2020/8/25

【最先端】トップアスリートはどうやって「水分」をとっているか

黒田 俊
SportsPicks編集長
暑さに負けない。
うだるような暑さが続く。仕事の意欲やパフォーマンスは下がりがちだ。
それにしても「もし予定どおりに東京五輪・パラリンピックが行われていたら」どうなっていただろう。
「環境温度が高いと、それが低い場合と比べて、深部体温(身体内部の体温・直腸温)や筋肉の温度が高くなるという研究結果が出ています。ここではそれが過度になると運動の継続可能時間が大幅に短くなり、運動能力が低下すると示されているんです」
そう指摘するのは国立スポーツ科学センター・センター長の久木留毅氏。国立スポーツ科学センターは、日本におけるスポーツのトップ科学研究機関であり、オリンピックやパラリンピックに出場するトップアスリートをはじめとした、アスリートの国際競技力向上の支援を行っている。
年々激しさを増す「暑さ」はアスリートのみならず、ビジネスパーソンのパフォーマンスにも大きな影響を与える。その中で、熱中症といった健康管理の観点はもちろん、きちんとした暑熱対策を行い、仕事の効率を上げることは大きなメリットになる。
冒頭の問、もし予定通りに東京五輪・パラリンピックが開催されていたら? トップアスリートはそのために最新科学に基づいた「暑熱対策」を行っている。
その取り組みの中で、ビジネスパーソンにも役立つ「理論」と「方法論」を久木留氏に紹介してもらう。
久木留毅(くきどめ・たけし)日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター・センター長兼同ハイパフォーマンス戦略部部長/専修大学教授。1965年和歌山県生まれ。和歌山・新宮高校でレスリングを始める。1992年にサンボ日本代表として世界選手権3位に。筑波大学大学院にてスポーツ医学博士を取得。2012年のロンドン・オリンピックまでレスリング日本代表コーチ兼テクニカルディレクターを務める。2016年より日本スポーツ振興センターハイパフォーマンス戦略部部長、2018年より同国立スポーツ科学センター・センター長を兼務する。(写真:日本スポーツ振興センター)
過度な暑さがパフォーマンスを低下させるのは知られていることです。
特に、今夏のようにこれだけ暑いと健康リスクも高まります。アスリートのみならず身体について正しく知る必要がある。
ここでは暑さによる健康リスクへの対処と暑い中でいかにパフォーマンスを良くするか、という二点に分けてお話ししましょう。

脱水状態を見分ける3つのポイント

「脱水症状」であるかどうかを自分で見分ける方法があります。
陸上競技に関する多くの研究から導き出された「水分補給状態」を把握する指標ですが3つのモニタリングを行うポイントがあり、(1)「体重の減少」、(2)「尿の色」、(3)「喉の渇き」になります。
脱水状態を見分ける3つのポイント
(1)体重の減少
体重が減りすぎていると水分を取っていない状態と言えます。
(2)尿の色
腎臓の働きによって、尿の水分量が減少していると、尿の色が濃くなります。ただ、ビタミン入りサプリメントやドリンク、薬などを摂取すると尿は黄色くなるので注意が必要です。
(3)喉の渇き
喉が乾いているということは、水分が不足している信号とみていいでしょう。
「体重の減少」については「モニタリングした上でベスト体重を知る」ことが重要です。これについては後述します。
ニつ目、「尿の色」についてはIOC(国際オリンピック連盟)が出している研究結果「nutrition for athletes」で具体的な色が示されています。
毎朝起きたら、(1)体重を測定して体重の減少、(2)尿の色、(3)喉の渇きを確認する。この3つのチェック項目のうち、2つ以上いつもと違う場合は脱水の恐れがあります。
その場合、適切な水分補給を行う必要がありますが、水分補給は多ければ多いほど良いというわけではありません。
成人男性の体の約60パーセント、女性の55%は水分でできています。日常的に人は汗、尿、便、皮膚から蒸発、吸気などにより、1日に約2.5リットルの水分を失われています。これらの「失われたものを補う」ことが基本的な水分補給の考え方です。
加えて、今夏のような酷暑では、体温調節のために多く汗をかきます。その失われた分も取らなければなりません。

「失われたもの」を補うが基本

では、何をどのくらい取れば良いのか。