職場の分散化が進むなか、リーダーたちはチームの人員配置が生産性にどう影響するのか、さらには長い目で見た従業員のやる気や幸福感にどう影響するのかを考慮に入れる必要がある。
一部の人は近いうちに、オフィスに戻ることになるだろう。一方でそれよりも多くの人が、ロックダウンが続いていることや、ソーシャル・ディスタンスを確保すべきなかでテクノロジーによって新たな、より柔軟性の高い方法を試すことができるようになったことから、在宅勤務を続けることになるだろう。
私たちは今やキッチンのテーブルで仕事をするのにも慣れたし、Zoomで会議を開いたり、ミロ(Miro)のオンライン・ホワイトボードを使ってブレインストーミングをしたりするのも当たり前になっている。
従業員の一部、あるいは全員がオフィス通勤を再開したとしても、全員がリモートワーク(在宅勤務)を続けていると想定して仕事を進めることで、リーダーたちはこの期間に学んだ最も有益な知識や教訓を持続させ、最善の行動を維持することができる。
そのために留意すべき4つのヒントを以下に紹介しよう。

1.古いパターンを繰り返さない

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前は、多くの人が半分散型のチームで働いていた。Slack(スラック)は10カ国に16の事業所を持っており、従業員たちは既に、時差のある国や地域にいる世界中のチームメイトと、定期的にやり取りをしてきた。
だがほかの多くの企業と同様に、当社でもリモートワークに移行する中で、古くからある問題が浮き彫りになった。従業員たちは結束できる感覚や一体感を求めたが、全員が同じ場所で働けないとそれは難しいのだ(当社の最近の調査で、知識労働者はリモートで働いていると、ほかの人とのつながりがひどく足りないように感じることが確認された)。
全員が同じ場所で働くという昔ながらの設定は、共同作業を行うには最適かもしれないが、今では全員がばらばらでも効果的に仕事ができることが分かっている。最も難しいのは、その中間の状態だ。
私の経験では、最も難しいのはチームのうち1人か2人を除く全員が同じ場所で働いている状況だ。この場合、リモートで働いている人々が孤独を感じるようになることが多く、また意思の疎通がうまくいかない可能性も高くなって、チームとして何かを達成するのがより難しくなる。
Slackでは創業当初、チームがサンフランシスコとバンクーバーという同じ時間帯の2つの都市に分かれた時に、こうした例が多くみられた。
従業員がオフィスに戻って来るようになった時に気をつけなければならないのが、こうした古いパターンを繰り返さないようにすることだ。分散化されたチーム全体のプロセスを改善し、期待値をより明確にし、文化基準を強化することで、全員にとって公平な条件をつくり出す必要がある。

2.「つながっている」感覚を築き、維持する

我々の調査では、新たにリモートワークを始めた人の半数近くが、帰属感が損なわれた感覚を覚えると報告しており、これに対して既にリモートワークの経験がある人のうちそう感じた人はわずか25%だった。
この「帰属感が損なわれた感覚」が「つながっている感覚が薄まったこと」の結果であることは間違いない。
その喪失感を埋めるのに役に立つのがテクノロジーだ。チームでバーチャル行楽をしたり、同僚(人選はランダム)とバーチャルでコーヒーを楽しみながら交流する予定を立ててくれるDonut(ドーナツ)のような、手軽なアプリを活用したりすることも可能だ。
テクノロジーには、人々の自己表現を手助けするという、よりソフトな役割もある。仕事のツールというと、おそらく純粋に生産性を高めるものを思い浮かべるだろう。それは常に重要なことだが、Slackの従業員の間では、もっと心の通った、直接的な方法でコミュニケーションを取りたいという声が増えている。そしてそうしたコミュニケーションこそが、つながっている感覚や目的意識を真に高めるのだ。
そこで使えるのが絵文字、リアク字(Slack内のメッセージに迅速に返信するのに使える絵文字リアクション)やGIFで、これらを使うことでコミュニケーションに(文字では伝えられないことが多い)簡潔さや気楽さがもたらされる。
パンデミックの発生以降、より多くの仕事がリモートで行われるようになるなか、Slackでは独自のリアク字の使用頻度が以前の1.8倍に増えている。
当社では従業員がつながりを築き、維持するのを手助けするために、従業員リソースグループ(ERG)も推進している。ERGはSlackのコミュニティセンターで、LGBTQ、女性、有色人種などさまざまな人のためのグループがある。そうしたコミュニティのための場所をつくることはSlackの文化の中核であり、リモートワークであれオフィス勤務であれ、今後も従業員が平等にそれに参加していけるようにすることが重要だ。
Out(LGBTQの人々のERG)は今年、どのようにプライド月間を祝うべきかについて、クリエイティブな思考を迫られた。彼らはオフィスに集まる代わりに、ゲストを迎えて楽しく会話したり詩を朗読したりするバーチャルな集会を計画し、誰でも気軽に質問してお互いをより良く知るためのイベントを開催したりした。

3.バランスと柔軟性をサポートする

また在宅で仕事をしている多くの従業員が気づいたのが、ワークライフバランスを達成するのが以前よりも困難だということだ。私は朝夕の通勤時にオーディオブックを聴くのが大好きだが、通勤時間がなくなったことで、これまでよりも早い時間から遅い時間まで仕事をするようになり、オーディオブックを聴く機会も減っている。
この「仕事中毒」の問題に対処するために、Slackではリモートワークに関するガイドラインを発行し、リモートワークへの移行にあたってチームの支援を行うために、ウェビナーなどを提供するリソースセンターを用意した。
各部署のマネージャーには、早朝や夜、昼食時のミーティングを避ける、Slackに席を外していることを示す「不在(away)」のステータスを設定する、就業時間が終わった後はメッセージへの反応を期待しないなどの提言を行った。
いずれ一部の従業員がオフィスに戻ることになるが、その後も「いつ仕事に対応できるか」に関する健全な境界を設定していくことが重要だ。

4.目標と責務を明確にする

Slackのリーダーとして、各チームの職務内容を明確にすることが、私の重要な役割のひとつだ。従業員の一部がリモートワークを今後も続けていくなか、この役割はこれまで以上に重要になっていく。
当社の米国内での調査によれば、チームの目標に熱心に取り組む意欲がある労働者の3分の1近くが、オフィス勤務よりも在宅勤務が好ましいと考えている(チームの目標とのつながりを感じられない労働者の場合は18%だった)。
だから、従業員といかにコミュニケーションを取ることができるかを考えよう。Disco(ディスコ)やStanduply(スタンダプリー)、あるいはベーシックなビデオコールなどのツールを活用して、目標や期待値、障壁について徹底的に話し合おう。
Slackでは「非同期型」のビデオツール、Loom(ルーム)を活用してうまくコミュニケーションを取っている。Loomを使えば、スクリーンショットの録画やビデオクリップを作成し、それをサーバーにアップして仲間と共有して、相手の都合のいい時間に反応をしてもらうことができる。
さまざまな種類の動画やメッセージを作成できることに加えて、立て続けに行われる会議やビデオ会議の疲れを軽減するための手段にもなる。
チームや主要なプロジェクトのDRI(直接責任者)を明確にするなどの、一見単純に思える戦術を軽視してはならない。
DRIはプロジェクトを前進させるのを助け、チームメイトからの個別のアップデートを得るために必要なフォローアップの量を減らしてくれる。(Slackを使っている人は、チャンネルのトピックに適任のDRIと関連の組織図を固定表示することができる。こうすればチームメイトは、誰に支援を求めればいいのか、疑問の答えや決断を仰ぐ時に誰に聞けばいいのかが分かる)。
今後、ワークライフへの万能のアプローチが出現することはもうないだろう。そのことを認めよう。だが同時に、テクノロジーを活用してお互いの固い絆を維持していこうではないか。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Cal Henderson、翻訳:森美歩、バナーデザイン:月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.