本当に好きだけど、「自分にはバスケしかない」ということではないので。何か楽しいこととか、自分が没頭できることが見つかれば、それをやる可能性もあると思います。
──プレーヤーとしては今季からB1ではなくB2のクラブに移籍しましたが、3x3を初めとしたビジネスに注力するための動きでしょうか。
岡田 3x3を拡大することへの思いは強いですが、プレーの質を落としてでもビジネスに注力する、という考え方ではありません。
まだまだ選手としてB1トップレベルのチームでも活躍できる力があると思っています。ただ今回は自分の中で条件があって、照らし合わせた時に東京を離れるだけのオファーがなかった。
35歳といい年齢なので、一度出身地である東京に戻って、たとえ無所属になってもいいから、いい話が来るまで焦らず待とうと考えていました。
そんなタイミングで、B2のアースフレンズ東京Zからいいオファーをもらいました。求められているのは、B2にいるチームをB1にどれだけ近づけられるか。それは選手として、1回トライしたいと思っていたことです。
──2017年に取材した際、日本代表や東京五輪を目指したいという話をしていました。歳を重ねればいろいろ変わってくると思いますが、今後の現役生活についてはどう考えていますか。
岡田 2017年くらいは本当に東京オリンピックに出たくて、最後のチャンスだと思っていました。B1で結果を出せば、京都をチャンピオンシップに導き、主力としてファイナルに進めることが出来たら、可能性はゼロではないと考えていました。
ですが今、現実として難しい状況にあることは理解しています。
「B.LEAGUE ALL-STAR GAME2018」の3ポイントコンテストで優勝した岡田。Bリーグ開幕以降3年連続でコンテストに出場した。
でも誤解してほしくないのは、今、プレイヤーとしてのモチベーションはめちゃくちゃ高いということ。
京都での最終年度は選手生活で初めて手術をして、ほとんど試合に出ていません。その一方で、今年は京都での1、2年目みたいに長い時間プレーできると思うので、ここ数年の中で一番モチベーションが高いです。
チームからも期待されていると感じるし、開幕に向けてめっちゃ準備しています。
東京に帰ってきたのも5年ぶり。環境が変わって、きっとまた新しいことが始まるんだろうなと、すごくワクワク感があります。
5人制のアースフレンズでは、絶対結果を出したいですね。その中で自分の方向性とか、ビジネスも含めて今後に向けてやりたいことが出てくると思っています。
(執筆:中島大輔 編集:日野空斗 デザイン:黒田早希 写真:TOKYO DIME、アースフレンズ東京Z、B.LEAGUE、GettyImages)